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ぴ~すふる その12

前回のあらすじ
タローの好物はハンバーグとサイダー。

次に行っちゃう
初めから

=>[検問所]

「点呼!」
「いちよ!!!!」
「に」
「さん」
「し」
「ワン」
「よし!」

 タローが手に腰を当ててうなずいた。
 ここは隣町ヤァーハンへ続く唯一の道路の脇にある広場、通称検問所。
 今は使われていないバス停とベンチがあるだけの広場。日陰はない。
 そしてそんな場所に今いるのは、五人の少年少女と一匹の犬。ちびっこ一個分隊。

 読者諸君は覚えているだろうか。トメバアの駄菓子屋でびしょ濡れのタローが出会った三人の子どもたちのことを。
 赤いベースボールキャップのケン、ペイズリー柄のバンダナを頭に巻いたビリー、目が隠れるように狐のお面をつけたヨーコ。通称三馬鹿トリオa.k.a.サン馬カラス。

 彼らは彼らで様々な冒険をしたりしているのだがそれはまた別のお話。ちなみにタローとユッキーちゃんは影で凸凸コンビと呼ばれていたりする。犬はもちろんカフェイン。
 そして最後の一人、元気通り越してノイジー気味な少女の名前は……。

[CM]
やあ諸君、元気にしているかい? ん、なに、最近、普通のサイダーに満足できなくて悩んでるって?
ほうほう、そんな君に、タイムリーでグッドなニュースがあるんだ。それはこれ──。
トゥrrrrrrrrrrバーン!(カラフルなアニメーションをバックに青いビンを持った手が現れる)
スーパーサイダー! 強炭酸強アルギニン。一口飲めば飛ぶぞ。
一本500イェンで好評発売中だ。
[CM終わり]

 そして、最後の一人は……!

 ──自称超凄腕情報屋美少女、ユッキーちゃんでした! みんなは当てられたかな?

「それでは、これより隣町へ向かう。準備はいいか?」
「ちょっといい?」とケンが口を挟んだ。「なんで俺たちを呼んだの?」
「わかってんだろ? 生存確率を上げるため、だー」とサイダーの蓋を開けながらタローは言った。

 イナカノシティからヤァーハンは、ムダに広い道路を子供の足で数時間ほど歩いた先にある。
 道路の両側は延々と深い森に挟まれていて、途中に自販機もなければ休憩所もない。話し相手がいなければ退屈ゲージが限界値を超えて昇天。翌朝自宅で目覚め、どこかへ消えてしまったお小遣いを思い悲しみに暮れるのがオチ。
 そんな悲しみを避けるために、タローはこうして誰か暇そうな者を誘うのだ。

「なるほどね」ケンは納得した。
「まあ、ちょうど俺たちも街に行こうかって話をしてたからな」とビリー。

 ヨーコがしゃがみ込んでカフェインを見て、
「このこ、もしかしてカフェインじゃない?」
「そう。テッペン山でたまたま見つけてさ」とタロー。
 ユッキーちゃんが口を開いた「しかも、このカフェインにはウチュ──」

ガブリ。

 カフェインがユッキーちゃんの足を噛んで機密情報漏洩を阻止。声にならない悲鳴を上げるユッキーちゃん。三メートルぐらい飛び上がる。

「?」「?」「?」
「あー……あれだ、内なる力に目覚めたんだ」タローがすかさずフォロー。
「へー」「やべー」「野生に戻ったの?」
「まぁ、そんな感じ」
「ワン」とカフェイン。もちろん。
「へー」「やべー」
「まぁ、細かいことは脇に置いといて、さっさと出発しようぜ。昼になっちまう」
「なんでタローくんが指揮とるの?」とケン。
「まぁ、細かいことは脇に置いといて、さっさと出発しようぜ。昼になっちまう」
とタロー。一瞬だけ視点がブレたのは夏の暑さのせいか。
「ループしてるループしてる」
「プール? どこに──」

 ガブリッ。声にならない悲鳴を上げて地面を転がるユッキーちゃん。

「まあまあ。暑いし早く行こうよ」とヨーコ。
「それじゃあ私がイチバーン!」
 いつの間にか回復していたユッキーちゃんが駆け出す。
「あっズリーぞユキコ!」タッタッタ。

 顔を合わす三馬鹿トリオとカフェイン。

「わたしたちも行こっか」
「そうだな」

 ビリーとヨーコが後をゆっくりついていく。ケンはやれやれと肩をすくめて、カフェインをワンナデした。

「お前も大変だな」
 カフェインがケンに顔を向けた。「慣れました」
「えっ?」
「ワン」
「今しゃべっ……?」
「クゥーン」

 カフェインのあざとい上目遣いに困惑するいケン。今のは暑さが聞かせた幻聴だろうかと首をかしげる。

「何してんだよケン。置いてくぞ」と前方のビリー。
「ワン」テクテク。
「あ、待って待って」テクテク。

 ワイワイガヤガヤ。なんだかんだでちびっこたちは街へ向かったのであった。

【道は長いので、ここからはダイジェストでお送りします】

「「「「「「じゃんけんぽん!」」」」」」
「グ・リ・コ」
「「「「「「じゃんけんぽん!」」」」」
「よーし、パ・キ・ケ・ファ・ロ・サ・ウ・ル・ス」
「タローくんずるい!」
「へっ自分の知識量を恨むんだな!」
「「「「「「じゃんけんぽん!」」」」」」
「パ・ブ・ロ・ディ・エ・ゴ・ホ・セ・フ・ラ・ン・シ・ス・コ・デ・パ・ウ・ラ・ホ・ア・ン・ネ・ポ・ム・セー・ノ・チ・プ・リ・アー・ノ・デ・ラ・サ・ン・ティ・シ・マ・ト・リ・ニ・ダー・ド・ル・イ・ス・ピ・カ・ソ!!」
「なにそれー!」
「隣にすむおじさんのなまえー!!」
「ダウト!」「嘘でしょ!」「流石にずるい!」
「聞こえなーい!!」

 ワイワイガヤガヤ。

 暑さでイっちまっているお兄さん が 現れた!

「へ、へへ。やあ、少年達……今日も暑いね──」
「不審者!」

 ヨーコの無慈悲なケリがお兄さんのこかんにシューッ!

「「「「ウッ」」」」

 うめき声を上げて倒れるお兄さんと、同じようにうめき声を上げて股間を押さえる少年達。

 ちびっこ達は勝利した!

 ユッキーちゃんが地面でピクピクしているお兄さんをつま先で小突く。
「何この人」
「知らない」とヨーコ。
「カラテ習っててよかった」
「カラテねえ。私もやろうかな」
「いいと思うよ。何だったら一緒の道場に──」

 キャッキャウフフとはしゃぐ少女二人。
 一方少年たちは苦悶の表情。彼らを眺めるカフェインに、
「真似したらだめだぞ」
と忠告するタローであった。

「中間てんこー」
「いちよ」
「に」
「さん」
「ワン」
「……ビリーは?」
「さっき天昇しちゃった」
「やけにドライだな。仲間だろー?」
「よくあることだから」
「ビリーは暑いの苦手だからね」
「鍛え方が足りないのよ」

 ビリー、ここで無念のリタイヤ。

=>[ヘル坂道]

 長い上り坂を前に、最後の休憩をとる一同。
 挑むはヘル坂道。勾配は緩やかだがとにかく長い。時折、疲れ果てたところをうさぎ跳びラビットやローリングバレルに襲われて数多の少年少女が涙してきたのだ。セーブポイントなんてものはない。

「タローくん、またサイダーもらっていい?」
ケンがベースボールキャップで団扇のように扇ぎながらタローに聞いた。
「あっわたしも!」
「ワン」「おーけい」

 リュックサックからサイダーを取り出して皆に配るタロー。すぐにポンポンと蓋を開けてゴクゴク。このサイダーにはナトリウムも含まれているので水分補給には最適。みるみるうちに体力が回復。

「ふー。助かるよ」
「結構もらっちゃってるけど大丈夫?」
「んー?」
 タローはリュックサックを一瞬覗き込み、すぐに顔を上げて、
「残り八二本だな」

「八二!? いや、持ち歩いてる量もすごいけどよく一瞬で数えられたね」
「あー? なんかおかしいか?」
「おかしくはないけど……」
「ソレよりも飲み終わったら瓶返せよな。一本10イェンで買い取ってもらえるからな」
「あっうん」

 タローはケンとヨーコから瓶を受け取りリュックサックに投げ入れた。瓶が何かに当たる音は聞こえてこなかった。

「ユキコは?」
「ユキコじゃなくてユッキーちゃん! まだ飲んでるから!」
「お前、ほんと飲むのおっせーよな」
「悪い!?」
「別にいいけどよ」
「何よ!」
「いいっつってんだろうっせーな! ソレより飲んだらてっぺんまで競争な」
「「えー」」
「ふん、タローなんかに負けないんだから!」

「しゃあ!」

 第一回ヘル坂道杯、一着はタロー。二着、ハナ差でカフェイン。ドベはユッキーちゃん。
 全員が登りきってから、道路脇の木陰に入り休憩。サイダーもガンガン消費。登りきったことを祝福するかのように爽やかな風がタローたちの体を撫でる。

「何あれ?」

 しばしの休憩の後、最初に気づいたのはユッキーちゃんだった。

「あん?」
「あれ」

 不思議そうに丘の上から街を見下ろす一行。その視線の先は、街中央の一番大きな建物〈マンゾクデパート〉。
 そのデパートの屋上には、黄色で塗られた大きな旗が登っていた。旗の中心には赤子がクレヨンで描いた奇妙なケモノのような何かが描かれていた。
 旗を見て、皆がとても不思議そうに首を傾げた。

「旗?」
「一週間前にはなかったわ」
「本当か?」
「なによ、疑ってるの?」
「まあな」
「なによ!」
「まあまあまあ、行ってみればわかるでしょ」
「それもそうね! わたしが一番よ!」タッタッタッ。
「おいっ抜け駆けすんなよ!」タッタッタッ。

 これまでの行進の疲れはなかったかのようにワーワーギャーギャーと騒ぎながら一目散に坂を降りていく凸凸コンビ。若い子って体力が無尽蔵って感じ羨ましいですね。

「ふたりとも元気だよね」

 テクテクと後を追うヨーコ。残されたケンはため息を一つ。

「やっぱカフェインも大変だね」
「なれまし……ワン」
「え?」
「ワンワン」


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