ぴ~すふる その10
前回のあらすじ
二回目の作戦会議が終わりました。
名付けて『人を助けて生の感情を集め、変換したピースで世界を救っちゃおう大作戦!』始まります。
次に行っちゃう
初めから
=>[イナカノシティ]
ここはイナカノシティ。面倒くさがりが考えたような……いや、何も考えずに作ったような、等間隔で十字路が設置されている小綺麗な道路がひかれている小さな町。
イナカノとは「大して取り立ててところのない平和だけど刺激の足りない、バターもジャムもチーズもついていないトーストのような場所」という意味である。名付け親はよっぽどのひねくれ者なんだろう。が、街が人を作るという言葉があるように、イナカノシティはのどかで平和な町なのであった。
人口は少なく、ゲームセンターも本屋もホームセンターもない。お菓子屋? はは、そんなものは無いよ。あるのはいくつもの小綺麗な一軒家と、いくつかのコンビニエンスストアと、空いている隙間を埋めるためだけに作られたような粗末な公園ぐらい。
タローはなにもないこの町が好きではなかった。いや、この町の子供たちは大抵がそうだった。だが、多少不便なところはあれど都会の喧騒から逃れることができるので、進んでここに住むことを選ぶ大人たちは少なくはなかった。あと土地代が安い。
◆
世界を救うための作戦会議(というほど大げさものではないのだけれど)から三日目。タローは不本意ながらも町──タローは家族とともに町外れの一軒家に住んでいる──に出向き目を光らせていた。もちろん世界を救うためである。
はずだったのだが……
「……やっぱ何もねえなあ」
とある公園の鉄棒に器用に座りながら天を仰ぐタロー。空は珍しく曇りぎみだ。それは、あたかもタローの仕事──困っている人を助けて生の感情を集めよう大作戦!──の難航具合を表しているかのようだった。
今朝、タローは朝食たらふく食べてからしばらくのんびりした後に街へ繰り出した。そして、今はちょうど昼休み頃。この間、「私困ってます」と主張している人は一切見かけなかった。いや、それどころか人をほとんど見かけていない。そう、今日は世間一般では平日と呼ばれていて、大人は仕事に行っているのだ。え? 仕事に行ってない大人……おいカメラ止めろ。
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しばらくお待ちください(爽やかなBGM)
◆
……今朝、タローは朝食をたらふく食べてからしばらくのんびりした後に街へ繰り出した。そして、今はちょうど昼休み頃。この間、「私困ってます」と主張している人は一切見かけなかった。いや、それどころか人をほとんど見かけていない。
タローはどげんかせないかんなと額にシワを寄せながらコウモリの姿勢で大回転を開始。
ブンブンブンと回転速度を上げるタロー、さながらヒューマンプロペラ! 鉄棒大会があるならいい成績を残せるだろう。
たまたまその様子を空から眺めていた鳩がフリップを上げた。十/十/九の最高得点! 優勝だ! 観衆がスタンディングオベーション! ブラボー!
──ここまで幻覚!
「元気な少年だねえ。いつもより多めに回しておりますってね。ちょっといいかい?」
「あ?」
かすれ気味で気だるけな声が公園に響いた。タローはさらに一五回転してから停止した。そして逆さまの状態で声の方を見た。
黄色いビキニを着て、赤い短髪の頂点に『¥』に似た形をした鉄の棒を突き刺した、タローと比べてもかなり小柄だが豊満な少女がなぜか倒立をしていた。
「見ない顔だな。隣街の奴かー?」とタローが訊いた。
「そうだね。今朝、隣から来たんだ……もしかしてキミがカナガワかい? だとしたら想像を大きく外したということになるのだけれど」
「カナガワ? 知らねえな。俺はタローだぜ。それよりお前、なんで逆立ちしてんの?」
「時々こうやると、グラヴィニウムの調子を整えられて体液がサラサラになるのさ。それとあっしのことはお前じゃなくてキリンと呼んでくれていいよ。呼びにくかったらケーでもいいからね」
「よくわかんねーけど、キリンな。分かったぜ」
状態を上げて鉄棒から飛び降りるタローと、キリンと名乗った少女も逆立ちをやめた。
「で、こんなつまんねえとこでなにしてんの?」タローが訊いた。
「ん、ああ。なにかを探してるんだ。カナガワという名らしいんだがね。おそらく生き物だと思う」
「カナガワ……聞いたことねえな。どんなヤツ?」
「それがあっしも名しか知らないんだよね。ああそうだ、一人称は『僕』だったな。半年ぐらい前から毎日のように念波のやり取りをしてたんだけど、急に音信が途絶えたんだよね」と肩をすくめるキリン。
「ふーん……」
腕を組んで思案顔のタロー。彼は意識していないだろうが、千載一遇のお助けチャンスだ。世界のためにも、タローのモチベーションのためにもここはぜひとも──。
「お助けチャンスとはなにかな? 世界とはどこのことかな? キミのモチベーションは低いのかい?」とおもむろにキリンが言った。頭の鉄の棒が回転している。
「えっ?」とタロー。
「え? ──ああ、ノイズが入ったようだ。なんでも無いよ。忘れてくれ」と言って、頭の鉄の棒を手で止めた。
胡散臭いものを見る目つきになるタロー。具体的には面倒なことを言いだしたユッキーちゃんを見るときの目だ。
「ビエッックション! ズズー。タローに付き合ったせいで風邪ひいちゃったかしら」
「そのカナガワってのは本当にこの町にいるのか? 隣街じゃなくて?」
「前に『大きな山の麓の田舎町に住んでいます』と言ってたからこの町だと思うんだよね。『のどかで平和な場所です』だとも。『海が綺麗です』とも言ってたかな」
「確かにここっぽいな。うーん、カナガワ……カナガワねぇ……」
タローの脳内に浮かび上がる『KANAGAWA』。体内に残っていた回転力が分離させる。K A N A G A W A。
この時、キリンが発する念波とタローの脳波、気温と湿度、ついでに月と太陽の位置関係が複雑に反応し、アナグラムが作り出された!
『ワアアアン』
南ペペレペレペレ代表のGK
四つのロングハンドから繰り出される百八裂拳は、飛んできたボールを原子レベルにまで破壊する。奥さんと子供に弱い。
『ワアアアン』
南ペペレペレペレ代表のGK
四つのロングハンドから繰り出される百八裂拳は、飛んできたボールを原子レベルにまで破壊する。奥さんと子供に弱い。
タローは首をひねって結論を出した「やっぱりわからねえな」
「仕方ないね。まあ、適当に聞きまわってみるよ。手間を取らせたね少年」
「あっそう? 困ったことがあればなんでも言えよな」
「ああ、その時はそうさせてもらおう。もしカナガワに会ったらキリンが来たと言っておいてくれるかな。念波、待っているよともね」
鉄の棒を回転させてキリンは去っていった。
タローはポケットから例のガラス容器を取り出して見た。中はカラッカラの空であった。
「くそー、やっぱ溜まってねえよなあ! チクショー、やってやるぜ!」
天に叫ぶタロー。容器をポケットに戻して、一通り動的ストレッチをして体を温めてから公園を飛び出した。
うーむ、タローは意気揚々と飛び出しましたが、空の色が濃くなってきました。雨が振りそうですね。これ、ちょっとした伏線です。ほんとにちょっとしたやつなので覚えて無くても大丈夫です。テストには出ませんから。
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