ryutaro amano

天野龍太郎。1989年生まれ。東京都出身。音楽やポップカルチャーについての編集とライティング。アイドルは相米慎二と黒沢清。

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天野龍太郎。1989年生まれ。東京都出身。音楽やポップカルチャーについての編集とライティング。アイドルは相米慎二と黒沢清。

最近の記事

盛夏火『熱病夢見舞い』の感想、あるいは盛夏火がかける演劇の魔法について

1. 「まだ〜? 早くしないと夏、終わっちゃうよ!」  9月になっても、夏がぜんぜん終わらなかった。10月になってちょっと涼しくなったけれど、2日と4日には真夏日が復活したらしい。私は半袖のTシャツや短パンをいまだに着ているし、ホットコーヒーじゃなくてアイスコーヒーを飲んでいる。会社のパソコンは、扇風機を常時全開で、至近距離で当てていないとまともに動かない。夏はいつ終わるんだろう? 早く終わってくれ。私は春と秋が好きなんだ。夏なんて大嫌いだ。  気候変動問題は、ほんとうに

    • 公社流体力学グレイテスト・ヒッツ『頭中蜂』の感想

       金曜日。オリヴィア・ロドリゴの来日公演を見にいって、感動というよりも、すごくハッピーな感覚を受けとった。オーディエンスの最高なムードや、席がめちゃくちゃよかったことも大きい。自分のようなシスヘテロ男性のソロ参加は、あきらかに相当なマイノリティだったものの。  終演後、左隣に座っていた、おなじくソロ参加だった若い女性が、公演の最後にぶわーっと放たれた星型の紙吹雪を「いりますか?」と差しだしてくれたのだが、「いや、いいです!」と断ってしまったのが心残り。なんかライブの感想とか、

      • 内藤ゆき「炊飯器でお米を炊いて炊けたら終わる演劇『夏の毛になる』」普通炊き公演の感想

         盛夏火の『熱病夢見舞い』を8月9日に見た。もともとマーライオンや九龍ジョーさんが関わっている(?)こともあって、盛夏火という名前を知ってはいたものの、上演を見たのは初めてだった。  いや、なんというか、すごかった。2019年に九龍さんが『夏アニメーション』について「巧拙を超えた演劇の魔法が降り注ぐ」と書いていたけれど、ほんとうに、まさにそんな感じだった。正直に言って、演技はバラバラで、なかなかめちゃくちゃなのに、それを凌駕していくマジカルなドラマのようななにかにすべてが牽引

        • 映画『彼方のうた』の感想|天使のまなざし

           ポレポレ東中野での上映の最終日に、『彼方のうた』をすべりこみで見た。  多摩川沿いの京王線沿線の風景も、キノコヤも、前作から続投した俳優たちも、ひとつの世界を完全に充足するかたちでなしていて、圧倒された。それは、さながら杉田協士ユニバースであって、画も、演出も、俳優たちの演技の間あいやテンポも、画面の中に漂い観客を包みこむ空気感も、すべてがどこまでも杉田の映画の世界だった。終映後のトークイベント(歌人で、『春原さんのうた』の原作を詠んだ東直子との対談)での杉田いわく、『春

          したため #8 『擬娩』の感想|他者の経験を想像し模倣してみること、あるいは演技についての演劇

           したため#8『擬娩』を見た。せりふにはユーモアと笑いがふんだんに含まれていたものの、緊張感のある演技と展開が常に、最後まで持続していて(それを象徴していたのが、ステージに張りめぐらされたテグスだろう)、笑っていいのやら、いけないのやら……と混乱しながら見ていた。中盤からは、めちゃくちゃ笑ってしまったけれど。  擬娩。妻の出産を夫が模倣する習俗のこと、らしい。  この変わった風習は、作品の主題であり、『擬娩』の上演や公演そのものが擬娩にもなっている。俳優たちの演技は、擬娩と

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          ピーピング・トム『マザー』の感想|死の絶対性が生きる者を襲い、波打つ感情は激しいダンスへと変わる

           ベルギーのダンスカンパニー、ピーピング・トムの『マザー』を見た。  私は舞台芸術や演劇については素人なので、ピーピング・トムの公演を見るのは当然はじめて。まずは、ユーモアがふんだんに盛りこまれていたことに驚いた。  けれども、それと同じくらいに悲痛な感情が詰めこまれた作品で、生と死をめぐる表現は、そういう表現に対して最近、特に敏感になっている自分にとって、心理的にけっこうしんどくもあった。それほどまでに、かなしみ、怒り、苦しみ、痛みが、かなり激しく、生々しく、身体と音を使

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          額田大志演出、サミュエル・ベケット『いざ最悪の方へ』の感想|テクストと俳優の声、身体との死にものぐるいの格闘

           額田大志演出、サミュエル・ベケットの散文を用いた演劇……と言っていいのか、不思議な公演『いざ最悪の方へ』を神保町のPARA theaterで見た。  『いざ最悪の方へ』を見て、もっとも強く感じたことは、ベケットによって書かれたテクスト、しかも翻訳されたテクストとの格闘だった。ベケットのテクストとの、くんずほぐれつの、死にものぐるいの、取っ組み合いの喧嘩が、ひたすら上演されていたのだ。  『いざ最悪の方へ』のテクストは、もともと限定された語彙を反復しながら崩れていくフレーズ

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          屋根裏ハイツ7F公演『父の死と夜ノ森』の感想|生、死、暴力の偶然性、そして死の不可逆性

           STスポットで屋根裏ハイツ7F公演『父の死と夜ノ森』を見た(この上演も、岡崎藝術座の『イミグレ怪談』と同じく、ハスキーさんに教えてもらった)。おもしろかった。……というか、ラストシーンがなんとも怖くて、鳥肌が立った。  『父の死と夜ノ森』で語られたのは、生と静かに対峙する、いくつもの死や暴力だった。生がきわめてランダムで偶然であるように、生に振りかざされる暴力も、それによる(または、それによらない自然な)死も、偶然でしかない。  生、死、暴力が、そして、その圧倒的な偶然性

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          岡崎藝術座『イミグレ怪談』の感想|幽霊はボーダーを越えるのだろうか?

           岡崎藝術座の『イミグレ怪談』を見た(公演のことは、友人で戯曲を書いているハスキーさんに教えてもらった。わたしは演劇には疎いので、ハスキーさんや同級生の俳優、豊島晴香さんに色々と教えてもらっている)。終始、なんだか軽薄で、おもしろおかしくて、かなりニヤニヤしてしまった。けれども、そのユーモアや軽さと裏腹に、劇のテーマは侵略と移民、植民、戦争などで、かなりヘビーかつアクチュアルだった(「最近、おんなじような話しを聞いたよね、日本で」というせりふのキツさといったらなかった)。  

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          YPAM、ヤン・ジェン『ジャスミンタウン』の感想|輝くダンスと言葉が交差させるアイデンティティ、ルーツ、歴史、土地

           最近、演劇やダンス、舞台作品などを以前よりも見ています。わたしは公演を見た帰りに電車の中などでその感想をツイートすることが多いのですが、せっかくなので、それらをアーカイブしておこうと思いました。というのも、自分は過去のツイートをすぐに消してしまうくせがあるから。直近のもので無事に残っていたのは、2022年12月10日にKAAT 神奈川芸術劇場で見た『ジャスミンタウン』の感想でした。  その前に、最近だと、ウンゲツィーファの『モノリス』(10月7日|ギャラリー南製作所)、カゲ

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          「コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい」。サニーデイ・サービスの“コンビニのコーヒー”という曲について考えること

           サニーデイ・サービスのニューアルバム『DOKI DOKI』が、1か月ほど前にリリースされた。最高のアルバムだと思う。  もちろん、前作の『いいね!』も大好き。ただ、出た当時は痛快で爽快なロックンロールレコードだという印象で驚いたけれど、もっと突き抜けた『DOKI DOKI』がリリースされた今になってみると、『いいね!』はブルーな陰りがある作品のようにも思える。新しいドラマーの大工原幹雄さんと録音した曲も、そうでない曲もあって、音のテクスチャーやプロダクションもどこかいびつで

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          メタルを個人的に再考。2010〜2022年の私的メタル名盤30 その1

           なんとなくですが、じぶんのメタル観、メタルというジャンルやスタイルの好きなところ、あるいは好きなミュージシャンやバンドの作品への思いを一度、言語化しておきたいと思いました。  それには、いくつかの理由があります。  まず、最近、キング・クリムゾンやラッシュの作品を聞き返していて(前者はYouTuberの動画、後者は『ムーヴィング・ピクチャーズ』の40周年盤のリイシューがきっかけでした)、そこからメタルへの思いが再燃したからです(両者はいわゆるプログレッシブ・ロックのもっと

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          映画『春原さんのうた』の感想|「不在」を映す映画

           ない、ない、ない。  いない、いない、いない。  『春原さんのうた』は、端的に言って、「不在」についての映画だ。まかりまちがっても、「喪失」や「欠落」についての映画では、けっしてないはず。なぜなら、過去に「あったもの」の「喪失」や「欠落」は、いつか埋めあわせられないといけないのであり、回復されたり、癒されたり、忘れられたりしないといけないからである(それこそ、『ドライブ・マイ・カー』のように)。『春原さんのうた』という映画は、なにも回復しないし、忘却もしない(むしろ、忘

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          2022年、個人的に勝手に活躍を期待している日本の新人(?)アーティスト17組(artists to watch in 2022)

          この記事で紹介しようと思って原稿を書いたのですが、事情があってお蔵入りになってしまったものを、大幅にハイパー加筆修正したうえでここに掲載します。内容はタイトルにあるとおり(17って中途半端な数字だな~)! 以下、順不同で敬称略。 あと、これを読んだみなさんのおすすめのアーティストも、ぜひ教えてください。 Yank! 2016年に結成された東京の4人組、Yank!。サイケデリックロック、ポストパンク、ダブ、ミニマルテクノ、オルタナティブヒップホップなどからの影響を感じさせる

          2022年、個人的に勝手に活躍を期待している日本の新人(?)アーティスト17組(artists to watch in 2022)

          Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)#3: Daniel MillerとMute Recordsに登場した楽曲を紹介

          電気グルーヴのYouTube番組『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』の第3回がアップされました。テーマは「Daniel MillerとMute Records」。 わたしは毎回QJWebでそのテキスト版を担当しているのですが、今回、原稿に仕込んでおいたアンオフィシャルなYouTube動画がすべてカットされてしまったので、ここではそれらと記事に掲載された楽曲をあらためて紹介したいと思います。 今回のテキスト版は、いつも以上にかなり詳細な注釈を付してい

          Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)#3: Daniel MillerとMute Recordsに登場した楽曲を紹介

          非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30について その1

           ここでは、タイトルにあるとおり、わたしの「非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30」について書きたいと思います。  そもそも、わたしは、noteというか、ブログですらきちんと続けたり、使いこなしたりできたことがないわけですが、最近のあれやこれやで、noteをつかうのが早くもいやになってきました(そう思っているひとも多いのでは)。とはいえ、代替のプラットフォームも思いつかないので、とりあえずnoteで……。  ここで紹介するのは、Peterさんと

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