見出し画像

23年個人的1位の映画「怪物」レビュー ※ネタバレあり

はじめに

今年の新作は約30本見ました。たくさんいい映画があって、とても楽しめた1年でした。
その中で、個人的にもっともよかった映画は是枝裕和監督作「怪物」です。どれを取っても完璧で、あのような作品はもう二度と生まれないのではないかと思うくらいに魅力的でした。

今回の記事は、強く感銘を受けた気持ちを吐き出すために鑑賞直後に書いたレビューを掲載します。自分自身で見返してもよく出来たレビューだなぁと勝手に自画自賛しているレビューなので、もしよろしければご一読いただけますと幸いです。

記事のタイトルにある通り、ネタバレはガッツリあるので、ご鑑賞後にご覧いただくのを強くオススメします。


作品概要

<あらすじ>
「怪物」探しの果てに、私たちは何を見るのか―

大きな湖のある郊外の町。
息子を愛するシングルマザー、
生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、
大事になっていく。
そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。

<制作陣>
監督:是枝裕和/脚本:坂元裕二/音楽:坂本龍一
企画・プロデュース:川村元気 ほか

<俳優陣>
安藤サクラ 永山瑛太/黒川想矢 柊木陽太 ほか

<外部リンク>
HP
予告映像


レビュー本文

「怪物」というタイトル、シングルマザーや先生のよる体罰、いじめなど、導入において重い印象を受けていたものの、計算された三部構成の脚本を追っていくたびに、誰がその「怪物」かがわからなくなってくる。

1部の母親目線から始まった時、担任の先生が頭のおかしい「怪物」(ここでの意味合いは異常者)が起こした悪いことであった。
しかし、2部の担任の先生視点ではよかれとやった行動、そしてどうにか事実を明かしたいと思う当たり前の気持ちが描写され、担任の先生への「怪物」の疑念は晴れ、担任の先生への圧力をかける学校側の人間が「怪物」であると認識した。
だが、3部の子ども視点で描かれた学校側の人間たち。学校という立場を第一に考えなければならないというどうしようもない事情に縛られ、誰にも言えない秘密を持っている彼らもまた「怪物」ではなかった。

そして、その「怪物」の正体は依里という2人の子どもらへ紡がれていく。

依里は知的障害、もしくはLGBTQの障害を持った少年であり、父親からその障害を異常=「怪物」だと言われ続けていた。また、それは学校の同級生からも同じ対応をされており、いわゆる”いじめ”の標的になっていた。
それももはや当たり前なもの
しかし、湊は依里のことを普通だと思って関わりたかった。だけれども、いじめられたくないという気持ちから湊もいじめに加担してしまう。
それも仕方のないこと

しかし、湊と依里は学校の外では普通に関わるようになり、2人だけの秘密基地で遊ぶようになる。そこで湊は、依里の他の人と違う価値観や、自分の知らないものを持っていることに対して、魅力的に思うようになる。
その想いは、友情という好意を越えて、愛情という好意に変わっていく―。
そんな湊を見て、依里は「僕もLGBTQだけど、湊もそうなんじゃないの?」と尋ねる。
湊はその(湊視点からすると)異常な感情を受け入れられず、依里と再び距離を取るようになる。
だが、その後に教室で起きた喧嘩を機に、湊はその感情を受け入れようと決意する。依里を父親からの虐待から解放した湊は依里と向き合って生きていくことを決める。

そして...、”綺麗な残酷”と呼ぶべきラストシーン。名作に等しいほど鮮明に覚えているあの光景。忘れることはない。

==========================

結局、「怪物」の正体は人間の醜い部分そのものだった。偏見や差別をしてしまう、あるいはしたくなくてもしてしまうそのことだった。

それはどんな人間にもある本当に小さなもの
だけれども、その小さなものは人を傷つける。その小さなものは戦争でさえ引き起こす。

だからこそ「怪物」というタイトルは相応しいのだと思った。

一つの街で起きた些細なこと。当たり前の生活のなかでも見ようとすれば見えるもの。

それを見て見ぬふりをする私こそが「怪物」なのではないかと思うほどにしっくり来てしまった。

キャラクターの設定や舞台設定、ロケーションもかなり画として強いものがあった。

湖を囲む街並み、少し高台にある古びた小学校、廃線した線路の近くの秘密基地など、日本独自のノスタルジックな要素があり、幼くも色気のある依里や、親も先生も人間であるという側面も描いた群像劇。すべてに魅力があったと感じる。

それを映像としてどう表現するかを、キャリアの色が濃く出た是枝さん、計算された設計で脚本にまとめた坂元さん、唯一無二のメロディラインでクライマックスシーンを音楽で支えた坂本さん。

3人の個性がうまく引き出された傑作だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?