【東京非常事態】 無双と現実の対比が心に刺さった

東京非常事態
講談社 2020年7月6日 刊行予定
相川みかげ

NetGalley様よりゲラを頂き、読了いたしました。

副題に「MMORPG化した世界で、なんで俺だけカードゲームですか?」と書いてあることからもわかりますが、異世界転生モノですね。とはいえ、異世界の住人に呼ばれたわけではなく、現世で死亡したわけでもなく、何かの事件に巻き込まれたわけでもない。この手の作品では珍しいかもしれませんが、現実世界から何の前触れもなく、現実から異世界に切り替わるような、そんな異世界モノですので、転生ではなく「異世界へ次元転換」みたいな感じかもしれません。

さて、MMORPGを遊んだことのある方なら理解できると思いますが、その名前であるMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)という名前からも遊び方としては複数人を想定されています。プレイヤーはロール(職業)という概念で自分がとるべき行動を決めていくのガセオリーです。
そんな世界に、剣と魔法が飛び交うような世界に「手持ちのカードでデッキを組んで、交互にプレイする」のが通常であるカードゲームの能力を職業としてしまったらどうなってしまうのか。
この作品では、主人公の扱い方が非常に考えられていると思います。
通常、異世界転生作品では主人公は全てにおいて飛びぬけている、もしくはある分野において突出した能力を一つもしくは複数もっているのがセオリーです。理不尽な理由で異世界に渡る分、無双できるような能力が付与される、といった感じでしょうか。

この作品の主人公「逆蒔京也」は、そんな主人公特権なのか、もしくは運がないだけなのか、MMORPGの前身であるトレーディングカードゲームのクロノ・ホルダーの能力を得ることになります。
他のプレイヤーに比べれば自分のステータスは極端に低く、弱いモンスターさえ満足に倒せない。
でもね、これMMORPGプレイヤーならすぐに気が付く。この能力、おそらくはオンリーワンの能力であると推測されるカードによる効果というのは、かなり協力なバフ・デバフを使えるのではないだろうか?
トレーディングカードゲームの効果というのは、カードのレア度や使う場面によってはその戦闘を支配できるくらい協力な効果を発動させるのが少なくない。
さらに言えば、オンリーワンの能力であるため、他のプレイヤーと効果が重複することが予測できる。

相当に強い能力だ。
いかんせん、逆蒔くんがそこに気が付いていないのが残念かもしれない。

ヒロイン枠の黒乃も話し方が独特で、逆蒔を手玉に取るようにからかうような子でありながら、強い。
ちゃんとMMORPGっぽい戦い方をしてるのも好感がもてます。
一緒に行動したら疲れちゃうかもしれませんけど。

それから、この作品の中盤には主人公ではない目線でMMORPG化した同じ世界が語られるのですが、この内容が素晴らしい。正直、逆蒔と黒乃の二人だけの話だったら、そこまで面白いと思わなかったかもしれません。物語が盛り上がってきたあたりで、この内容を盛り込むことで、この作品がぐっと引き締まったと思います。

あ、そうそう。逆蒔が最後に引いたレアカード。この効果ってみんな予想はするけど外れたんじゃないかなぁ。
あの本編の流れで、引いた時のリアクションを見れば、弾いたカードの効果を察してしまうと思うんですよね。まぁ察して思いつくんだけど外れるという。
絶対に、みんな同じ効果を考えたと思うんだよなー。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…