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ぴ~すふる その13

前回のあらすじ
『三馬鹿トリオa.k.a.サン馬カラス』
常識人でのケン、悪がきビリー、不思議なヨーコからなる三人組。
タローやユッキーちゃんとは同じ学び舎に通っているので仲がいい。
三人は三人で、タローたちとは別口で大冒険を繰り広げるのだがそれはまた別のお話。

次に行っちゃう
初めから

=>[ヤァーバン]

「やあガキども。ここはチーリンだよ」

 街の入口に立っていたおじさんが優しい口調でいった。
 少年少女はお互い顔を合わせて首をかしげる。

「そんな名前だったか?」
「うーん、覚えてないなあ」
「なんか違うような気がする」
「何言ってんのよ! ここは! ヤァーバンでしょ!」

 唯一無駄に街の名を覚えていたユッキーちゃんだけが食いかかった。
 すると、おじさんは非常になめらか(240FPS相当)に表情を変化させて、面倒くさそうに脇の看板を指差した。
「うるせえクソガキだな。チーリンだっつってんだろ。ほら」

 少年少女たちが一斉に看板を見た。
 本来、看板にはでかでかと『ようこそヤァーバンへ』と書かれているのだが『ヤァーバン』には黄色ペンキでバッテンが引かれ、下にデカデカと雑に『チーリン』と書き殴られていた。

 カフェインが看板の匂いをかごうとしてタローが小さく咎めた。
「ペンキは有害だからやめといたほうがいいぜ」
「なるほど」小声で答えるカフェイン。

「おじさんが書き直したの? 落書きは犯罪でしょ」
「あの旗は? デパートでなにかやってるの? もしかしてセール!?」
「いつ変わったの?」
「なんでチーリン?」

「あーもう。うるせえガキどもだな。そんなに知りたきゃ自分の目で確かめろ。俺は仕事が忙しいんだ」
「いやでも──」
「会話終わり!」

 一方的に会話を打ち切り、道の方へ向き直るおじさん。その眼差しは遠くの木々に止まるセミを一匹たりとも見逃すつもりはないと力強さであった。

「まだ聞きたいことがあるんですけど」
「ここはチーリンだよ」
 おじさんは視線を動かさずに答えた。その態度はすべてのものを遮断しているよう。
「あの──」
「ここはチーリンだよ」
「ワン」
「昨日──」
「ここはチーリンだよ」

 壊れたラジオのように繰り返すおじさんに眉をひそめて顔を見合わせるちびっこたち。
 口と態度が悪いのは前からだったが、こうも頑なに拒絶してくるのはなにかおかしいぞと。

 まあ、不思議がるのも僅かの間、
「ま、時間の無駄しさっさと行こうぜ」
「そうね」
「暑いしね」

 子どもたちにとってはおじさんに興味はあまり無いのでササッとスルーされるのであった。
 ゾロゾロと街の入るちびっこたちに微動だにしないおじさん。彼の出番はこれで終わりです。

「あの仕事、日給9,800イェンらしいよ」
「へー」
「あんなつまんねえ仕事はやりたくねえなあ」
「どんな仕事がいいの?」
「サイダー作る仕事」
「イイね」
「タロー君らしいね」

 ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。

 =>[ヤァーバン改めチーリン]

 ◆

 街に入って数分後。
 ケンとヨーコは別の用事で別れて、ユッキーちゃんは、
「やっぱりお祭りがあるにちがいないわ! こうしちゃいられないわ!!」
といつものように一人でどこかへ走っていったので、タローとカフェインはダラダラと汗を流しながらダラダラと街をぶらついていた。
 目的地はデパートだが、せっかく街へ来たからと適当にぶらついているのだった。タローはタローなりに人生の楽しみ方を知っているのだ。

「黄色ってのはよー、あんがい目に優しくないんだよなー」
「そうなんですか」
「まぁ、気分の問題だけどよ。ああ、イヌは色がよくわかんないんだっけ?」
「それは問題ありません。身体を借りるときにクスリを飲んでおいたので」
「へー。だから喋れるのか」
「はい」
「すげーな宇宙人。しっかしまあなんなんだろうな」

 タローはあらためて周りを見渡して顔をしかめた。
 チーリンの中、建物という建物に数多の黄色い旗が飾られていてとにかく黄色い。それはまるで黄色い花が建物に侵食しているようにも見える。理由は不明。

「大人の考えることはわかんねえよなあ」
「この世界の文化ではないのですか?」
「前来たときはこんな文化はなかったぜ」

 タローが間近の旗に手を伸ばしたその時、

「こら、なにしてるんだ」

 タローは手を引っ込めて振り返った。そう離れていない位置で、人相の悪いポリスマンが手に持ったコーヒーを啜っていた。そしてなぜか制服は黄色だった。

「何って、旗を一本もらおうと思って……あ、そうだ。この旗ってなんなの?」

 タローがそう尋ねると、ポリスメンは

「はぁ? この街を治めているキリン様のシンボルに決まって──」ポリスメンはタローの顔をまじまじとみて小馬鹿にするように鼻を鳴らした「──さてはイナカノシティのガキだな?」
「市民の味方が子供のことガキって普通言う?」
「ふん、しょうがねえ。ど田舎の無知な小僧に説明してやろう。この旗はなぁ、あのクソの役にもたたない市長……いや、元市長の代わりにこの街を治めているキリン様のシンボルだ。わかるか?」
「わかんね」
「そして、その旗を盗むということは、キリン様への反逆行為ということだ。重罪だぞ重罪」
「別に盗もうとしてたわけじゃねーんだけど。……カフェインはわかるか?」
「なんとなくはワンかります」
「やるじゃん」
「つっ、まっ、りっ、だ」

 ポリスメンは残ったコーヒーを一気に飲み干して空にしたコップを道に投げ捨てた。誰一人咎めるものはいない。
 人々は二人(と一匹)から距離を開ける。遠巻きに眺めるものが二割、そそくさと立ち去るものが四割、そもそも眼中にないと言ったものが四割。
 ポリスメンは腰から警棒を引き抜き手のひらにパシパシと叩きつける。即席国家暴力の完成だ。

「小僧は寒くて狭くて暗い留置所にぶち込まれるということだ! イヌっころは保健所だ!

◆バウンバウンバウン◆
横暴なポリスメン が 襲いかかってきた!

「この世界の生き物はみな好戦的ですね」
「普段はこんなじゃないんだけど……なっ!」

 ポリスメンのわざとらしい大ぶりをタローが避ける。
「ふん、なかなかすばしっこな小僧」
 にやりとポリスがしてはいけない笑みを浮かべ舌なめずりをする。権力は人を狂わせる典型的な例ですね。

「おっさんと違ってまだまだわけーからな!」
 リュックサックをあさりながら的確なアンサーを返し、距離をとるMCタロー、いや、普通のタロー。
「時間稼いでくれカフェイン! 噛みつきだ! いてももうたれや!」
「ですが、この生物の口腔にはおびただしい数の細菌がいますので、噛みつきは危険だと思いますが……」
「じゃあ吠えるだ!」
「ワンワン!」

 そこそこの声量で吠えるカフェイン。ポリスメンと野次馬のうちの数人がビクッとし、建物の上で休んでいた鳥が驚いて飛び立った。

「いまので良かったですか?」
「おっけーおっけー。じゃあ次は頭突きだ!」
「わ、わかりました。やってみます」

 カフェインは前傾姿勢になって程よい速度で突撃!
 ポリスメンが警棒を振り回すが、器用に掻い潜り──

 トン。

 程よい速度で頭をぶつけるがあまり効いている様子はない。まあ、カフェインからするといきなり頭突きだと言われてもって感じで。

「クソッ、何だこのイヌっころは」
 苛ついた表情で警棒を振り回す!

 シュッ、スカ。トン。
 シュッ、スカ。トン。
 シュッ、スカ。トン。

「スネだ、スネを狙え!」タローはまだガサゴソしている。
「了解です」

 カフェインの頭突きがポリスメンの膝に刺さる!「ふんっ」
 ポリスメンが苦し紛れに振った警棒がカフェインに当たる!「痛い」

「大丈夫カフェイン!」タローはまだガサゴソしている。
「ちょっと痛いです。が、問題なく動けます」
「どうだイヌっころが、次はもっときついのを食らわせてやる!」

 大股で近づいてくるいかつい顔のポリスメン。まずはうろちょろ鬱陶しいイヌをぶちのめしてしまおうと言った様子。

「チクショー、もうこれでいいわ!」
 タローが取り出たのはサイダーの空瓶(売却値10イェン)。子供にとっては貴重な収入源だ。
 若干名残惜しそうにしつつも思いっきり投擲! 火の玉ストレートがポリスメンの膝に吸い込まれ──

 Critical!
「ツッッ……!」ポリスメンおもわず悶絶! 膝を手で抑えてうずくまる!
「もういっちょ!」
 Critical!
 ポリスメン悶絶!両膝を手で抑えてうずくまる!「いいぞ少年!」「殺っちまえ!」沸く野次馬!

「クソッ、なんで膝ばっかり……」
「レガースをつけてなかったのが敗因だぜ」

 パコン。ゆっくりと起き上がろうとしていたポリスメンにビームサーベルでトドメ。

 WIN!タローは暴力に打ち勝った!

「いい頭突きだったぜ。さすがは俺の相棒だ」
「頭がクラクラします。後遺症が出ないといいのですが」と器用に前足で頭をなでるカフェイン。
「大丈夫大丈……ゲッ」
「どうかしましたか?」カフェインはタローの視線を追った。「なるほど」

 あらたなポリスメンが二人──もちろん黄色制服──が小走りで寄ってきていたのだ。目的はおそらくこの騒ぎであろう。ワンチャンどこかで誰かが何かをやらかしたのかもしれないが。

「めんどくせーな。俺たち何も悪いことしてねーのにな」
「どうしますか? 理由を話してみます?」
「ねーな。……しゃーねけどやるかー」

 このまま連続戦闘に突入かと思われたその時、
「こっちだ少年!」
 背後から小さい鋭いダミ声がとんできた。

 タローとカフェインが振り向くと、すぐ近くの裏路地からまさに住所不定無職といった小汚い初老の男性がこっそり顔をのぞかせて手招きしていた。
 そして、「ほら、早くこっちへ。秘密警察が来る前に」と言うだけ言って裏路地に消えた。まるでモグラたたきのモグラみたいな速さであった。

「なんだか知らねーけど行くかカフェイン」
「おまかせします」

 タッタッタッタ。

続く

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