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昭和40年の戦後初の国債発行時に検討された「国債発行の歯止め策」を書き起こし

昭和財政史より、昭和40年、戦後初の国債発行時の、大蔵省における「国債発行の歯止め策」の検討記録を書き起こし

https://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/s27-48/15_03.pdf

国債発行の歯止め策について
昭和40年10月5日 理財局国庫課

国債発行にあたり,1.それが野放図に行なわれて経済の健全な発展を阻害しないように、2.また,その償還のために財政に過重の負担をかけないよう(財政の弾力性を維持できるよう)に考慮することが必要である

そのためには発行者の態度がもっとも重要であるが、客観的な方策によって国債発行が野放図に行われないようにすることも考慮されるべきであろう。そのための方策として次のような措置が考えられる.

ー、発行会計を特定のものにすることによる制約

国債発行をなしうる主体を特定の特別会計にすることによって,一応の制約を課そうとするものである.しかしながら,特定の特別会計の事業を公債によって賄うこととすれば,その特別会計の事業量増大の圧力がかかり,必ずしも国債発行の総量を合理的な限度にとどめうるものでない.また,民間の景気との関係で,公債発行を中止あるいは滅額した方がよい場合も,公債が特定の事業と強く結びついていると,事業費が長期計画の観点から滅額困難である場合,公債発行費の調整ができないということになる.

二、発行目的を特定の事業の必要資金調達に限定することによる制約

国債発行によって得た資金の使途を, 特定の事業(たとえば,束名高速道路あるいは中央じゅう貰道路の建設等)に限定することによって、起債総量に限定を課そうとするものであり、この場合には、事業名,事業内容,資金所要額,そのうち国債発行をもって賄う額等の計画が明確にされることになる.しかし,この場合同種の事業に拡がっていく懸念が強い.

三、国債発行会計と発行の主体者に償還財源を確保させ, 負担国債の償還計画を明示させることによって, 国債発行総額に自ら制約を課そうとする考え方

国債を発行した会計又は事業等と関連の深い収入金,税収から,又はなんらかの指標と結ぴつけて,一定額を国債償遠財源として確保することを強制する方法により償還計画を明示させることによって,国債発行の総額に自然的に制約を課そうとするものである.

(注)たとえば, 道路整備事業特別会計の場合, 道路揮発油税収入額に一定率を乗じた金額を償還財源として確保することを強制することによって,事業総額に自然的制約が課される(償還財源として強制されることによって,後年の事業費規模が自然に圧縮される)ことを期待したり,道路公団出資のための国債発行の場合,有料道路の料金収入の一定額を償還財源として強制することによって,同様の効果を期待するものである.

しかしながら,その会計で新規国債を発行しているときにこのような措置をとることの合理性の説明が困難である他,現実の制度として運用するためには、種々の実行上の困難が伏在しているものと思われる

以上一~三で述べたような歯止めについて何らかの数値を設定せず抽象的方法にとどめるやり方もありうるが,この方策はそれ自体歯止めとしての効果をもち難いことは上述の通りである.したがって統計資料によって国債発行についての一応の指標を考える方策の方がまだよいのではないかと思われる.もちろん,この場合にも変更が可能であるから,真に実効的な歯止めとしては,政治姿勢に期待するよりほかない.

四、財政需要総体にわくをはめることによって,間接的に国債の発行量を制約する方法

例えば,年々の財政支出の増加額を経済成長率との関連においてチェックするという方法によって,一定限度内に押え,この財政支出総額のうち租税収入をもって賄い得ない金額に限り国債発行を認める方法も考えられる

しかし,この方法は,租税収入のあり方、従ってまた滅税政策,租税の国民負担率等についての明確な考え方が確立されない限り,財政収入のうち租税収入にたよるべき額が恣意的に動かされることとなり,その結果として国債発行額が巨額になって徒に国債残高を累増させる危険性がある

五、国債償還費の負担及ぴ利払費の負担が適当と考えられる一定の金額を設定し,その範囲内で国債発行に計画性をもたせる方法

(イ)日本の過去の事例に徴して,債務償還,利払費の適正額(又は限度額)を算出し,国債発行をその限度内にとどめるよう国債発行に計画性を持たせる.
(口)上記の適正(限度)額は,過去の日本財政における国債の膨脹期,整理期,整理の完了期の実績に徴して判定することとする.


六、国債発行総量を市中消化可能な量にとどめることによって,国債発行に制約を課そうとする考え方が一般に主張されているがこれについてどう考えるか.

これは国債発行額を無理なく市中消化されうる範囲内にとどめようとする考え方である.国債の応募者利回りの向上によって,ある程度は消化の増加を期待しうるであろうが,応募者利回りが他の金利とのパランスを失して上昇せざるをえないような場合(民間資金と競合し,かつ景気加熱のおそれのある時期で,国債発行はさしひかえた方がよいと判断される時期とも考えられる.)には国債発行を断念しよう(従って,支出の削減あるいは繰越を弾力的に行なう)とするものである

しかし,この方法には

(イ)「無理なく市中消化される」とは,何を言うのか,その適正な解釈が困難である.

(口)市中消化可能額を経済見通し等によって当初から正確に予測できればよいが,それが非常に不安定である場合には国債の発行計画から事業計画までが策定できないこととなる,

(ハ) 日銀の金融政策如何,具体的には「市中消化」後の国債買取についての態度如何について,「市中消化可能量にとどめる」という制限方法は実効があがらないおそれが多分にある.

II 結論
1 財政支出総額の増加を一定率以下に押える,債務償還費及び利払費を財政支出の一定率内に限定する等の計数的な限定は,その計数が人為的に定められたものである以上必要に応じて変更することが可能であり,かつ限度的なものである以上,決定時には,数量的に余裕があると思われるので,現実感がなく,いづれも歯止め策としての効果は少ないものと考えられる.

国債発行の効果的な歯止め策としては,究極的には政治姿勢の問題とも思われるが,これのみに頼ることも問題があろう.

従って国債発行を市中消化の可能な範囲にとどめるとの原則にもとづき,発行条件も金融情勢,既発国債の市場価格の推移によって, 弾力的に定め,条件悪化の場合には,発行量の調整を行なうことが肝要であろう.

この場合も,市中消化の可能な範囲という意味が必ずしも明確でなく,又日本銀行の態度によっても変りうるという問題がある.

一方で新規債を発行しながら他方で既発債の償還又は減債基金への払込みを行なうことは無駄であるとの議論もあろうが,減債基金制度は新規発行に対するプレッシャーともなりうる(市価維持等既発債の管理上必要な手段となるもの)ので歯止め策との関連においても滅債基金払込み制度的に確立することも考慮すべきである.

以上

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