見出し画像

お父さんの親友のクボタさん

前記事にも書いたが、
私の父は2019年11月に亡くなった。
肺がんだった。

肺がんが発覚してから、1年半くらいで
亡くなってしまった。
あっという間だった。
これまでの私の人生で、1番想定外の出来事だった。

父とはそれなりに揉めたりもしたけど、
私にとっては家族思いで
とっても優しい父親だったと思う。

父はおしゃべり好きで、
めちゃくちゃ人当たりが良かった。

とにかく家族だけじゃなくて、
周りの人を大事にする人だった。

通夜の時に、
父のために何百人もの人が
弔問に来て、涙を流している人を見て、
本当に父は「誰からにでも好かれる人」
だったんだなあと思った。

皮肉にも、
父は誰からでも好かれる人だったからこそ
気苦労も多かった。

人が好きで、
人に尽くしすぎる人柄だったからこそ、
早く亡くなってしまったんだろうなとも
娘ながらに思ったりする。

そんな父には沢山の友達がいた。

その父の友達の中の1人に、
「クボタさん」という人がいる。

クボタさんは、
父の地元の先輩で、親友でもある。

父からも生前、
クボタさんの名前は聞いていたし、
たまに会ったりしているのも知っていた。

ただ、私とは挨拶をするくらいの関係で、
深く話したこともないし、
なんなら、父の親友と名乗っている割には、
私たち姉妹に、おもちゃとかお菓子とかを
買ってもらった記憶もない。

ただ、このクボタさん、
めちゃくちゃキャラが強烈だった。

それが発覚したのは
まさかの父の通夜・葬儀の時である。


クボタさんは、父の通夜から参列してくれた。

クボタさんは、私たちに会うや否や
普通の人と同じように
「この度は〜」とお悔やみの言葉をくれた。

母が、私たち姉妹に
「この人がクボタさんだよ」
と教えてくれたので、クボタさんだと気付いた。

そしてクボタさんは控え室の方に去って行った。

お焼香が終わり、
私たちは、慣れない通夜という式に、
辟易しながらも、
その足で、親族控え室に向かった。

親戚のおばさん、おじさんが
談話しながら、食事をしている。

次の瞬間、目を疑う。
その1番真ん中に、なぜか!
クボタさんがいる!!!!笑
なんでいるの!!?!?

あまりにも自然に溶け込み過ぎて、
気づかなかったが、
もう食事を済ませている!!!!笑
なんならめちゃくちゃ寿司食べてる!!

母は喪主なので、部屋に到着すると、
もう挨拶回りを始めていた。

通常、通夜のこういう場って、親族しか見かけないけど、お母さんが喪主だから、馴染みがあったクボタさんも呼んだのか、と思って、
私も自分の席に着いた。

挨拶を終えた母が来たので、
「クボタさんも残ってもらったんだね」と言うと
「えっ!?!?クボタさんいるの!?」と
めちゃくちゃ驚いた表情で言っていた。 

母は続けて
「クボタさん、そういうところあるのよ」と
あたかも、クボタさんなら仕方ない感満載で、言っていた。

クボタさんは、この場が、暗黙の了解で、
親族限定の場ということを知ってか知らずか、
引き続き、平気で飲み食いしている。
なんなら親戚と談笑までしている。

私が逆の立場だったら絶対できない。
めちゃ強靭メンタルの持ち主だなと思った。

そろそろお開きになったころ、
私たちは帰路に着く親戚に挨拶をしていた。

そういえばクボタさんどこ行ったの?
と思って見渡してみると、どこにもいない。

えっ?もう帰ったの?早くない?
いつの間に??

私の頭の中は?だらけだった。

帰りがてら会った親戚の1人に
「真ん中のほうに座ってた男の人、見たことないんだけど、あれは誰だったの?」と聞かれた。

ほらー!疑問に思ってる人いるじゃーん!笑

「お父さんの親友のクボタさんです」と答えると、
「えっ?〇〇家の人じゃないの?」と
完全に親戚の人と思われていた。

初見で、その馴染み方すごくないか??

親戚を見送り、
私たちも会場から家に帰ろうとした時、
どこから来たのかクボタさんが
「今日はありがとうございました。明日も宜しくお願いします」と言って帰って行った。

ええええ!!!?
どこにいたの?今まで!
お開きになってから時間かなりあったよね?
えーもう不思議だわー!と思った。

次の日、葬儀、火葬。
クボタさんも相変わらず来てくれた。

葬儀は滞りなく終わり、
親族のみで火葬に行くことになった。

火葬場は別の場所にあるので、
葬儀の会場からバスに乗って移動する。

バスに乗る前には、親族以外の人とは、
ここで父と、最後のお別れになるということで、
みんなかなり泣いていた。
私たち家族も目を腫らすほど泣いていた。

そして、バスに乗って火葬場へ。
職員の人が「ご親族の方はバスへお乗りくださーい」と何度も案内している。

「ご親族の方は〜」と紛れもなく、はっきりと何度も言っていた。

私たちは遺骨を持って自分たちの車で、
火葬場に向かうため、バスを見送っていた。

見送る際に、
バスの中の様子もボーッと見ていた。

すると、バスの最後尾の真ん中の席に、
クボタさんが乗っているではないか!!!

えっ!?なんでなんで!?
待って待って!?
確実に、「ご親族の方は〜」って言ってたよね!?!

なんなら、クボタさん、
外の私たちに向かって、手振ってるし。

いやいやいやいや!!えええ!?

この状況を同じく見ていた、お母さん、妹たちと瞬時に顔を合わせ、
「今、クボタさん乗ってたよね!?」と言った。

その瞬間、みんなで爆笑した。

さっきまで、葬儀で、目を腫らすまで泣いて、
顔なんか、ボコボコにやられたボクサーみたいになっていて、
この世にこんな悲しいことってあるんだ、
人が死ぬのって、悲しいことのMAXなんだなと
感じていたのに、不意打ちクボタさんに、思わず爆笑してしまった。

お母さんが嫌味でもなんでもなく
「こんな時でも人間笑えるんだね」と
言ったのを鮮明に覚えている。

その時、改めて私も
面白い、笑うって、人生で本当に大事だな。
これを生きてく上で大切にしようって思った。

火葬場に着いたら、相変わらず、
クボタさんは親族風を装っていた。

火葬後の談話、食事も楽しそうに過ごしていた。
なんなら、昨日の通夜から心が通じあったのか、
親戚のおじさんと、めちゃくちゃ仲良くなっている。
多分、側から見たら、完全に親戚の人だったと思う。

会がひと段落して、お開きになると、
クボタさんは「お父さんは天国で見守ってるから大丈夫だよ」と私たちに一言言って帰って行った。

その言葉を言われて、クボタさんの色んな面のギャップに驚きながらも、
ふっと心が軽くなった不思議な感覚があった。

帰り際
「クボタさん、マジで不思議な人だったね」と母に言うと、
「クボタさん昔からあんな感じだよ」と言っていた。

詳しく聞くと、
父と母が結婚して、2人で新居に住み始めたばっかりの頃、連続11日、夜の19:00に訪問して、毎日毎日談話をしに来ていたらしい。笑
もちろんアポなしで。

連続11日って!多すぎだろ!笑

父と母も「今日もクボタさん来るのかな?」って毎日気になっていたらしく、
急に来なくなったとき、何かあったのかと思って電話したら、その時に初めて「新婚さんなのに、お邪魔になったら悪いから」って言ったらしい。

気づくの遅くないか?むしろ12日目にどのタイミングで気づいたんだよ!笑

でもお父さんが親友やってたってことは
そういう所も含めて好きだったんだろうな。

あんなにみんなに慕われていたお父さんだけど、
やっぱりこの世から居なくなってしまうと、
人々の記憶からも、居なくなってしまうわけで、
この世に生きている人にも、
それぞれの日々の生活があるから、
こればっかりは仕方のないこと。

だけど、クボタさんは絶対、
月命日にお線香を上げにくるらしい。

これって地味だけど、
すごいことだなあって尊敬する。

クボタさん。

あなたのおかげで、
本当に辛い時でも、
日常のふとした笑いを思い出せた。
ありがとう。

お父さんは、あなたのことも見守ってるよ。
死んじゃっても、お父さんと親友でいてね。
それで、元気に長生きしてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?