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『夜明けのすべて』感想&個人的分析レビュー

はじめに

こんにちは。竜崎彩威と申します。
映画プロデューサーと映像作家の両方を目指しているただの一般大学生です。
今年は年間250本の映画を見れるようにそれなりの頻度で映画鑑賞しているのですが(正直あまり見れていない…)、影響を受けた作品はかなりの長文でレビューを書いてしまう癖があって…。
今回の『夜明けのすべて』も、ストーリーの内容、映像の作り込み方など、あらゆる領域でとても感銘を受けたので、某映画レビューサイトに書き込んだ内容を少しだけ変えて、ここに書きました。
ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

また、こういったレビューをどんどん上げていきたいなと思います。
もし、オススメの映画とかありましたら、教えていただけますと幸いです。

本文

率直な感想

映画としてよかったかは置いておいて、個人的にとっても刺さる映画だった。端的に言ってその魅力はこの作品の核となるテーマだと思うが、そのテーマに対しての制作陣の作り方・アプローチがとてもよかったと思う。普段の映画のような生理的な気持ちよさを排除してでも、この作品の魅力は何かということを徹底的に追い求めているのが伝わる。その愛情に私は魅了されたのだと感じる。

分析①この映画の独特さ

そのため、映画としての構造とかの話を持ち出すような映画ではなかった。特にセリフ回しが独特だった。この独特さはおそらく主軸となる2人の関係性が独特だったからだろうと考えている。観客がこう言って欲しいと思っていることに対して一切応えていなかった。見ていて思ったが、その期待に応えてしまった場合、この映画は恋愛映画になってしまうのだろうと感じた。

この映画の独特な部分と言えば、主人公と誰かの別れる気まずいシーンが何度も流れることだと思う。
例えば、主人公とパニック障害持ちの青年の別れるシーンを描かなければ、2人は恋愛的にいい感じだと思ってしまうと感じた。パニック障害持ちの青年が忘れ物を取りに会社に戻るシーンのように、あっさりと別れることができる、ということを見せることで、2人の微妙で、独特で、魅力的な関係を演出しているのだなと感じていた。2人が繋がれるのは精神的な苦痛の時だけであって、でもどこか信頼している、この関係性が独特的だし、個人的に刺さったのはここだと思っている。

分析②16mmフィルムの質感/邦画的ではないカメラワーク

このフィルムの統一感が美しいと感じていた。
全体的にノイズのようなものがかかる16mmフィルムの質感が今作の雰囲気と最高のマッチング性があったと感じていた。2人の世界を優しく包み込んでいるように感じられたのは、16mmフィルムならではの質感があってこそだとも感じている。何よりも風景描写が最高だった。

また、邦画だとよくある(と個人的に感じている)変なトラック撮影がなく、観客を観客のままでいさせてくれる空間づくりがとてもよかったと思う(作品にあっていたと思う)。

画面揺れは印象付ける場面では良いが、上手く使い分けなければ、観客が世界観へ入り込みすぎて、見るのがとても疲れてしまうと考えているからだ。最近の作品で言うと、『52ヘルツのクジラたち』はトラック撮影が多用されていた。『52ヘルツのクジラたち』の作風は重かったものの、トラック撮影が多すぎて、見ているのが単純に疲れてしまった印象があった。
(補足みたいになってしまいますが、『52ヘルツのクジラたち』もかなりよかったです。特にストーリーと俳優さんたちの演技が素晴らしかったです。)

今作では、精神的な苦悩を抱えた者たちという暗めなコンセプトはあるものの、重い雰囲気を押し出すような作風ではなかったと感じている。そのため、フィックス撮影が主であった今作のカメラワークはとてもよかったと個人的に思っている。

他には監督の素敵なセンスが垣間見えるシーンもあった気がしている。
劇中で初めて社長の弟さんの遺品が残る倉庫を開けたシーンの中で、棚の間からシャッターが開いていくのを長回しで撮っていたショットが個人的には印象に残っている。
あえて棚と棚をカメラの上下を少し挟むようにして(シネスコの黒帯みたいなイメージ)撮影していたのが、「何かいいな。こういう使い方している人はあまり見たことがないな」と感じていた。

劇伴も同じメロディを何度も繰り返すことで、リセットのような機会をもたらしてくれるのがよかったと思う。全体的に温かみのある、安心してみていられるような劇伴がとてもよかったと思います。

まとめ

たしかに、この映画を見てエンタメ的な、生理的な気持ちよさはないため、つまらなかったと感じる人はいると思うし、それは間違いとかでもないと思う。
けれども、ここまでテーマに寄り添い、そしてこの映画を届けたい人たちに寄り添い、愛情を込めて作り上げた映画はなかなか巡り会えないと思っている。だから私はこの映画を見れて本当に良かったと思う。

今、あるいは昔に、私のように精神的な苦悩を抱えたことがある人にはぜひオススメしたいと思う。その苦悩の程度によらず、この映画は寄り添ってくれると思っている。

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