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Uber Eatsで頼んだものが来なくても、キレない方がいいかもしれないよ【小説です】

「今、何気なく過ごしている日常のわずか数ミリ隔てたところに、もしかするととんでもなく恐ろしい未来が眠っているかもしれない」と思ってゾッとしたことはありませんか? 僕はありますし、いつもヒヤリと冷や汗をかいています。

ただ、そんな想像をしていればいるほど、そういう未来が実現するのを防げるようにも思えるんです。常日頃ふっと頭の中をよぎっていくそんな怖い未来を反面教師にして、平和に生きていけたらそれに越したことはないですから、そんな妄想を忘れないように文字に起こしておこうというのがこの企画「反面教師シリーズ」

第1弾は「デリバリーサービスで頼んだものが来なかったとき」のありえるかもしれない出来事です。

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いくら何でも遅い。もう着いてもいい時間じゃないか? デリバリーサービスの画面を見ながら、もう家のすぐ近くにいる配達員の表示を見て、苛立っていた。

あと1分で到着するという表示から、もう5分くらいは経っている。迷っているのだろうか。迷っているなら、電話の1つでも入れればいい。こっちは客なのに、どうしてやきもきしなければならないのか。みんなすました顔をして「客は神様じゃない」と表では言っているけれど、こんなことになれば同じような感情を抱くはずだ。外に出すかどうかは、置いておいて。

仕事も終わっているので、こっちから迎えに出て行ってもよいのだけれど、置き配指定をしていたので、できれば対面はしたくなかった。服は部屋着で、風呂にも入っておらず、ひげも伸び切っている。だからといって別に恥ずかしいわけではないけれど、出なくていいなら外に出たくはないし、そのためにわざわざ道順まで丁寧に書いて置き配を指定しているのだから、できれば面倒なことはしたくない。というか、そこまでちゃんとやってくれないと、わざわざ高い金を払っている意味もないじゃないかと思う。

そうこうしている間に、アプリの表示が変わった。「ご注文の品が届きました」。インターホンは鳴っていないし、写真も送られて来ない。嫌な予感がした。急いで玄関に見に行くも、商品は置いていないし、配達員の姿もない。やられた。

時々、こういうことがある。間違って配達してしまったのだろうか。それとも、配達したことにして自分で食べている不届きものがいるのだろうか。もしくは、そういう詐欺グループでもあるのだろうか。

夜ももう遅かった。頼んだ店舗はもう注文を受け付けていない。返金は簡単にできるし、まだやっている他の店を頼むこともできるのだけれど、それじゃあ腹の虫もおさまらなかった。注文の画面が消える前にヘルプページを開き、配達員に電話をかける。

注文中であれば直接配達員に電話ができるのだけれど、注文後はいったん運営の自動音声につながなければならない。長ったらしい自動音声が流れるが、構わず「1」を押す。そうすれば、配達員へとつながる仕組みになっている。

コール音が数回鳴るも、電話は切れてしまった。すぐさま、自動音声にかけ直し、「1」を連打する。またコール音が鳴り、電話が切れる。すぐに自動音声にかけ直し、「1」を連打する。コール音が鳴り、電話が切れる。

出ない。

こういう場合、大抵配達員は出ない。というか正直なところ、本当に配達員の電話にかかっているのかも分からない。本当につながっていたにしても移動中だろうから、電話には出にくいだろう。

けれど、そんなことは関係ないのである。なぜならこっちは、普通より圧倒的に割高なお金を払って、お腹が減っている中、おいしい食べ物が届くのを心待ちにしているのだから。一刻も早く対処してもらわなければ困る。

何度も何度も電話を掛け直す。着信履歴を見てギョッとすればいい。向こうの業務に支障をきたしたって構わない。どうせ、今ごろ商品を盗んで、食べているに違いないのだ。そんなことは、絶対に許さない。

そう思いつつ、10回も20回も電話をかけていたら人間さすがに飽きるものだ。お腹も減っている。もうそろそろ返金対応をして、新しいのを頼んでもいい時間だった。

30回目の電話。これで最後にしようと思ったが、やっぱり出ない。電話が切れた音がし、その後に留守電の案内が流れたので、メッセージを残すことにした。

「あのさあ、商品届いてないんだけど。今、どこにいんの? もうさ、お腹ペコペコなのよ。どうせあれだろ? お前食ってんだろ、俺のやつ。分かってんだよそんなことはさ。マジで、お前さ、配達員としての自覚ある? あるわけねーよな、そんな適当な仕事しててさ。もうあれだから、評価は下げさせてもらうんで。マジ、ほんと人なめんのも大概にしろよ? 他の人に迷惑かける前にとっとと辞めちまえ、クソ無能がよ」

どうせ伝わらないだろう。そうタカをくくって、電話を切った。それから返金を申請した。「商品が到着しなかった」を選んだら、ものの数秒で注文がキャンセルされた。そして、新たに牛丼を頼むと、別の配達員がさっきの待ち時間は何だったのだろうと思えるくらいはやく、牛丼の豚汁セットを持ってきてくれた。

(*)

仕事の疲れを抱えて、家に着いた。はやくベッドにダイブでもしようと思いながら鍵を開けていると、背後の道路にバイクが止まった音がした。振り返ると、デリバリーの配達員だった。家に入ろうとすると、そのバイクから降りた男がうちに向かって歩いてくる。商品を頼んだ覚えはない。

「あの、うちですか? 頼んでないですけど」

男はでっかいリュックを下ろし、ガサゴソとした後、中からナイフを取り出した。

「言われた通り、他の人に迷惑をかける前に、配達員辞めにきました」

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Uber Eatsや出前館といったデリバリーサービスは便利ですが、住所が明らかになるというリスクもあります。置き配だったりすると顔も見えないから油断しがちですが、やっぱり配達員の人にはリスペクトを持って接したいものですね。

※物語はフィクションです。実在の人物やサービスとは一切関係ありません


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