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ぴ~すふる その11

前回のあらすじ
黄色いビキニを着て、赤い短髪の頂点に『¥』に似た形をした鉄の棒を突き刺した、タローと比べてもかなり小柄だが豊満な少女がなぜか倒立をしていたらしいです。

次に行っちゃう
初めから

=>[タローの家/夜]

「ダメダメ、てーんでだめ」

 タローは自宅でふてくされていた。キリン(頭の頂点に鉄の棒が刺さっているビキニ姿の謎の少女)と別れた後、町中を歩き回り感謝の種となりそうなものを探し回ったのだが、まあそう都合よく行くわけはなかった。さらに小雨が降ってきたので、急いで自宅へ走ったのだった。

「タロー、ご飯だから手伝って頂戴」
「……ほーい」

 キッチンには細身で背の高く美麗なタローの母が料理をしている。
フライパンの上にはジュウジュウと美味しそうな音を奏でるハンバーグが三つ。タローの大好物だ!

「お皿三枚取ってくれる?」とタロー母。
「いつもの?」
「いつもの」
「ほい」タローはうなずき、棚から三枚の中皿を取り出す。
「ありがと」

 タロー母は置かれた皿にそれぞれ一つづつハンバーグを置いていく。青色のタロー用の皿には一番大きなハンバーグ。さらにそれぞれの皿に☆型人参とポテトを乗せて完成。
 三枚の皿を器用に持ってリビングへ。
リビングのダイニングテーブルに皿を置いて、手でエプロンをなでつける。

「それじゃあ、パパ呼んできてくれる?」とタロー母はキッチンに戻っていった。
「わかった」

 タローは二階へ上がり『パパ』と書かれた扉を「ドンドンドン、ドンドンドン」とリズミカルにノック。

「親父ー、飯だぜ」

 タローが言うと、部屋の奥から「はーい」とくぐもった男の声。まるで顔に枕を押し付けてるようなそんな感じだった。
訝しむタロー。何も言わずに扉を開けた。

 タンスと布団とちゃぶ台があるだけの質素な部屋だ。
 上半身裸の男=タロー父が、部屋の中央のちゃぶ台の上に立っていた。
 熊マスクを被り、握りしめた右手を上げて何らかのポージング。鍛え上げられた筋肉が照明の光を浴びて輝いている。

「飯だぜ」とタローが平坦な声で言った。
「あっ……」
「遊んでないで早く」

 タロー父は咳払いを一つ、何事もなかったかのようにちゃぶ台から降りた。マスクを外してちゃぶ台に置いた。中から、もじゃもじゃヘアーでシワもヒゲも濃く眼差しの鋭いおじさんが出てきた。

「……こらこら、勝手に入ってきたらだめだと言っているだろう」諭すような声色のタロー父。だが説得力はゼロ
「なら鍵でもつけとけばいいじゃん」
「お母さんが怒るからつけられないんだよ」
「あっそ。ほら早く、ハンバーグが冷めちゃうから」
「わかったわかった。父さんは着替えてから行くから先に行ってなさい」
「ほい」

 タローは小走りで戻っていった。タロー父はタンスから黒いタンクトップ──背中にデカデカと必勝と書かれている。何と戦っているのだろうか──を取り出していそいそと着て、いそいそと皆が待つリビングへ向かった。

「はい、いただきます」
「いただきます」「いただきます」

「う~~~ん」

 一家団欒な食事は終わり、父はキッチンで洗い物。
 タローはリビングの優しい色のカーペットの上に五体投地の姿勢で、まるで次の展開をどうするか悩んでいる物書きのように唸っていた。

「さっきからなに唸ってるの?」とタロー母が訊ねた。手には白ワインの瓶とワイングラス。
「んー? なんでもない」
「なんでもなかったらそんな風にしてないでしょ。お母さんには言えないこと?」
「んー……」

 ゴロンと仰向けになるタロー。天井の優しい明かりをボケーっと眺める。母は静かにワインをついで飲み始めた。

「そういうわけじゃないんだけど」
「だけど?」
「なんというか……どう言えばいいかわかんなくて」
「ふぅん? それなら、思いついたことから説明してってご覧なさい。タローが言いたくなければ言わなくてもいいけど」
「うーん」

 ポワワン。タローの頭に浮かぶ数々の出来事。
 マッドも博士のお願い、カフェインとの出会い、うるさいユッキーちゃん、テッペン山の洞窟、世界の危機、サイダー、うるさいユッキーちゃん、人を助けてエネルギーゲット、キリンと名乗る変なやつ、うるさいユッキーちゃんetc……。
 ポワワン。

「なんかさあ、空の向こうから来たってやつが言うには世界が危ないらしいんだって」
「あらあら、それは大変ね」
「それで、その原因を何とかするためには、正のエネルギー? ってヤツが必要なんだって」
「魔王を倒すんじゃなくて?」
「魔王? よくわからないけどそういうんじゃないらしいんだけど」
「魔王がどうしたって?」

 皿洗いを終えたタロー父が妻の向かいに座った。手にはワイングラス。

「魔王は関係ないらしいわ」夫の分のワインを注いであげる母。仲慎ましくていいですね。
「なんだ、また魔王が復活したのかと思ったよ」と父。
「それは向こうの話でしょ。それよりタロー、続きを聞かせてくれない?」と母。

 タローはことのあらましを理解している範囲で説明した。

「なんだか面白そうね。それで、今は何に困ってるの?」
「困ってる人がどこにもいなくて」
「そういうことね」「昼間はみんな働きに出てるからなあ」
ゴロンと二度うつ伏せになるタロー「何がどう危ないのか正直よくわからないけどさー。早いところなんとかしないといけないと思って」とモゴモゴ。

 思案顔のタロー母。空になったグラスにワインを注ぐタロー父。子供の言うことだと本気にしていないのかのほほんとした雰囲気。

「そうねえ」とタロー母が口を開いた。「この世界は狭いから、もっと多くの人がいるところに行ったほうがいいかもね」
タローは首だけを両親の方へ向けた。「あー、隣町ってこと?」
「ほかには異世界とか」とタロー母。
「異世界?」
「そう、異世界よ」
「でもあそこは僕と君でしっかりと閉じたはずだけど」とタロー父が口を挟む。
「あそこはね。でも他にも無数にあるはずでしょ」
「君はどこにあるのか知ってるのかい?」
「探せば見つかるわよ。ねえタロー?」
「何の話をしてるのかさっぱりわからないって」とタロー。
「いつかわかる日が来るわよ」
「ふーん」
「まあ、タローならなんとかなるわよ。なにせ私達の子供ですから。それより、早く寝なさい。夏休みだからって夜ふかしはダメよ」

 タロー母はニッコリとに笑い、ワイングラスを手にキッチンへ消えた。

「まあなんだ、困ったことがあれば母さんか父さんか言いなさい」

 父はそう言って二階に向かった。これで一家団欒タイムはお開き。

「簡単に言ってくれるぜー」

 時計の針が動きカチリと軽い音が響いた。


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