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RZP Book Talk Vol.12 『親業』トマス・ゴードン 著 | 大和書房 刊

突然ですが想像してください。あなたは新規プロジェクトの事業課長を拝命しました。そのプロジェクトは約20年を要し、その間のマネタイズは難しく、地味な作業と果てしない忍耐が要求されます。にもかかわらず社内の評価は「できて当たり前」と低く、利用可能なリソースは月並みかそれ以下、特に研修や訓練も無く、経験者から前時代的な引継ぎ書を渡されたのみ。新規プロジェクトと言いつつ新規性よりも保守的な進め方が好まれます。また、現在担当している業務は継続、兼任です。失敗した場合の全責任はあなたにあり、上手くいった場合でも横から手柄を横取りする輩も現れるでしょう。なお、この辞令は拒否できません―お察しいただけたでしょうか?子育てです。

無防備なままでプロジェクトに臨んでいる親

近代以降は学校が大部分を代行してくれます。しかし、親の責任と仕事は依然として大きなものです。私達は自分が育つために学ぶことはあっても、親稼業を無事成功させるために子育てを教わりません。結果、私たちの多くは自分が親にしてもらった方法を踏襲し、様々な方法や経験則が溢れています。10数年前の知識や方法は時代遅れだったとしてもです。

今後、社会の変化はますます激しくなります。普遍的かつ人類的に重要、それでいて理不尽なこの難事業について、親は無防備なままでいいのでしょうか?

トーマス・ゴードン著『親業』は、この問題について、親が準備をできるように、また育児に迷った大人が一から親稼業を学べるように発達心理学に基づいて作られたプログラムです。Ryozan Parkのコミュニティマネージャー浦長瀬紳吾さんは、RZP Book Talkで本書を推薦し、ご自身の気付き、親稼業に不足していることについて、次のように話してくれました。

「親らしさ」の選択

私の親は子どもが困っていると、手を差し伸べるタイプでした。夏休みに工作の課題があったのですが、父親は建築家で母親はペインティングの先生だったので、私が行き詰っていると親が全部仕上げてくれました。

私が困っている時に先読みしてドンピシャで助けてくれる優しい自慢の親で、自分もそうありたいというのが私の理想の親像でした。しかし本書を読んで親としての理想像が変わりました。特に親が良かれと考えた行動が実は子供に悪影響を及ぼしている可能性があるというメッセージにハッとしました。

というのも私は自分が最後まで頑張らなくても、困っていれば誰か助けてくれるだろう、という思考が未だにあって、何事もやり遂げられない自分に困っています。買い物で服を選ぶにしても、親が提案してくれましたし、振り返ると反抗期もありませんでした。読後に僕は親としてどうあるべきか考えました。そして本書の提案する新しい親像に魅力を感じました。

コツコツと我慢強く話を聞き、理解し、能動的に質問して子どもの意見を引き出す、そんな親になれれば、子どもは私のように優柔不断に困らないのではないかと思いました。もちろん私は自分の親に批判的になったわけではありません。親は察する力が強かった。本書でもそれは親の仕事の1つとされていますし、自分もそうありたいと思っています。

ただ、察した後、子どもの意思を聞きながら引き出すというのが、親としての私の新しい選択だと思っています。自分の意見を日常的に言える人間になれば、大人になっても自分で決断できるのかなと思っています。

教育は曲がり角、親業は?

ベストセラー『AI vs. 教科書の読めない子供たち』の著者で数学者の新井紀子氏は同書内で、教育はAIに代替されない重要な仕事である一方、教育は大きな曲がり角を迎えていると述べています。成長神話が崩壊し、社会が不透明化、学歴不要論さえ出るにも関わらず、子に苦労させたくない、また親として迷いたくないため、受験競争はさらに過熱し、親のブランド学校指向はむしろ高まる傾向にあるようです。この状態は親稼業が変化に適応した形なのでしょうか?

業が深い親とは?

本書の原題は”Parent Effective Training”、直訳すれば「効果的な親の訓練」、日本語版の『親業』は意訳ですが、私は考えられたタイトルだと思います。意味するところは文字通りの「親という業務」、そしてもう1つ「親の業」と思われます。業とは仏教用語で、前世の欲深さによって現世で報いを受けるという意味です。そして、親業失敗の根本原因について、著者は「親の第一の悲劇は、親らしく権威的に振る舞おうと考え、自分が1人の人間であることを忘れること」と述べています。

子どもができれば、否応なしに親の義務と責任が発生します。期待と不安の中、私たちは親らしくあろうと、一足飛びに権威的に振る舞ってしまうのかもしれません。ですが、私たちも親業は初めての仕事であり、また効果の高い仕事の仕方は子どもの性格や時代に合わせて異なります。ではどうすべきなのでしょうか?

本書の提案はシンプルです。子育ても立派な仕事であると考えること、親も一人の人間であることを思い出すこと、子どもの話をコツコツ聞いて一緒に問題を解決すること、これらを日々努力して積み重ねること、です。社会と向き合う主役は子どもです。結局親にできることは、日々コツコツと社会に向き合う子どもの話を聞き、一緒に解決する、つまり地道な仕事を積み重ねることなのです。そうして、私たちは少しずつ親としても成熟していくのではないでしょうか?

多様化する教育の情報に振り回されてしまう人、子どもが生まれたばかりの人、親になることに悩みを持つ人は是非読んでみてください。

↓↓↓Book Talkに関心のある方はこちらからグループ参加できます。聞き専も歓迎↓↓↓

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【↓↓↓今回のスピーカー浦長瀬紳吾さんの活動↓↓↓】

https://www.facebook.com/uranagase.shingo


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