見出し画像

【君が、仲間を殺した数 -魔塔に挑む者たちの咎-】 心を失った人間の、仲間を想う強さ

君が、仲間を殺した数 -魔塔に挑む者たちの咎-
KADOKAWA 2020年10月10日初版発行
有象利路(うぞう としみち)

ダークファンタジーとでも表現すればいいのか。
独特な雰囲気を纏った、最近珍しいきつめのストーリーは読む人を選ぶのかもしれませんが、これは多くの人に読んでほしいなぁ。

帯に書いてる情報はネタバレにならないと思うので、少しストーリーを紹介します。

塔を中心に栄えている街では、塔の頂上を目指し多くのパーティーが毎日塔へ赴いていた。主人公であるスカイツも幼馴染を中心としてパーティーで塔の攻略を目指していたが、その最中で命を落とした際に、ある存在から祝福を受けてしまう。
その祝福とは、
「自分が死ぬと、その場に居合わせた仲間の能力と、その仲間の『存在そのもの』を吸収して生き返る」
という内容だった。
望んでもいない祝福にスカイツの心は乱れていく。。。

こんな感じかな?
この紹介文を読めば、どう考えてもハッピーな展開は望めないことは明白で、読者を選びそうなところなんですが、ちょっと待ってほしい。
この作品、たしかにダークな表現や、そこまでは・・・といった表現は多いのですが、ストーリーやキャラ設定は非常によく練られていると思うのですよ。
主人公のスカイツのちょっと後ろ向きな性格や、スカイツの幼馴染たちのそれぞれの性格等、やろうと思えばそのままハッピーエンドにもできちゃうような気がします。もちろん、それをしてしまえばこの作品の良いところは埋没し、ありがちな話になってしまうかもしれませんが。。。
まぁ、何をいいたいかといえば、そのような設定であるから、読みにくさを感じるということは全くないのです。
いつも愛読している、読み慣れている主人公たちが、気がつけば救いようのない話の中にぶちこまれている。それでも読むことを止められず、有象さんが作り出した世界の中にどっぷりと浸かってしまいます。
読むことがあまり速くない私が、二日で読んだことからもそれを理解してもらえるのではないでしょうか。
ほんと、この作品は多くの方に読んでほしいなぁ。
抗う力、想いの強さ、絆やつながり。人生において色々な大事な気持ちが詰め込まれた、そんなことを考えさせてくれる作品でした。

それからもう一つ!
私がこの作品を購入するきっかけとなったのは、タイトルと「表紙」でした。
表紙を描いた方は「叶世べんち(かなせ べんち)」。
主人公スカイツの傷ついた姿と、塔を踏破する決意、仲間たちの記憶を噛みしめたような表情。素晴らしいです。正直、この作品の表紙を叶世さんが描いていなかったら、購入していなかったかもしれません。
電撃文庫のHPで確認してください。ここです。


それでは、ここからは触れてこなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。









本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。

上にも書きましたが、本当に素晴らしい作品でした。
物騒なタイトルから、電撃文庫っぽくないなぁと感じたのは、Twitterをぼんやりと見ていた中にこの作品の情報を見つけたときでした。
ただ、その表紙絵がものすごい迫力で、タイトルとの相乗効果で気になって気になって、読みたくて。
ようやく購入して読んでみれば、二日ですよ?
いやー、一気読みだった。

スカイツは自分のせいで仲間たちを失ったと考えていますが、これ、スカイツは何も悪くなくて、全ては気まぐれでスカイを選んだイェリコが悪いでしょ。
いや、まぁ後出し条件は付いているものの、仲間たちを蘇らせてくれるんだから、絶対的に悪いわけではないけど。それでもスカイツがここまで悩み、苦しみ、もがこうとするのは、スカイツが絶対的なリーダーの気質を持っているからなんだろうなぁ。責任感ともちょっと違う。自分の意志で全てを決めていくことの反動といいますか。
だから、俺が仲間を殺したって思ってる部分があるのだろうな、と。
それだけにちょっと気になったのはタイトル。
「君が、」って付いてるんだけど、ここでいう「君」ってのはスカイツのことを指しているんだろうか。もし、そうだとすれば、このタイトルは誰の発言なんだろうか。
作者が意味もなくタイトルをつけるとは思わないので、このタイトルは誰かがスカイツに対して発したと思うんだよなぁ。
スカイツは仲間を殺そうとはしていないし、むしろ守り、救おうとしていた。結果的に仲間はスカイツの祝福(呪いに近いけど)によって存在自体を消されてしまったけど、それは決してスカイツが殺したわけじゃない。スカイツは自分が殺してしまったと考えているかもしれないけど、そうであれば「君が」とは表現しない。「俺が」となるはず。
それどころか、スカイツの復活で仲間が存在を消されたってことは、仲間に関する記憶は無くなっているので、仲間を殺したとは誰も思わないはず。
唯一の例外が同じ祝福者であったシアだけど、シアがスカイツにこんな言葉をかけるとは思えない。あれほど悲しい別れをするくらいに、お互いがお互いを大事な人だと考えていたのだから、絶対にシアじゃない。
うーん、わからないなぁ。
見方によっては、クアラだけはスカイツが殺した、と言っても間違いではないかもしれない。塔を誰よりも速く踏破すれば仲間が蘇ることを理解したうえで、地這い人の襲撃で命を失いかけているクアラを抱いて塔に入り、自らの命を絶った。スカイツが行ったことは自殺だけど、それをやってしまえばクアラの存在は消えてしまう。それを「殺した」と表現するのは難しいかもしれないけど、スカイツはそう考えてしまうんだろうな。でも、これだってクアアの存在が消えている以上は誰もわからない事実。

うーん、イェリコが最後にスカイツに語る言葉なのかな。

うん、もしかしたら続巻でわかるかもしれない。
続巻に期待しよう。

さて、ちょっと落ち着いて色々書いていこうかな。
表紙のタイトルの下に、小さく何かのアイコンのような記号のようなものが5つ並んでおり、そのうち3つに赤い斜線が引かれていますね。こんな何気ない、それでいてこの物語を象徴するような情報は大好きです。
そう、ジョブアイコン、それも初期ストラト・スフィアのメンバーですね。上から、射手、双剣士、構術師、刃輝煌聖、塔導師。後から加わる星光雪華が抜けてるんだね。
それにしても、このジョブの読み方も秀逸だと思う。
シューター、デュアルってのはわかるけど、アリス、グロリアス、タワーメート、ルミナスってのはなかなかでてこないと思う。当て字っちゃそうなんだけど、その漢字から連想できない造語を当てて、それでもイメージを崩さないどころかこれしかないと思わせる説得力。いやー、このジョブ名にはやられました。
んで、改めて表紙を見ると、全部装備してんだよね、スカイツ。
切なくて泣けてくる。。。

この物語って、最後まで読むと気が付くけど、ストーリー全体の序章なんだよね、きっと。おそらく、塔を踏破した後もすんなりとハッピーエンドになるとは思えないんだけど、まずは塔を踏破しなければ物語を動かせない。そのためにも、無茶でも危険でも前に進み続ける主人公を作る必要がある。そのための、本作だったのかなって。伝説の塔を制覇する男は如何にして作られたのかを語る前日譚。そういった位置づけなのかな、と。冒頭の物語が、塔を踏破しようとしているスカイツの話だと思うし、作者の後書きにも、もう一度この物語の続きを綴る、と書いてあるし。
本作で終われば後味の悪い状態のまま、読者も煮え切らない感じが残るけど、続巻でどのような展開を見せてくれるのか期待します。

シアについては、苦しかったろうな、と思う。
おそらくスカイツも仲間たちも知らない回数の死を、シアは経験して乗り越えてきたんじゃないかと思うんだ。シアが探索で命を落とした時、探索当日の朝に戻れるって能力のキモは、仲間たちはその現実を知らないってこと。スカイツはシアの能力を知った後に、自分の苦しみを激昂しながらシアにぶつけていたけど、シアだってスカイツの知らないところで何度も何度も自殺にならないような自殺を経験して、パーティーの全滅を防いだこともあったんじゃないかな。
スカイツにそれを理解しろとは言えないけど、自分の苦しみがあるんだから、シアの苦しみだって理解してほしい。それは全てが終わってからでもいいんだし。冷静になればそれが理解できるとは思うんだけど、そのときの精神状態がどうなっているか。
あんな別れ方をして、いままでの生活とは全く異なる孤独になってしまって。シアの今後が本当に心配。

あ、そうそう。
作者のあとがきに、続編の告知がこの次のページにあるんじゃないかな、と書かれていました。作者もあとがきの時点では不明ですとは書いていましたが、その告知がなかったのがちょっと不安です。
絶対に続編を出してほしい。
塔を登り切って、イェリコに約束を果たしてもらったスカイツの姿を見せてほしい。

いや、それにしても素晴らしい作品でした。
今年読んだ本の中でも衝撃を受けた一冊です。もし、これが上下本で一気に完結まで読めたとすれば、今年の最推しになってたかもしれません。
今年の読者による文学賞の一次推薦、どうすればいいかわからなくなってきました。
素晴らしい作品に出会える喜びだな。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…