三体 良くも悪くも三部作の一冊目なのです


読者による文学賞の二次選考 レビュー3冊目です

今回3冊目の本はこちらになります。

三体
早川書房 2019年7月15日 初版発行 2019年7月20日 6版発行
劉 慈欣(リウ・ツーシン/りゅう じきん)

既にSF界では続編を待たれている、三部作の第一作目ですね。
すごく偏見だということは理解しているけど、SFってなんとなく欧米が主流で、アジアから世界に通用するような作品って出てこないと思っていました。
ですので、この作品を読んで驚愕です。間違いなく、本格SFです。
ちょっと軽い気持ちで「少し時間あるし、ちょっと読むかー」なんて感じだと序盤から頭を殴られるようなシーンで話が始まったりします。
何も考えずに読んだとしても楽しめるとは思いますが、色々知識を得てから読んだほうが楽しめるとは思うので、再読はおすすめですし、途中で知識をつけるために他の本を読んで勉強するのもいいかもしれない。
じゃぁ何を勉強すればいいのか?これは是非読んで確かめてほしいけど、物理(天体力学)と中国史、とだけは伝えておきます。苦手な人でも、さわりだけでもいいので知識として持っていればさらに楽しめると思いますので、是非。

本作は三部作の第一作目ということで、作品の導入部分である様々な紹介や説明が多く書かれています。登場人物であるとか、世界観であるとか、作品の世界に起きる事件であるとか、そのようなことを紹介することをメインとした内容となっています。
三部作に分かれるとはいえ、紹介や説明が多いと読みやすそうな雰囲気がありますよね?
ある意味、この考えは裏切られます。文章が難解であるとか、表現がわかりにくいとか、そのようなことではなく、話の展開がよくある小説の流れじゃなかった。全然想像もできないような展開で、頭の中が混乱しながら読んでは戻り、読んでは戻り。
これで三部作の一作目か。相当気を入れて読んでいかないと、ついていくのも大変な気がします。とはいえ、面白いのは間違いありません。
物語って起承転結で構成されるような話を聞いたりすることがあったけど、この三体に関しては「起」ですね。作中に盛り上がるような、読者を驚かせるような場面は登場しますが、読み終えた感想は「おもしろかった!」よりも「続きが読みたい!」が強かったように感じます。
それ故に、本作は三部作の「起」と感じるのではないでしょうか。作中に、どうしてもわからない話や謎のような部分が多すぎて、導入部分なんだなぁという印象が強くなってしまいました。
この辺りは、ミステリーと同じようにSFも踏み込んで書いてしまうとつまらないと思いますので、割愛します。読んでいない方の楽しみを奪うことになってしまうので。
書評って難しい。

私のこの文章で、どれだけの方に面白さを伝えることはできているのか。
この作品は、SFが好きな方はもちろん知っているでしょうし、書店でも大きく取り扱っていることが多いように感じますので、今回の文学賞の「発掘」というキーワードにはあまり合わないかもしれませんが、読み応えもあり、オールタイムのSF代表作の一つになりえるような作品です。
少しでも興味を持たれたら、読んでみることをお勧めします。


それでは、ここからは触れていなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。









本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。

表紙を見てワクワクして、おいおいこれは近未来が舞台のSFかい?なんて考えながら表紙をめくり、第一部を読む。ん?1967年?文化大革命?はい、パニックです。
最初から期待を裏切られましたね、予期せぬ方向で。これはSFやミステリーを読むにあたって、間違いなく面白くなる裏切り。期待は高まったまま、読み進めました。
本書は三部構成となっています。
第一部は三体という物語の、本当に根本となる出来事を淡々と書いています。文章に感情の起伏が感じられない分、起きた出来事の大きさや影響が力強く書かれていく。
この第一部は、短い話の中で葉文潔が絶望に至る流れとなっていますが、絶望感を感じさせず、それを読者に思わせてしまう。このあたりは、翻訳者の方々は、本当に苦労したのではないかと思います。本来の言語で書かれた文章を、言葉の表向きの意味だけではなく、言葉い込められたもう一つの裏の意味まで読み解かないと、そう感じることはないでしょうから。
翻訳のわりに、読みやすいと感じたのも、そのような苦労があったのでしょう。

第二部は現実の出来事とVRの世界で繰り広げられる出来事の交互に書かれています。この切り替わりがまた秀逸です。
ここでの主人公は、葉文潔から王淼に変わってます。ここから魅力的な人物が次々と物語を進め始めます。
現実世界のパートは物語が加速するように、ぐんぐん面白さを増していきます。その現実世界パートに差し込まれるように書かれるVRパート。物語中では「三体というVRゲーム」とされていますが、このVR世界で書かれる内容が不思議な世界で、現実パートから頭を切り替えて読まないと、理解すら追いつきません。
すごい。本当にすごい。
個人的にはこの第二部が好きです。三体というVR空間に出てくる歴史の偉人達との会話はなかなか読ませます。周の文王が出てきたり、墨子が出てきたり、ニュートンやアインシュタインまで。
この第二部は、もう一度じっくり読み返してみたいです。
今の感想と、再読したときでは、おそらく大きく異なる感想が得られると思うのです。時間を作って、時間がでるまでには、もう一度再読しておきたいと考えています。

そして、第三部。まさかの未知との遭遇でした。
VRゲームである三体、その優秀なプレイヤーを集めてのオフ会で宣言される、実際に存在する三体世界(三太陽世界)。この辺りで私は物語に飲み込まれています。話についていけない、と表現しても同じかもしれない。
文化大革命でスタートする物語の着地点が、VR世界のゲームを経て、VR世界で表現されていた世界は、現実に存在する三太陽世界を表現していると語られ、その世界に住む三体人が地球に文明があることを知る。これは読者には想像もできない展開だと思うのです。
次巻以降は、地球と三体世界の関りが書かれることになるのでしょうか。

本書は葉文潔という人間の物語でした。最初から最後まで。
葉が出てこないパートであっても、葉にかかわる方や考え方等、葉の影響が散りばめられており、第三部のラストではそんな葉の全ての出発点である紅岸基地跡地で物語を終えます。
葉に残された生命の残り火は使い果たすように基地跡地まで登り、最後にもう一度だけ見たいと願っていた日の入りを見る。
このときの胸中は物語の中で語られていませんが、どのような感情が訪れていたのか。
SFというと、どうしても近未来だったり、現在を遥かに超越する技術だったりを想像してしまいます。そういった意味では三体はSFというジャンルなのでしょうが、読み終えて感じたことは「葉文潔」という人間の、壮絶な生き様を描いた小説なのかな、ということでした。
存在感のある人間が主軸となる小説は、本当に印象が強くなる気がします。
本書は、そう感じたうちの一冊となりました。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…