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HARD&SOFT全曲解説2「レイワ・イポーニャ ~おそロシア~」

Key: Cm
Artist: RIZARDI feat. Ryusei
BPM: 158(最後は190BPMまで加速)
一部原曲: トロイカ(ロシア民謡)
タイアップ: 府中ゴプニク文化資料館 イメージソング(※架空の施設です)

<GOPNIK meets ロシア民謡>
Я люблю русскую традиционную музыку!
(意:私はロシアの伝統的な音楽が大好き!)

ロシアンハードベースとの出会い

一度定着した知識って何きっかけで知ったかもう覚えてないって話はままありますが、多分きっかけは2段階ありました。最初はこちらをご覧ください。

2組ともロシア出身(当時まだよく知らないアーティストでした)ですが、これ見よがしに強調されたオランダ感にのめり込みました。RIZARDI――※私です――の話によれば「Gabber」はオランダ発祥の言葉ですし、ビートに合わせて独特なステップを踏むダンススタイルはHakkenといい、オランダで流行しているのだそうです。

※Hakkenについてしっかり記述のある貴重な参考元


Russian Village Boysを掘り始めてちょいちょい聴いてた中、確か(今は亡き)NAVERまとめで”重低音が~”とか”ハードベースが~”的な内容の記事を読んで、やっと「ロシアンハードベース」の認知に至ります。ついでにXS ProjectやGopnik McBlyat、Alan Aztecといったその方向のアーティストも色々知れたことは大きな収穫でした。

ロシアンハードベースは、ハードコアテクノやハードスタイルなどの音楽がロシアで独自の進化を遂げた音楽ジャンルであり、ロシアでは普通に「ハードベース(Хардбасс)」と呼ばれます。力強い4つ打ちのビート、跳ねるようなベースサウンド、MCによるラップなどが盛んに取り入れられ、レイヴカルチャーにも近しい位置にあります。

↓空気感が分かりやすい曲をRIZARDIに教えてもらいました。彼は根源的にガラ悪い音楽・頭悪い音楽・クスリやってそうな音楽に近づくフシがあるのではないでしょうか。


ゴプニク(Gopnik)とハードベース

なお、ハードベースに必ずと言っていい程結びつけられるのが、ロシアのヤンキーこと「ゴプニク(Gopnik)」の存在です。見てくれでガラが悪いのはまあもちろんですが、それらを印象付けるのが「アディダスのジャージ」「しゃがみ込む」「ヒマワリの種を食べる」などといった強烈な特徴の数々。面白いのが、それらがどれもこれもちゃんとロシアの文化や思想にルーツを持っていることです。

画像検索して出てくるのはリアルにこんな画ばかり…ゴプニク達はこぞってその濃ゆいステレオタイプに倣うのです。ここまで来ると、ある種ロシアの文化を重んじる「愛国心」なのではないかと思えてきます。

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ゴプニクはインターネットミームとしても拡散されましたが、ロシアと言えばご存知の通り「ソ連」「ロシア元首」「ロシアンジョーク(=アネクドート…後述)」といったゴリゴリのネタがたんまり広まるお国柄です。ゴプニク文化もそういう濃ゆい”ロシアっぽさ”がウケたのかと。


詳しくは「ロシア ヤンキー」で検索!!!


ロシア(民謡+ハードベース)より愛をこめて

ハードベースのガラの悪さをさんざん語ったあとでナンですが、RIZARDIとRyuseiの連名でハードベースを作るにあたり、「あえて」「わざと」「よりにもよって」ロシア民謡との融合を目指しました。

去年の春、大道芸人出身のデュオ・チャラン・ポ・ランタンがロシア指向な曲「コ・ロシア」をリリースしておりまして、この壮絶な曲展開とメロディやコードからくる歌謡感に圧倒されました。不肖ロシア民謡大好きマンはめちゃくちゃヘビロテしてまして、ロシア機運もちょうど高まっていた頃でした。


イントロ・ビルドアップ・アウトロにはオリジナルのロシア民謡風のトラックを作り、さらに中盤には本物のロシア民謡「トロイカ」をミックスしています。アウトロではだいぶスネアの裏打ちを目立たせていますが、これは主に前述のチャラン・ポ・ランタン由来です。

ここは同じくロシア民謡のコロブチカにする準備もありましたが、あれは色々引用されている(「コ・ロシア」でも大々的にフィーチャーされています)のであえてこっちにしてみました。ただ、私自身のメロディメイクのクセのせいか、ロシア民謡のメロディ・コードを割り込ませても驚くほどすんなり収まりました。

こういったロシア民謡は加藤登紀子ダークダックス、その他多くのアーティストが日本語で歌い継いでいるので、日本人にも馴染みがあると思います。ゲーム業界だとロシアで生まれたテトリスにもガッツリ使用されています。

構想段階ではCDの後半に入るのではないかと踏んでいましたが、後々になってこのノリは”ビッチマン”の次(=2曲目)だろうという判断に至っています。

一方、前段にも書いた”跳ねるベース”の主たる原料は「ドンクベース」(Donk)といい、「ッコンッ!ッコンッ!」というアタック感のあるハードベースの定番サウンドです。本場ロシアから配布されていた音をいざ取り入れてみると、ベースラインとして支えても良し、メロディとして前に出ても良しの多機能な快音でした。ドロップ(サビ)でフックとなる「ミ♭ ドミ♭ド ミ♭ ドドレ ド ファ ファ」のメロディラインを奏でています。

ハードベースも元をたどればダンスミュージックなので、やっぱり人々を踊らせる流れがあって然るべき。そのためか自然と「レイワ・イポーニャ ~おそロシア~」は「バース(歌・ラップ)→ブレイク→ビルドアップ→ドロップ(歌なし)」というEDM寄りの曲展開になっています。


踊りに行こうや(158)JAPAN

ロシアのヤンキーみたいに日本を踊らせたい…

日本で流行ったダンスと言えば…

「恋ダンス」


海外のポップス事情すら呑み込んでJ-POPど真ん中を貫くマルチクリエイター・星野源。人類の愛の育み方に一石を投じた社会現象ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」。YouTube、TikTokなど隆盛する動画投稿サイト。これらの存在が混ざり合って爆拡散された有名なダンスです。個人的には、余興とかで取り組む分にしては難しすぎるんじゃないかとかよく思ってました。

ポップスにしてはちょっと速め。このユニークなテンポが、158BPM(=1分間に158拍打つ速さ)です。

もっと言えば、メンバーのステップが話題になったこの曲…サカナクションの「新宝島」も、同じテンポです。


ここから日本人をウキウキで踊らせるのにピッタリなのは158BPMではないかという考えに基づき、「レイワ・イポーニャ ~おそロシア~」も158BPMにしました。もちろん、ロシアンハードベースにもピッタリです。

この158BPMに目を付けた人はいないかとツイッターで調べたら、なかなかいました。「ようこそジャパリパーク」などを生み出した作曲家・オーイシマサヨシも、「恋」がリファレンスとして提示されてわざと全く同じ158BPMにした「オトモダチフィルム」を完成させたエピソードも見つかりました。


なかなかいたと書きましたが、たまたまRIZARDIの3年前のツイートも捕捉。この頃から、しかも新年早々にこんなこと考えてたんかって気持ちになります。


About 府中ゴプニク文化資料館(※架空の施設です)

所在地:東京都府中市御布肉町7-1922
アクセス:京王線府中駅よりシベリア鉄道で33時間
期間限定入場特典:アディダスのジャージを着て来館、または受付で「HARD&SOFT」のジャケット(または画像)を見せるとクヴァス※1本サービス

駅近くにはロシア料理のレストランがあるようでしたが、当然当該楽曲との関係はありません。

※クヴァス=ロシアなどで愛飲される麦芽飲料。アルコール入りのためビールにも近い。もちろんゴプニクも飲む。

曲中のロシア語について

意地でもロシアを詰め込むノリで、簡単な言葉を調べつつリリックに落とし込みました。ハードベースのパターンに則ってMCはラップ調にゆるく合わせているのに、サビは結局日本の事歌ってるんですけど、結果として置いたフレーズはちゃんと”~IA”で韻を踏めておそロシア。

歌詞カードに訳を書く隙間がなかったので、ここですべて披露させて頂きます。

Коня
読み:コニャ
訳:馬

Медведь
読み:ミェドヴェーチ
訳:熊
※この言葉は”蜂蜜”を意味する「мёд」に由来する語で、現在は”熊”を意味するものの、元々直接”熊”を指し示した言葉ではありません。興味深いです。

Рэйва Япония
読み:レイワ・イポーニャ
訳:令和・日本

Прекрасная гармония
読み:プレクラスナヤ・ガルモーニャ
訳:美しい調和(=”令和” Beautiful Harmony の訳語)

Я люблю Япония
読み:ヤ・リュブリュ・イポーニャ
訳:私は日本を愛しています

Спокойной ночи
読み:スパコイノイ・ノーチ
訳:おやすみなさい

Вы пожалели!
読み:ヴィ・パジャレー!
訳:ごめんね!
※加藤登紀子が日本語で歌ったロシア民謡「ブブリチキ」から持ってきた言葉です。

Анекдот
読み:アネクドート
訳:大意としてはジョークや小話といったものですが、特段ロシア的(ソ連的)な政治風刺の要素があるものが代表的です。

Раз! Два! Tри!
読み:ラズ!ドヴァ!トリ!
訳:1!2!3!

最後に一言

日本ではあなたが音楽で踊る。
ソビエトロシアではハードベースがあなたを踊らせる!!!


次はディスコミュニケーションの悲哀を詫び散らす「XUIMAXEN.」をお送りします。


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