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ただいま、おかえり


人間ってこうやって丸くなっていくんだな、とリビングに飾っているかつての力強い父の写真をみながら、たわいもない会話をする。

父は母のことが大好きだった。

若い頃はとてもとても迷惑をかけていたけれども、その分はもうチャラになっていいほどに

母の晩年に、
父は母に尽くしていたように思う。

母の最期の瞬間、その振り絞った言葉も、
父の名前だった。

どこに行っても2個イチと呼ばれていただけに
とても寂しいことだろう。

一日に何度も、
その寂しさの瞬間に立ち会う。

父に聞いてみた。

「どんな時が1番さみしい、って感じる!?」

すると、

でかけて帰ってきた時、

「ただいま」と言っても返事がない時。と。

「そっかぁ」

そこで提案してみた。

私と2人でいるときはお互いに
「ただいま」「おかえり」って言い合うのはどう!?と。

すると、父は照れ笑いしながらも
「いいよっ」と言った。

早速ミッション決行の日。

父がデイサービスから帰ってくるのを見計らって
リビングで待ち構える。

玄関からなかなか「ただいま」が聞こえない

玄関を覗くと私の顔を見て「おぉー」といいながら
スリッパをはく。

そこですばやく伝えてみた。

「お父さん、ただいまって言ってみて。
今リビングに移動するからっ」

まるで寸劇のように、
帰ってきた場面をやり直す。

そして、
私がリビングのソファに座ると

玄関から大きな声で

「ただいまーーーー!」

と声が飛び込んできた。

私も大きな声で

「おかえりなさーーい!」って投げかけた。

父はほくほくの笑顔でリビングにはいってきた。

とてもちいさな瞬間。

だけれども。
父との間に、あたたかな何かが動いた。

お母さんが置いていってくれた
お父さん

ひとりきりになってさみしいかもだけど
いつか必ずお母さんの元に行けるからさ

だから、それまで
少しでも思い出を作っていきましょう。

今度は私がただいまーって言ってみようかな

お父さん、
そのときには大きな声でよろしく!


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