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【ワトソン力】 推理好きなみんな、集まれー

ワトソン力
光文社 2020年9月17日 刊行予定
大山誠一郎

NetGalley様よりゲラを頂き、読了いたしました。

ワトソン力(りょく)という言葉から、なんとなくシャーロック・ホームズの助手であるワトソンとの関連を思い浮かべるかもしれませんが、まさにその通り!
シャーロック・ホームズといえば世界的に有名な探偵であり、並外れた推理力を駆使して犯人を追い詰めていきます。その傍らで捜査の手助けをしているのがワトソン。
本作では、そのワトソンが不思議な力でホームズの推理力を上げていると設定し、そのような「周りにいる人間の推理力を上げる力」を「ワトソン力(りょく)」としています。
多少「んんっ??」と感じないこともないですが、妙な説得力もあるのでよしとしましょう。

推理小説の代表的な形というのは、名探偵のような人が数少ない証拠を集めて、ビシッと犯人を言い当てる、というものでしょう。それはそれで爽快感もあり、魅力的なキャラクターも確立されるので、読者も楽しみやすいかもしれません。
ですが、この作品は名探偵という存在を捨てました。
主人公は、自分の操作能力はほぼ皆無だが「ワトソン力」を持っている和戸宗志。自分の能力に気付いた和戸は、警視庁に就職し、多くの事件に挑む。
挑む?
違うな、参加する、だな。
作中でも、和戸は事件中に特に何もしていません。事件の概要を整理したり、状況を把握したりすることはありますが、事件を解決しようと積極的に動くことはありません。
事件を解決するのは、和戸の周りにいる人です。
通常、推理というのは、一人の人が現地で痕跡や証拠を集めて、少しづつ事件解決への筋道を築き上げて、最終的に決定的な証拠を見つけて犯人を特定するものです。
ところが、本作は事件が起きた現場に「たまたま居合わせた人」が、和戸のワトソン力によって推理力を向上させられた結果、推理に推理を重ねあい、結果的に解決までもっていってしまうという、なんとも力業が素晴らしい内容となっています。
これね、推理小説を読む際に読者がやってきたことを疑似的に作中に入れているような気がします。
推理小説なんだから、当然読者も自分なりの推理を頭の中で展開しながら読んでいると思うのです。
その推理って、名探偵のような推理にはならないとは思うのですが、推理自体が楽しいからアレコレと考えてしまう。
そのアレコレのような内容の推理を、作中の登場人物たちが繰り広げてくれるのです。
ある事件に関して、Aという人が自分の推理を披露すれば、Bという人がその推理の穴を指摘したうえで自分の推理を披露する。するとCがAの推理の穴を補完したうえで自分の推理を披露する。
推理のミルフィーユですね。
この積み重ねによって、最終的に犯人を指摘するに至る、というなかなか珍しい形です。

ちょっとだけ気になったのは、都合が良すぎるかな?というところでした。
ワトソン力という設定があるとはいえ、素人が次から次へと推理を展開できるものかな、という違和感はあるし、そこに犯人がいれば犯人もワトソン力を駆使して推理を攪乱しようとするんじゃないかな。
とはいえ、これまでにない設定での推理小説は純粋に楽しめました。
ラストで続編を匂わせていましたし、また読んでみたいですね。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…