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まいにち易経

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当マガジン『 #まいにち易経 』は、難解な易経の内容をわかりやすく解説。現代の混迷を生き抜くための叡智と指針を与える必読マガジン。 竹村亞希子先生【「易経」一日一言】と本田濟先生…
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2024年5月の記事一覧

まいにち易経_0531【混沌】

人間というのは、どうしても物事を分けて考えるクセがある。それが良いとか悪いとか、有用とか無用とか、そういうレッテルを貼って安心したがる生き物だ。でも『荘子』が語る「混沌」の世界では、そういった分別の知恵を超越した、万物が一体となった絶対無差別の真の実在が存在するというのだ。この考え方は、まるで宇宙全体が一つの巨大なジャムセッションをしているような感じで、個々の音が混ざり合い、全体として完璧な調和を生み出しているかのようだ。 考えてみれば、日常生活の中でも「混沌」は意外と身近

まいにち易経_0530【中庸:囚われなく、その時に適切な】怒るべきときには烈火のごとく怒る。

「中庸」と聞いて、あなたはどんなイメージを抱くだろうか。もしかすると、穏やかで、優柔不断な人間像を思い浮かべるかもしれない。しかし、それはとんでもない誤解だ。中庸とは、ただただ波風を立てずに生きることではない。その核心には、状況に応じて最善の行動を選び取る知恵と勇気が詰まっているのだ。 近所に、いつも静かに微笑むおじいさんがいる。彼はまさに中庸の達人だ。毎朝、公園のベンチに腰掛け、鳩に餌をやりながら通り過ぎる人々と挨拶を交わす。彼の穏やかな態度は、まるで風に揺れる柳のようだ

まいにち易経_0529【いのちのちからと調和】庶物に首出して、万国ことごとく寧し。[01䷀乾為天:彖伝]

現代語訳 なんと素晴らしいことだろう。乾(けん)の偉大な成就の時だ。万物(すべてのもの)が生まれ始め、成長を始める。乾の力がすべてのものを支配している。雲が湧き出て恵みの雨を降らし、それぞれが形を作り、流れ始める。これは物事の始まりと終わりを示す「龍の六変化」だ。 君子(立派な人)の才能がまだ見えない潜龍(せんりゅう)が、志を立て、師匠に出会い、努力に努力を重ねて、恵みの雨を降らす飛龍(ひりゅう)として大空に飛び立つ。 乾(天)の道は陰陽(いんよう)を調和させ、役割を果たし、

まいにち易経_0528【来るべき日のために……毎日の努力が未来の成功を創る】君子徳に進み業を修むるは、時に及ばんと欲するなり。[01乾為天/文言伝/第二節(人事)]

九四曰、或躍在淵。咎无、何謂也。子曰、上下无常、非爲邪也。進退无恆、非離羣也。君子進德脩業、欲及時也。故无咎。 九四の爻辞「あるいは躍りて淵に在り、咎なし」の意味について孔子は以下のように答えた。九四の龍は、高いところに上ったり、低いところに降りたりと、一定の位置にとどまらない。しかし、これは不正や悪事をするわけではなく、自分の仲間を見捨てたり、世の中を無視して勝手な行動をすることもない。君子は道徳を修養し、怠らず努力して時機を逃さないようにする。そのため過失なく、誰からも

まいにち易経_0527【人の心の動きを観よ】天地感じて万物化生し、聖人人心を感ぜしめて、天下和平なり。その感ずるところを観て、天地万物の情見るべし。[31䷞澤山咸:彖伝]

彖曰。咸感也。柔上而剛下。二氣感應以相與。止而說。男下女。是以亨利貞。取女吉也。天地感而萬物化生。聖人感人心而天下和平。觀其所感。而天地萬物之情可見矣。 彖に曰く、咸は感なり。柔、上(かみ)にして剛、下(しも)なり。二気感応(かんのう)して以て相い与(くみ)す。止まって説ぶ。男女に下る。ここを以て亨る。貞しきに利あり、女を取るときは吉なり。天地感して万物化生す。聖人人心を感して、天下和平なり。その感するところを観て、天地万物の情見るべし。 ある企業の新人研修に招かれた老易学

まいにち易経_0526【罪を憎んで人を憎まず】田して三狐を獲、黄矢を得たり。貞しければ吉なり。[40䷧雷水解:九二]

九二。田獲三狐。得黄矢。貞吉。 象曰。九二貞吉。得中道也。 九二は、田(かり)して三狐(さんこ)を獲、黄矢(こうし)を得(う)。貞しければ吉なり。象に曰く、九二の貞吉(ていきつ)なるは、中道(ちゅうどう)を得うればなり。 「田(かり)」は日常で必要な物を作り出す場所。会社では利益を生み出す現場にあたる。田を荒らす悪い狐三匹を捕らえたが、うまく射止めたために矢が手元に戻ってきた。「黄矢(こうし)」とは「黄色の矢」。これは悪人を狩るのに中庸の精神で行ったという意味である。狐は問

まいにち易経_0525【いたずらに凶を忌み、脅えない】吉凶とはその失得を言うなり。[繋辞上伝:第三章a]

彖者。言乎象者也。爻者。言乎變者也。吉凶者。言乎其失得也。悔吝者。言乎其小疵也。无咎者。善補過也。 彖とは象を言うもの也。爻とは変を言うもの也。吉凶とはその失得を言う也。悔吝とはその小疵を言う也。咎无しとは善く過ちを補う也。 彖は「彖辞」いわゆる「卦辞」と呼ばれるもので、一つの卦全体が示す象徴を説明する。対して、爻は「爻辞」となり、六つの爻が陰陽の変化を通じて物事の微妙な状況を説明するもの。 「卦辞」は、一つの卦の全体像を描く。一方「爻辞」は、各爻が持つ個々の意味を詳細に説

まいにち易経_0524【疑心、暗鬼を生ず】睽きて孤なり。豕の塗を負うを見、鬼を一車に載す。先にはこれが弧を張り、後にはこれが弧を説く。[38䷥火澤睽:上九]

上九。睽孤。見豕負塗。載鬼一車。先張之弧。後説之弧。匪冦婚媾。往遇雨則吉。 象曰。遇雨之吉。羣疑亡也。 上九は、睽いて孤なり。豕の塗を負おえるを見る。鬼を載すること一車。先にはこれが弧を張り、後にはこれが弧を説す。冦するにあらず婚媾せんとす。往きて雨に遇えば吉なり。象に曰く、雨に遇うの吉なるは、群疑亡ぶればなり。 火沢睽は、疑いや不信感がもたらす孤立と錯覚の危険性を教えています。 「睽きて孤なり」 背いて逃げ、孤立することを意味します。対立や不信感が原因で、人間関係が悪化し

まいにち易経_0523【慢蔵誨盗】蔵むることを慢かにすれば盗を誨え、冶かなる容は淫を誨う。[繋辞上伝:第八章]

慢藏誨盗。冶容誨淫。(まんぞうかいとう・やようかいいん) 蔵むることを慢かにすれば盗を誨え、冶かなる容は淫を誨う。 『易経』の中には、さまざまな人生の教訓が隠されている。その一つが「冶容」、すなわち「なまめかしい容姿」である。これには深い意味が込められている。まず、冶とは「野の仮借」、つまり野蛮で無法なことを意味する。この「冶容」は、「野容」という表現もあるが、いずれにせよ、なまめかしい姿を示している。易経の作者は、人間の欲望や弱さを熟知していたに違いない。易の解釈によれば

まいにち易経_0522【患を思う】患を思いて予めこれを防ぐ。[63䷾水火既済:象伝]

象曰。水在火上既濟。君子以思患而豫防之。 象に曰く、水、火(ひ)の上に在るは既済(きせい)なり。君子以て患(かん)を思いて予めこれを防ぐ。 ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る 『水火既済』の卦は、成功や達成の時期を象徴しています。具体的には、物事が完全に成し遂げられた状態、つまり「既に済んだ」状態を示しています。皆さんもご存じのように、成功は喜ばしいものです。しかし、この卦は単に成功を祝うだけでなく、成功の後に

まいにち易経_0521【動に生ずる】吉凶悔吝とは、動に生ずる者なり。[繋辞下伝:第一章]

吉凶悔吝者。生乎動者也。剛柔者。立本者也。變通者。趣時者也。 吉凶悔吝(きつきょうかいりん)は、動より生ずる者なり。剛柔(ごうじゅう)は、本(もと)を立つる者なり、変通(へんつう)は、時に趣く者なり。 ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る 人生には必ず良いことと悪いことがあります。幸せな時期もあれば、苦しい時期もあるでしょう。しかし災いや幸運は天から降ってくるものではありません。これは、自分の行動や態度によって決

まいにち易経_0520【震えるほどの後悔~吉凶悔吝】悔吝を憂うるものは介に存し、震きて咎なきものは悔に存す。[繋辞上伝:第三章b]

憂悔吝者存乎介。震无咎者存乎悔。 悔吝を憂うるものは介に存し、震きて咎无きものは悔に存す。 卦爻辞における「吉凶」とは、事の善し悪し、つまり運勢の良し悪しを意味する。吉は順調で幸運を象徴し、凶は困難や不運を示す。古来より、人々はこの吉凶に一喜一憂し、自らの行動や決断に反映させてきた。 一方、「悔吝」は少々異なる概念。悔吝とは、道義的には必ずしも悪くはないが、時と位にそぐわない小さな過失を指す。例えば良心に照らせば問題ないが、社会的な状況や立場によっては誤解を招く行動というよ

まいにち易経_0519【どっしり構え、ゆっくりと進む】止まって巽う、動きて窮まらざるなり。[53䷴風山漸:彖伝]

彖曰。漸之進也。女歸吉也。進得位。往有功也。進以正。可以正邦也。其位。剛得中也。止而巽。動不窮也。 彖に曰く、漸(ぜん)の進むや、女(じょ)の帰(とつぐ)ぐに吉なり。進んで位を得(う)、往(ゆ)きて功あるなり。進むに正(せい)を以てす、以て邦(くに)を正すべきなり。其の位、剛にして中(ちゅう)を得るなり。止(とど)まって巽(したが)う、動きて窮(きわ)まらざるなり。 ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る 私も若い

まいにち易経_0518【上昇の条件】柔、時を以て升り、巽にして順、剛中にして応ず。ここを以て大いに亨る。[46䷭地風升:彖伝]

彖曰。柔以時升。巽而順。剛中而應。是以大亨。 用見大人勿恤。有慶也。南征吉。志行也。 彖に曰く、柔(じゅう)、時を以て升(のぼ)り、巽(そん)にして順(じゅん)、剛中(ごうちゅう)にして応ず。ここを以て大いに亨る。 用て大人を見る恤(うれ)うるなかれは、慶(よろこ)びあるなり。南征して吉は、志し行なわるるなり。 ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る 皆さん、こんにちは。まず、『地風升』とはどのような意味を持つのか