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【ホラー映画レビュー③】呪怨(2000~2003)

【ホラー映画レビュー③】呪怨(2000~2003) 82点

完全に個人の感覚となるが、自分は怨霊系ホラーがあまり好きではない。なぜなら演出がなんとなくタルいから。日本のホラーは多くこれに類するが、洋ホラーでも呪われた家系や屋敷がテーマのものは退屈だ。
 たいていの場合悪魔・怨霊系ホラーは「探偵型」である。つまりは怪異が起こって、その原因を突き詰めてゆき、怪異の正体が明らかになりクライマックスへ、というスタイルだ。これが一概に悪いわけではない。日本のホラー「リング」などはそれでも面白かった。何より呪いのビデオの出来が秀逸だったし、怪異を探るときも様々な場所を移動したり、探偵パートを飽きさせない工夫があった。「オーメン」もそうだし、しっかり構成されているものや名作と称されるものはたいてい面白い。しかし屋敷系ホラーはたいていその屋敷内で怪異を探索するだけだったりで、画面的にも変化が少なく退屈だ。数年前怖いといわれて話題になった「ヘレディタリー~継承~」もイマイチ乗れなかった。
 どうもこういう作品がテーマの時は、「最後の方まで霊を画面に出さない、断片的にしか画面に映さないほうが怖い」という妙な固定概念にとらわれてしまっているのではないか。画面が人物の後ろから迫ってきて、振り向いたら誰もいない、みたいな演出は正直タルいのである。

 さて前置きが長くなってしまったが、日本のホラーでも「リング」とならび市民権を得ている「呪怨」だ。「呪怨」の概要だが、まずは2,000年に「オリジナルビデオ版」としてビデオ発売され、ごく一部の劇場公開にとどまった。その続きで「ビデオ版呪怨2」も作られた。それらが怖いと噂になり、全国シネマで劇場版の「呪怨」が2003年に作成、公開された。もっともよく知られたものはこの劇場版の「呪怨」である。
ストーリーとしては強い怨念を残して死んだ女性・佐伯伽椰子がその子供とともに霊となる。生前住んでいた練馬区にある家が呪われた家となり、足を踏み入れた人々に問答無用で呪いを伝播させてゆくという、非常にシンプルなものである。ただし、各登場人物の視点から見たオムニバス形式という構成が興味深い。
各作品の概要としては以下のようなもの。

 ビデオ版1:伽椰子とその子俊雄がいかにして悪霊になったか。そしてその家に新しく住み始めた家族を襲う悲劇。
 ビデオ版2:前作のダイジェスト+さらに拡大してゆく呪い。
 劇場版:ビデオ版1&2を振り返りつつ、さらに拡大する呪いを追う。

 自分の呪怨の評価だが、日本のホラーでは「リング」と並び高い。やはり名作といわれるにはそれなりの理由がある。呪怨においては、怨霊系ホラーでも自分が先述した退屈に感じる点がことごとく解決されているのである。それを一つ一つ見てゆこう。

●とにかく画面に出まくる怨霊
 呪怨においては幽霊の出現をもったいぶらせる要素が全くない。ビデオ1作目を除き、割と最初からガンガン伽椰子はその姿を画面上に表す。これは日本のじめじめした怖さを損なうのではないかと思われるが、全くそんなことはない。「幽霊は最後までしっかりとした姿を現さない方が怖い」という固定概念を完全に破壊してくれたのだ。思わせぶりなタルい演出は抜き、とにかく押入れの中から布団の中、近所のゴミ捨て場まで縦横無尽・無重力に出現する伽椰子は視聴者を全く飽きさせないのである。
それではビデオ1作目はつまらないかというと、全くそんなことはない。ある意味プロローグであるそれはとにかく劇薬でじっとりした本当にイヤな感じの作品で、「セブン」「ファニーゲーム」のような救いようのないサイコホラーに近く、違った良さがある。個人的にはこれが一番好きなくらいだ。そして栗山千明がかわいい。本当にかわいい。

●問答無用で外世界を巻き込んでゆく容赦のなさ
 怨霊系ホラーでタルいことの一つに、異常な存在が外界と関わろうとしないことである。例を挙げると、例えばヒロインが裏路地で霊に襲われ、キャーと交番に行く。警察官がその現場を見に行くと何も起こらず、酔っていたんでしょうで終わる。この演出に心当たりがある方は多くいるはずだ。個人的にこの演出が気にくわない。超自然的存在のくせに、国家権力に忖度してんじゃねーよ、人見知りかよとペッと唾を吐き捨てたくなる。
 呪怨は違う。上記のシチュエーションであれば、伽椰子は間違いなく警察官の前にも姿を現し呪い殺す。少しでも呪いの家に足を踏み入れた人や、呪われた人に起きた異常事態に関わりを持った人は絶対に呪い殺すのだ。呪怨はこの容赦のなさが本当にたまらない。
 個人的に恐怖は外世界を巻き込んで拡大する方が面白いと思う。殺人鬼系ホラーの場合は警察官が異常性を察知して駆けつけることが多いが(そして9割方クソの役にも立たず殺されるが)、やはり外界にも異常性が周知される展開はとても面白い。

●オムニバス形式
 この形式も面白さに拍車をかけている。通常の怨霊系ホラー、例えば100分の長さだとすると、だいたい80分くらいは探偵パートになり、その間霊はあまり姿を現さない。その80分間は、よほどうまく構成しなければタルい。
 しかし呪怨はオムニバス形式(短編で30-40分x 3-4場面くらい)、かつ「パルプ・フィクション」のように時系列も入れ替えてあるので、最初から伽椰子がバンバン画面に出てきてもストーリー的に不自然がない。それぞれの登場人物にクライマックスがあるわけだから、各展開の都度その姿や怪異を現してくれて退屈しないで済むのである。

 細かいところは他にもたくさんあるが、このような特殊性で退屈な怨霊ホラーの常識を打ち破ってくれた呪怨の個人的評価は高い。同じく怪異を画面にガンガン出す系のサム・ライミ監督(「死霊のはらわた等」)が絶賛して呪怨をハリウッドリメイクしてくれたのも納得である。続編の呪怨2以降やハリウッドリメイクも、多少コメディ感は増してくるがその特殊性のおかげで悪くはない。
 
 このようにして魅力を述べてみた呪怨、未鑑賞の方は少なくともビデオ版1作目から劇場版までの3作品、順を追ってみてぜひみてもらいたい。何より栗山千明様がかわいい。かわいすぎる。

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