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「昭和財政史」より、昭和59年度の税制改正「史上二番目の規模の所得税減税」を書き起こし

昭和財政史より、消費税導入前夜、昭和59年度の予算編成方針より「税制改正」を書き起こし

この年の税制改正は、主に「所得税減税」が中心。クロヨン問題等、給与所得者の負担感の解消目的に、昭和49年度の「2兆円減税」に次ぐ史上2番目の規模の所得税減税がおこなわれた

以下引用

"臨調の「増税なき財政再建」命題は,その後の財政当局を厳しく制約し,財源不足の連続ではあるが,大蔵省の希望する裾野の広い一般消費税はもとより,税収純増となるような改正はほぼ封じられていたといっていい"

"だが一方, 年中行事のように,予算審議のたびごとに所得税減税が要求され,対症療法的な単年度減税や先送りが繰り返され,58年度には,既述のとおりやや本格的な改正の前どりのような改正がなされ,いよいよ本格的で大規模な「59年度の所得税減税は避けられないという状況」となっていた"

"当時課税最低限は,先進諸国のなかで日本はむしろ高いほうであったが,給与所得控除の引上げは49年の大減税以来10年ぶり,人的控除は52年の滅税以来7年ぶりのことで,その期間の「給与所得者の累増感を緩和する,なかんずく中堅所得者と……多人数世帯•••…に減税の恩典が行き渡る」ことが求められた"

"この間に「個人所得に対する所得税の負担割合は漸次高まってきているほか,給与所得者の納税者割合も9割に近い水準となって」いたからである。裏からいうと,「59年の所得減税は景気対策というような話ではなくて……給与所得者の負担感を緩和する」ためのものであった"

"したがって改正の中心は,基礎・配偶者・扶養の3控除がそれぞれ4万円引き上げられて33万円(改正前29万円)となるなどの,人的控除引上げと給与所得控除拡充であって,これにより,標準世帯(夫婦子供2人)の課税最低限は201万5000円から235万7000円に引き上げられた"

"税率についても,急カーブの累進からくるブラケット・クリープが生み出す累増感を緩和するため,最高税率の引下げ(75%→70%)と各段階の税率引下げ及び最低税率10%(適用課税所得60万円以下)を10.5%(同50万円以下)に引き上げたうえ, 税率刻みを19段階から15段階へと削減した.税率構造の改正も10年ぶりのことである"

"減税規模は,「所得税・住民税で平年度1兆円が目処と,これはむしろ政治的な要請」であった.そうなると所得税減税は平年度で7千数百億円となるが,「これは当然特例公債でやるわけにいかないので,既存の税制の中から財源を出すとすれば,本当にこの7千数百億円というのは政治的要請に応えるぎりぎりの限度であった」"

"ちなみに,実施された初年度所得税減税額は8700億円(平年度7650億円)であった.「この減税額は,49年度のいわゆる2兆円減税』に次ぐ史上2番目の規模である」
特例公債を避けてこの減税を賄うためには,他の税の増収が図られざるをえない.当時の税収構造はおおむね所得税6'法人税3'間接税3であったが,法人税率は56年に2%ポイント引き上げられてほぼ諸外国と同じ水準(42%)となっていたので,引上げについては経済界の反対が強い。間接税についても,56年の 「どぶさらい増税」のあとであまり増税の余地はないという状況であった"

"「結局, 足して2で割るような議論ですけれども,……税収構造が半々であるとすれば, 7千数百億円のうち半分は法人税で…•••あとの半分は間接税のグループで持つ」こととされ,法人税率は1.3%ポイント引き上げられ,普通法人は43.3%となった.法人税関係ではこの税率引上げのほか,延納制度の廃止,欠損金繰戻還付制度の適用停止などが行われた"

"こうした増収措置の景気への影響について,59年1月の税制調査会の「昭和59年度の税制改正に関する答申」では,「所得税減税に対応して財政赤字が拡大することによる悪影響を排除しようとするものであり,減税効果と合わせて全体としてみれば,景気の動向にマイナスの効果をもたらすことはないと考えられる」としていた"

"間接税グループで 「もう少し税負担を上げて財源が出るという税目は,酒税と物品税しか当時なかった」.酒税については高級酒ほど税率が高く低級酒ほど低いのを,後者の引上げ率を高めて是正し,全体として「従量税率を平均20%程度引上げることとされ」た。所得分布の平準化や消費の多様化がその理由とされた"

"もっとも,これ以後,他の酒から焼酎への急激な消費シフトが生じて「当面の減税財源を確保するということを目的にした59年の酒税の引き上げは……失敗だった」"

"一方, 物品税のなかで 「まとまって財源が期待できるというのは自動車関係部品だけ」で, それを実施したほか,新しい電子製品などを課税品目に追加した.「主としてしゃし品ないし比較的高価な便益品や趣味・娯楽品を課税対象にするという現行物品税の考え方にしたがい,あたらしく開発された物品等でその消費の実癌や現行課税物品とのバランスからみて課税することが適当と認められるものが課税対象に加えられた」のであって、その際パソコンやワープロなども検討された.これが取り込めれば, ロットの大きい税収が期待できるところであったが, 事務用機器ということで見送られた.そこで 「既存税制の部分的手直しをこれ以上やっても,税制に歪みが生ずるだけだし,複雑化するだけ」という 「非常に苦い思いをともなっている」というのが担当者の感想である"

"翌60年度の税制調査会の答申に,直接税・間接税全体を通じて基本的に税制改革を検討すべしという趣旨の記述があるのは,こうした事態を反映しているのであろう"

書き起こしここまで

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