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サマーヘルパラダイス

 ①

「アツゥ!」
 白い砂浜で女性が目を覚ました。白くて軽そうな素材のひとまわりゆったりとしたアロハシャツとズボンを着ている。背中と素足にこまかい砂が汗で固着している。汗は滝のように流れ、眼はうつろ気味。
 女性の視界に飛び込んでくるのは見渡すかぎりの青く澄んだ空。大きな入道雲の手前に、一部が欠けた太陽がうかんでいる。
「え、なに?どこ?」
 緩慢な動きで身体を起こした女性は、手で目元に影を作って周囲を見渡した。
 穏やかな海、無人のビーチバレーコート、白い海の家、カラフルで大きなビーチパラソル、砂の上にポツンと放置されているスイカ、波打ち際を走り回っている元気な柴犬、白い木製の扉……。
「サマーヘルパラダイス……」
 女性の口からポツリ漏れる。強い日差しが容赦なく女性の身体と思考をコンガリと焼こうとしている。
「サマーヘルパラダイスゥ?何を言っているんだわたしは」
 女性は立ち上がり、ふらつき倒れそうになる身体を溶けかけている意志の力で抑えた。が、流れる汗と共に生気を失っているように眼から力が抜けていく。
「とにかく水……海?──ああ、そうだよ、海だよ。海ですよ」
 一歩、また一歩。穏やかに見える海に呼ばれているように女性の足が海へ向かう。その足取りは映画に出てくるゾンビの様。
「汗をかいたら塩分を含んだ水を飲まないといけないんだよぅ」
 と言ったうわごと呟きながら5歩ほど進んだ時、
「おーい」
「へヘ?」
「脱水症ゾンビ一歩手前のそこの君」
 女性は緩慢な動作で顔を声がした方角に向けた。
「早くこっちに来たほうがいいよ」
 決して大声ではないのだが、どれだけ離れていてもすぐそばで話しかけられているような不思議な声がビーチパラソルのオフ額から聞こえてきた。
「こっち……?」
「こっちこっちー。ビーチパラソルの影だよ」
「ビーチパラソルの影……ビーチパラソル影……」
 女性は砂浜にゾンビのような足跡を残しながら、ビーチパラソルへ向かった。

「涼しい!」
 パラソルが作る日陰に入った途端、女性は元気を取り戻した。眼にも生気が宿る。
 日陰内の空気は不思議とひんやりとしていた。まるでパラソルの中にだけ秋が来ているかのように。
「あんなところに長いこといたら干からびたジャーキーになっちゃうよ」
 リクライニングビーチチェアーに寝そべる中性的な人らしき者がそう言った。大きなハート形のサングラスにバスローブのような白い服。頭の上に黄金の輪がふよふよ浮かんでる。
「ジャーキーよりサーターアンダギーの方がいいな」と女性。
「甘党?」
「辛いのも好きだよ」
「じゃあ甘辛党だ」
 チェアーの主はそう笑うと、脇の小テーブルからトロピカルフルーツジュース入りグラスを手にし、二つ刺さってるハート型のストローの片側に口をつけた。ズズーと小気味よい音と共にふわりと甘い香りが漂う。
「いいなそれ、わたしも飲みたいなぁ」
「飲みな飲みな」
「ありがと!」
 女性はグラスを受け取ると、未使用のストローを咥えた。
 ズズーーーーー!
 トロピカルフルーツジュースが驚異的な速度で女性の体内に消えた。
「美味しい!」
「美味しいよね。私も好きなんだ」
 女性はグラスを小テーブルに置いて、ビーチチェアーの脇の砂の上に座った。
「あの、色々聞きたいことがあるんだけど」と女性。
「だろうねえ。何でも聞いて。答えられることならなんでも答えるから……あ、まって」
 チェアーの主は身体を起こしてチェアーの端に腰かけて女性に顔を向けた。サングラスを外すと、半透明の黄金色の眼が現れた。
「何を聞こうとしてるか当ててあげよう。──ここはどこ、じゃない? それか、あなたは誰? でしょ」
「あたり!この状況で他に聞くことなんてないと思うんだけど」
「まあそれもそうだね」
「それで、ここはどこであなたは誰でなんでここにいるの?」
「いい質問だね。私はね」そこで言葉を区切り、もったいぶるように間を作り「天使だよ」と言った。
「てんし?」
「そ。天使」空に文字を書くように指を振ると、超常現象的光が飛行機雲のように指の後を追い『てんし』と形作る。
「ひらがな?」
「漢字は苦手なの」
「本物?」
「本物だよ。足触ってみてよ。天使は身体が冷たいんだよー」
 女性は言われた通り、手のひらをピタリと天使の足の甲に置いた。
「……わっ、冷たい」
 スリスリ。
「でしょー」
「きもちー」
 スリスリスリスリ。
「熱くなるからこするのやめてね」
「ちぇー」
 女性は名残惜しそうに最後にひと擦りした。

 ②

「じゃあ次。ここはどこ?」
「ここはね、サマーヘルパラダイスだよ」
「えっ、本当に?」
「いや、さっき君がそう言ったのが気に入ったからこれからはそう呼ぼうかなって」
「適当だなあ」
「よく言われるよ。この前も嫌な上司に『お前の仕事はいつも雑だ』って言われちゃって。うるさいなあって感じだよね。こんなにも暑いところで仕事なんてできないよ。現場を体験してから言ってって感じ」
「天使も暑い思うんだ」
「そりゃあ思うよ。身体が冷たいぶん暑さには敏感だし、私は外仕事担当だからもう地獄。多分地獄よりも地獄」
「天使も大変だね」
「大変だよ。──そうそう、話を戻すけどここは『よくわからないスペース』の一つだね」
 天使が再び空に指を振り『よくわからないスペース』の文字が浮かんだ。
「よくわからないスペース?」
「そう、よくわからないスペース」
 女性はよくわからないといった表情で眉をしかめて天使を見上げた。
「適当言ってない?」
「言ってない言ってない。これは本当。偉い人が大きな会議をして決めたらしいよ。君みたいな人間でいう怪奇現象?みたいな?」
「なるほど?」
 小首をかしげる女性と天使。
「まあ、この世界には『よくわからないスペース』が沢山あって、時々人間とか犬とか下界の生き物が迷い込んじゃうんだ。『よくわからないスペース』は下界とも天国とも地獄とも違って……とにかく謎で、場合によっては生き物が死んじゃうこともあって──」
「えっ!?わたし死んじゃう?」女性が遮って声を上げた。
「場合によってはね」
「まだやりたいことがたくさんあるのに!」
 慌てて立ち上がろうとした女性の肩に天使がやさしく手を置いた。手が淡い光に包まれたと思うと、女性は急に落ち着きを取り戻したような表情に戻った。
「大丈夫。皆を導くために私がここに派遣されてるんだから」天使が優しく微笑んだ。
「本当?」
「本当本当」
「天使さんありがとう!」
 ギュッ。勢いよくハグする二人。
「どういたしまして」天使は女性の背中をポンポンと優しく叩いた「ちゃんと仕事しなきゃこっぴどく叱られるしね」
 ~30秒後~
「ところで帰れなかった人はいるの?」ハグを解いた女性が言った。
「私が来てからはいないよ!それまでは知らないけど」
「運がよかったんだなあ」
「ここに来る時点で運が悪いと思うけど」
「モノは考えようだよ」
「そういう考え方、いいねぇ」
 ・・・
 ・・
 ・
「ところで、ここに居たければまだ帰らなくてもいいんだけど、どうする?ここは暑さ以外の脅威がないから。その暑さが大問題なんだけど」
「うーん」
 女性は考えるように腕を組んであたりを見渡した。
 海、空、砂浜、ビーチバレーコート、海の家、ビーチパラソル、リクライニングビーチチェアー、天使、空になったグラス。スイカ、柴犬、白い木製の扉。
「暑いしつまらないから帰りたい」
「だよね」
 天使はうなずき、音もなくチェアーからおりた。その白い足は砂浜から数センチ浮いていた。
「浮いてる!?」女性は天使の足の下に手を何回も通しながら言った。
「天使だからね」
「すごーい」
「でしょ」
 女性は「触る気は全くないんですけど手が滑って当たっちゃったんだよね」風を装いつつ、天使の足の裏を手で何回も触った。土踏まずのない柔らかいプニプニと心地よい感触であった。
「足の裏触るのこそばゆいからやめてね」
「ちぇー」

 ③

 天使はサングラスを、女性は天使に渡された麦わら帽子と星の形のサングラスを装着した。
 目的地は海の家、そう遠くないように見えるが、特定のルートを通らないとたどり着くことができないと天使は事前に説明した。女性の反応は「任せるね」だけだった。
「それじゃいこっか。しっかりと着いてきてね。迷子になったらビーフジャーキーだよ」
「おっけー!」
「3・2・1」
「「ゴー!」」
 二人は勢いよくパラソルから飛び出し、天使が先導する形で砂浜の上を走り出した。
 ビーチバレーのネットの下をくぐり、カニの足跡をたどり、波打ち際を走り、柴犬を撫で……
「アヂー!」
「アヅーイ」
 長い冒険の末に、とうとう二人は海の家までたどり着いた。女性は建物が作る影のなかで首筋の汗を手で拭った。
 隣に立っている天使が一切汗をかいていないことをみて首を傾げた。
「なんで汗かいてないの?」
「体質だから。それよりほら」天使が指をさした。
 海の家の外、ありとあらゆる種類のアイスクリームがぎっしりと詰まった大型ボックス、電源の入っていないゲームの筐体、ビーチボートに浮き輪、畳まれたパラソル。入口の上に『海の家』と書かれた大きな看板がほとんど来ない客を待ち構えていた。
 二人は真っ先にアイスクリームボックスへ駆け寄り、赤いシロップがかかったかき氷アイスを取りだして貪るようにして食べた。
「アァ……」「クゥ~~!」二人は顔をしかめて痛む頭を押さえた。しかしアイスを食べる手は止めなかった。
 食べ終えたアイスの容器をボックス脇のゴミ箱に入れて、扉のない入口の中へ入った。
 店内は床がなくて壁の代わりに数本の柱が立っている程度でとても開放的。
 レジ台や果物の絵が描かれたドリンクディスペンサーやその他あれこれ色々が付いているカウンターのほかには、木の椅子とテーブルがいくつか置いてあるだけだった。
 天使は「適当なところに座っといてー」とだけ言ってカウンターへ向かった。
 女性は深く考えずに中央のテーブルを選んで椅子に座った。
「すずしー」
 サングラスと麦わら帽子をテーブルに置く。カウンター裏でドリンクディスペンサーを操作している天使の鼻歌が店内のBGMになる。
 ほどなくして、天使がトロピカルフルーツジュースの入ったグラスを手に戻ってきた。
「わたしこれ好き」女性がグラスを受け取って半分ほど一気に飲んだ「んー最高」
「じつは飲むたびに味がちょっと変わって飽きないようになってるんだよ」
「へー」
 ズズー、ズズズー。
「なんかここ、半分駄菓子屋みたいだよね」と女性。
「君もそう思う?冬はほんとうに駄菓子屋になるんじゃないかって期待してるんだ」
「ここにも冬があるの?」
「ないんだよねそれが。だからここは一生海の家」
 ズズズー、ズズー。
「それで、これからどうすればいいの?」
「次はね、というか最後なんだけど。スイカ割りをするよ」
「スイカ割り?」
「そう。しかも三回。──あれでね」
 天使が女性の背後を指さした。女性は振り返り、
「えっなにあれ」目を丸くした。
 何時からそこにあったのか、店内の端、砂の上に畳が一畳分敷かれており、畳の中央に木刀が突き刺さっていた。
「なんで畳に刺さってるの?」
「知らないけど『よくわからないスペース』はそういうもんだからね。大事なことは、あのスイカ割棒で砂浜のスイカを三回割れば、君は家に帰れるってこと」
「あなたは帰らないの?もしかして帰れない?」
「帰れるけど、勝手に帰ったら仕事クビになっちゃう」
「あー」
「私のことは気にしなくていいよ。それよりスイカ割棒を抜けるか試してみない?」
 二人は立ち上がり、スイカ割棒刺さる畳の元へ向かった。
 畳の中心に小さな十字の切れ間があり、スイカ割棒は十字のレバーのように切れ間の中央に立っている。
 女性がスイカ割棒の先端に軽く触れると、スイカ割棒は十字の切れ間に沿うように小さく動いた。
「動くけど抜けない……」
「これはね、ある法則にのっとってスイカ棒を動かさないと抜けないようになっているんだよ。ちょっと貸してみて」
 女性が脇に退いて、天使がスイカ割棒を握った。そして天使から見て上上上上上上とスイカ棒を動かした。
 ブブー。
 天井からぶら下がっているスピーカーからコミカルな効果音が流れた。
「失敗するとブブーってなる。6回動かして全部正しい方向だったらスイカ割棒が抜けれるようになるの」
「抜いたらスイカ割?」
「そ」
「なるほどね。それで、どう動かすのが正解なの?」
「問題はそこなんだよね」
 天使がそう言って腕を組んだ。
「答えは正解するたびに変わるから誰にもわからないんだ」
「えっ……ということは?」
「さて、ここで問題です。4×4×4×4×4×4は何通りでしょう」
「うわー」
「ちなみに途中で別の人がスイカ割棒に触っちゃったら答えが変わってやり直しになるから」
「うぇー……」
「ま、時間制限はないしトロピカルフルーツジュースもアイスもあるから気長に頑張ろ」
 天使は励ますようにガッツポーズを作り、近くにあった椅子を引っ張ってきて座った。
 しばらく呻いて固まっていた女性だったが、おもむろにカウンターへ向かいトロピカルフルーツジュースの入ったグラスを両手に持ち戻ってきた。グラスを近くの机に置いて、椅子を畳の前に置き座った。
「やったるでー!」
「その意気だよ!」ズズー。
 女性は畳の上に乗り、両手でスイカ割棒を握りしめた。
 上上上上上上。ブブー。
 上上上上上右。ブブー。
 上上上上上下。ブブー。
 …………
 上左左左左左。ブブー。「上は終わりだね」「休憩にする。アイス食べよっと」「私もいっしょに行くよ」
 …………
 右左左左左左。ブブー。「あと半分だよ」「アイス食べる」「たくさん食べてるけどお腹壊さない?」
 …………
 下左左左左左。ブブー。「ついてないね」「……」「アイスだね。もうこうなったら全種類制覇しちゃおうか」
 …………
 …………
 …………
 左下下左右左。ピンポーン!
「あっ!?」
「えっ?」
「今、ピンポーンって!」
「おっ、正解したんじゃない? スイカ割棒を真上に抜いてみて」
 目を若干充血させた女性はうなずくと、鼻息荒くスイカ割棒に力を入れた。
 ポン。
 何処からどう見てもお土産屋にある木刀にしか見えないスイカ割棒が女性の手に収まっていた。
「やったぁ!!!」
「おめでとう!」
 女性は飛びつくように天使に抱き着いた。そのさいに木刀が天使の後頭部を直撃したが天使は何も言わず、ただ抱きしめかえした。
 ・・・
 ・・
 ・
「はー。何時間たったんだろう」
 身体をほぐすようにストレッチをしていた女性が言った。
「私たち天使が見てる場所なら、元の世界に戻っても一秒も経ってないから大丈夫だよ」
「それならいいや。いや、よくないけど……まあいいや」
「そうそう、考えすぎると疲れるよ」天使は肩をすくめた。「それじゃ、お楽しみのスイカ割タイムにしよっか?」
「その前にもう一杯トロピカルフルーツジュースを飲みたいな」
「いいよ。祝杯をあげないとね」
 カウンター前に移動し、トロピカルフルーツジュースを入れ直した。
 二人でグラスを持ち上げ、
「それでは、正解を記念して」
「「かんぱーい!」」
 ズズー、ズズズー。

 ④

「右、右、少し前で……ストップ!」
「ここ?」
「いいよいいよ。まっすぐ振り下ろせばいいから」
「ソリャ!」
 海の家で見つけた赤色のタオルで目隠しをした女性がスイカ割棒を振り下ろした。
 パコン!と小気味よい音がして、スイカが真っ二つに割れた。白い砂浜の上に真っ赤な果肉がよく映える。
「割れた?」
「完璧。スイカ割の才能があるね」
「へへへ」
 割れたスイカは超常現象的消滅。続いて少し離れた個所に新たなスイカが出現した。
「次は右向いて、もうちょい……ストップ。そこから三歩歩いて、少し左向いて、そこ!」
「いくよー」
 パコン!
「どうよ」
「こんなにもスイカ割りが上手な人間は初めて見たよ。もしかして天才?」
「残り一つもどんとこい!」
 ・・・
 ・・
 ・
 二人はビーチパラソルに戻っていた。天使はチェアーに、女性は砂の上に座っている。
 3つ目のスイカを割った後、劇的に何かが起きたという事はなかった。ただ、先ほどまでは無言で鎮座しているだけだった白い木製の扉の枠から、まばゆい光があふれだしている。

「せっかく割ったのに食べられないのは残念だなあ」女性は先ほどまでスイカを割っていた場所を眺めながら言った。
「そうなんだよね。だからスイカ味のアイスで我慢するしかないんだよね」
「このわざとらしいスイカ味のアイスでね。好きだからいいけど」
 手に持っていた三角形の赤色のアイスをシャクリと一口食べた
「それで、なんでスイカを割ったら帰れるようになるの?」
「そうだね、『よくわからないスペース』は私たちでさえ理解できないモノばかりだから憶測でしかないんだけど、おそらくこのスペースはスイカ割りで用意されたのにそのまま忘れられたスイカの念が生み出した場所なんだ。だから、時々下界の生き物を呼んで、割ってもらおうと──つまり成仏させてもらおうとしているんだ」
 天使はそう言い、海に顔を向けた。海の境界が蜃気楼でぼやけている。
「適当言ってるでしょ?」と女性は言った。
「あ、分かった?」天使はいたずらな笑みを浮かべた。
 しばらく二人は無言でアイスを食べていた。おもむろに女性は立ち上がり、ズボンについた砂を払った。
「それじゃ、そろそろ帰ろうかな」
「そうしたほうがいいね」天使も立ち上がりハート形のサングラスをかけた。「送ってくよ」
 二人はまっすぐ扉へ向かって歩き始めた。
「そういえばあのワンちゃんは?」
「うん?あー、あの子は私が来る前ずっとあんな感じだし、下界の生き物じゃないと思うよ」
「そうなんだ?」
 女性は犬を見て、それから天使を見た。
「じゃあわたしは帰るね。助けてくれてありがとう」
「全然気にしなくていいよー。私も誰かと話すのは気分転換になるし。君は特に楽しかったよ」
「それはよかった。これからもずっとここにいるの?」
「あと100年ぐらいしたら帰れると思う。まあ、帰ってもすぐ別の場所にに行く可能性もあるんだけど」
「大変だね」
「仕事だからね。ちなみに天使の寿命がないから一生仕事の生活だよ」
「うわー!」
 ゆっくりと歩いていた二人は、扉の前に立ち止まった。
 一見何の変哲もない白樺でつくられた扉が、砂の上にまっすぐ突き刺さるようにして鎮座している。
 枠から漏れ出る光は太陽のようにまばゆくて、サングラス無しでは目がつぶれてしまうぐらい。
「また会える?」
「うーん。君が天使になるか私が堕天したらもしかしたらね」
「そっか」
 女性は小さくうなずいた。そして、最後に小さく両手を振り、
「じゃあね」
「バイバイー」
 光の漏れ出る白い扉を開けた。

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