化粧
ファッションと同じく、化粧も苦手だ。
あんまり興味がなかったというのもあるけど、化粧については母が絶対ダメという方針で、何も持たせてもらえなかった。
肌が丈夫な方ではないというのもあったのだろうが、日焼け止めすら使わせてもらえなかった。高校生になっても!
私の肌は、元気であっても「顔色が悪い」と言われるぐらいで(血色が悪いせいもあるのだろうが)、美容の面だと周りにうらやましがられるほど白い。
小学校低学年の頃は、「おばけ」だの「幽霊」だの「骸骨」だの言われていたぐらいだったので、正直この「白い」ということについて全く嬉しくもなかったし自慢する気持ちもなかった。
「白くて気持ち悪い」と言われて泣いて帰ると、母が「白いっていうのは良いことなの。そのうちわかる」と言ったり、何かの時には祖母に「白くてみんな羨ましいんだと思うよ。色白は七難隠すっていうから」と慰めてくれた。七難ってほど難があるのか私には……と思ったことも覚えているが(ひねくれ者)
じゃあ日焼けすればいいのかと思っていたし、サッカーをしたり外で遊ぶこともままあったので、初夏から晩秋ぐらいまでは自然と焼けて、長じるにしたがってあまり「おばけ」系の言葉はぶつけられなくなった。
中・高校生になると、そろそろ周りも化粧に興味を持ち始める。紫外線どうのこうのとか気にし始めるお年頃。
母もさすがに体育祭等の外で過ごしてめちゃくちゃに焼けそうな日ぐらいは、日焼け止めを(母のを)貸してくれて、塗った記憶はあるが、それ以外で自分のタイミングで塗る日焼け止めはダメ!だった。
それだけ白いので、いきなりきれいに日焼けできますという感じではなくて、どちらかというと真っ赤になってしまうタイプだったし、肌も強くないわけだから、夏の体育の前ぐらいには日焼け止め塗りたい!と訴えたけど、ダメだった。まだ早いと。何が早いのかよくわからない。
そのころになると、「おばけ」の代わりに「白くて羨ましい」と友達に言われるようになったし、何より母が一番羨ましいと言っていた。
私の肌は父に似たようで、いつも「お父さんに似て白く生まれてよかったわね」と言った。「お母さんは黒いから羨ましい」と。
だから、日焼け止めは塗らせてもらえなかったのだろうか。
子供の頃のように、自然にこんがり焼ければよかったのか。七難隠すはどこへ行った。隠させてくれ。
日焼け止めですらそんな感じだったので、ファンデーションやらアイシャドウやらマスカラなんてもってのほかだった。
母自身、そんなに化粧に興味がなかったのかもしれないが。「大学生の頃、二十歳を過ぎても化粧をしないのは、よっぽど自分の顔に自信がある人としか思えないって言われて、それから化粧をすることにした」と何度も言っていたので、逆説的に二十歳までは化粧はしなくてヨシ!と思っていたのかも。本当逆だよ。二十歳になったら必要って思ってるなら教えといてくれよ。
私も私で、中学生当時の親友だった子が、「その目が羨ましい。まつ毛もビューラーなんて要らんやん。買わんでいい」と言ったことがあって、私は化粧については全く無知なことも自覚していたから(なにせ言われたときにビューラ―がわからなかった)、なるほど私はビューラーは要らないんだなと思った。
し、実際社会人になって数年するまで持っていなかった。
あの子が要らないっていったからには、要らないんだろうと思っていた。意外と素直なところもあるんですよ……
ついでに、「肌も別にそのままでええやん。逆に荒れそう」みたいなことも言われたので、そうかも、と思って終わった。存外に素直な(略)
親も化粧品は要らない、友達も別に要らないんじゃない(本人はしてる)、と言われてきたし、当時の私は私で、高校に上がってから、クラスメイトが毎朝綺麗に髪型をお団子にセットして、ファンデにマスカラに、とやっているのを見て、「朝何時間かかってるんだアレ……無理……寝たい…」と思っていたので、今文句タラタラ言っている感じになっているけど、自業自得な部分はかなりある。
どうしてもやりたければ雑誌でも買って勉強すればよかったし、本やゲームを買うのに使っていたお小遣いを化粧品に回せばよかったのに、そんな気はさらさらなかった。なんか気圧されちゃってね。今からやってもあんなに綺麗にセットはできないし。朝は寝てたいし。寝かしてくれー。学校行きたくないー。
そうこうしているうちに大学生になって、まあ別に田舎の大学だし、大学生だらけの町で、しかも結構勉強厳しめな学校の学生だから、それこそ千差万別というか、化粧の仕方わかんない人も結構いたし、化粧!美容!ばっちり!という人もいた。
最初は焦ってなかった気がするが、やっぱりこのあたりから、あれ化粧できないとまずくない?という場面が出てくる。
その最たるものが就活だった。
いや、もちろん化粧しないでイケる人もいるし、行ってた人もいるけど、いきなりさあ化粧だ!就活でウケがいいメイクはこうだ!みたいな情報は確かにあって、やっぱり印象をよくするためには小綺麗でないといけなくて、そこで初めてちゃんとやんなきゃなと思った。
思ったはいいものの、いきなりできるわけじゃないから、そりゃあもうわけわかんないって感じだった。
友達に聞いて教えてもらったりもしたように思う。
眉毛を書くのもアイライナー書くのなんかは社会人になっても苦手でできなくて、30代が近づいてきた頃ぐらいに頑張りだしたぐらいだったから、それまではバランスがおかしい化粧だったかもしれないし、今でも十分おかしい気もする。
口紅系は一切塗らないし。薬用リップだよ……一気に顔がドギツくなるの嫌だし色入ってると皮ぺりぺりするんだ……
「これ!」という正解がわからないし、どういうメイクが似合うのかわからないし、そもそも慣れていないから技術がないし、じゃあ練習しようったって時間もないし(優先順位の問題で取らなかったというのが正確か)、上達しないから余計やりたくない。
一度勤めていた会社の催しみたいな感じで、メイク教室があって、それで教えてもらったりもしたけど、その通りに後でやってみても、もともと顔の造形が派手めなのもあって、「なんだこの舞台メイクみたいな化粧は!」と自分ではなってしまう。それも、ノーメイクに慣れていて違和感があるというのが大きいのかもしれないけど。どうなんだろう。
最近、学生のうちは「化粧はダメ」と言っておいて、成人したら急に「ある程度のメイクがマナー」というのはやめてほしい、ちゃんと教えておいてほしい、という話を時々目にするようになって、本当にそうだなと思っている。
興味がない私のようなのだって、いずれ「やった方が有利」「ある程度できて当然」みたいな環境に放り込まれることになるわけだから、それならそれでちゃんと「一回やってみようよ」という雰囲気があってしかるべきだし、そんな数年の違いで「ダメダメダメ」から「やれやれやれ」と言われるのは納得がいかない。よね。うん。
在宅の仕事になって化粧をする機会が減り、辞めてさらに減り、この昨今の情勢で気軽に友達とも会えなくなったのでさらに減り……
毎回化粧をするたびに、「なんか違うなこの顔」と思う。だいたいアイラインをひくのに失敗するし。
まあね、子供の頃とは違って、ファンデーション的なものぐらいは塗って、眉毛ぐらいは書かないと、お肌が……となるぐらいには歳も取ったし、そいういう感性というか価値観みたいなものが自分の中にあるから、なんとかうまい感じで化粧できるようにならないかなーと思いながら、結局近所のコンビニやらスーパーぐらいならノーメイクで行く生活。
だっていまマスクだし。そういう意味では、多少は楽なのかな。アイラインはマスク関係ないけど。
幾つになっても化粧って難しいわ。
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