兄
朝起きた瞬間に、血液の流動を感じる。
ちょっと前から寝起きに鼻血が出ることが増えた。のぼせているのだろうか。
ここまでカジュアルに血が出ることってそうそうないので、いつも変な気分になる。
やっと血が止まったときには、ベッドの上に大量のティッシュが積まれている。
それをまとめてゴミ箱に投げ込み、2階に上がる。
コーラを一口喉に通し、冷凍庫からおもむろにハーゲンダッツを取り出した。
いつだったか、カップの側面を押して端からアイスクリームが盛り上がるぐらいに溶けたときが食べ頃という話を聞いた。
でも待っているのが面倒なので、かちかちに固まったアイスにスプーンを当てる。
必死に抑えている左指がとても冷たくて、時折温めないとどうにかなりそうで。
勢いよく削り出したアイスがカップの外に飛び出してテーブルに落ちたりなんかしながら、一口ひとくち味わって食べた。
そんなことをしていたら、リュックを背負った兄が何も言わずにどこかへ出かけて行った。
兄弟だけど、基本的に喋らない。
朝起きても、「おはよう」さえ言わない。
でも喧嘩しているワケではなく、仲が悪いワケでもない。
つくづく、独特な距離感だなと思う。
ふとテーブルの上に目をやると、アメリカ留学に関する書類が置いてあった。
なんか、いつの間に遠くにいってしまったなぁ。
どこか危なっかしく車を運転する兄の背中を、後部座席から眺めていたあの日を思い出しながら、最後の一口を丁寧に味わった。
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