遺伝的革新と文化的革新【進化論】
進化とは「遺伝による性質の変化」を指します。
「遺伝」という要素が重要です。
遺伝によらない変化は進化とは言いません。こんな単純なことから事実がみえてきます。世を見渡してみると、遺伝とは関係のない変化がたくさん生じているということです。
「進化」をキーワードにした論考があふれる現在だからこそ、文化による変化は生物学的な進化とは異なるという基本は押さえておくべきでしょう。でないと進化・文化・進化と文化の関係、どれについても誤解しかねません。
■ 文化による変化は進化ではない
ここ数百年についてみると、世界各地で人間の平均身長が急激に増大しています。日本に関してもここ百年で平均身長は約15センチ伸びたようです。
この変化は進化によるものでしょうか?
「身長が高い男性はもてる」とはよく耳にします(耳にしたくないが)。
どうでしょう。
高身長の男性ほど子孫を残せるからこそ、平均身長が伸びたのか?
答えは否。
平均身長の急伸は、基本的に遺伝的変化(=進化)でなく、公衆衛生の向上や栄養状態の改善などの文化的変化に由来するものです。
遺伝による変化が集団の性質を変えるには、世代を経る必要があります。人間の世代交代には20年程度かかるので、進化による変化が大きな影響力をもつには、かなりの時間がかかります。身長の伸長現象は、進化によって説明するには急激すぎるのです。
文化的革新と遺伝的革新は、しばしば混同されるようなので注意が必要です。この点は、専門家の述べるところを引用しておきます。
デネットさん、100%文化要因と言い切っています。競馬とか犬猫とかのことを考えると数世代でも遺伝的変化がちょっとばかしはあるんじゃない? と私は思ったんですが。人間の場合一つの性質(身長)を数世代で変えるには、生殖にあたって考慮する材料が多すぎるんでしょうかね。
なお日本人についてみれば、最近では平均身長の伸長傾向は停止している模様です。公衆衛生や栄養状態は十分改善されたので、文化によって急伸する余地がなくなってきたのでしょう。
■ 人間の特異性は文化にある
さて身長でさえ文化によって急変しうるのですから、より文化と密接不可分な存在である「言語」「価値観」「科学」などの変容を遺伝的変化だけで捉えることはできそうもありません。
仮に人類の身体(脳含む)が今後200年の間全く進化しなかったとしても、人類の文化は激変していることでしょう。一人の一生の期間だけでも、社会の支配的な言語使用、価値観、科学技術水準などは激変していきます。生物的な遺伝に比べると、文化的変化は桁違いに速いのです。
また私たちは人生観をもち、それとともに生きています。人生観なるものも文化と不可分の存在です。対して他の生物に関しては人生観に相当するものがあるのかどうかも定かではありません。
(なお人生観のようなものをもっていることが持主にとって良いことなのかどうかも定かではありません)
著名な進化生物学者のドーキンスさんは、進化論的発想を文化的現象にも応用しようとしている(ミーム理論)学者ですが、「遺伝」と「文化」が別物であることは、むしろ強調しています。
むしろ遺伝とは別物であるからこそ、文化の重要な部分を「進化」的発想で説明できることが凄いわけですね。
もっとも、進化的発想が文化のどの側面をどこまでの深度で説明できるのかについては意見が分かれるでしょう。
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