若者のクラシック離れ

僕はクラシック音楽が好きだ。今は亡き祖父はレコード・CDマニアで、父が相続したマンションには壁にずらっとCDがあり、オーディオセットが設置されている。祖父はクラシックマニアだった。僕の高校以来の友人はクラシックオタクで、これまたコレクションが莫大で、何か録音を流すと演奏者・指揮者・オケを音だけを手掛かりに当てることができる。2人の影響を受けながら僕もクラシックにハマったし、大学ではオーケストラサークルに入団した。クラシック鑑賞サークルにも入会し、そこではサークル長も務めたこともある。

クラシック産業は衰退の一途を辿っている。プロオケのコンサートでは、客の多くが高齢。クラシックを聴く若者は、高齢・年配の客に比べると少ない。

実際に、オケサークルでは、年々入団者が減っていた。原因は様々あると考えられる。例えば、「のだめ世代の終焉」がまずは分かりやすい。有名なクラシック漫画・アニメである「のだめカンタービレ」は、若者のクラシック興味を焚き付けた。しかし、今となっては古い作品であり、当時漫画を読んでいたりアニメを見ていた層はみんな年を取った。のだめを観てクラシックを聴き始めた人や、楽器を始めた人が新入生にいなくなったのだ。

さらには、「音楽ジャンルの多様化」も挙げられる。僕が所属していたクラシック鑑賞サークルは90年の歴史がある団体で、昔は400名ほど会員がいたが、今では20人もいない。どうしてここまで劇的にクラシック人気が落ちたのか。それはクラシック以外に音楽のジャンルが多様化したからだと僕は考える。例えば、ロック・R&B・ジャズ・スカ・ヒップホップ・フュージョン・ヘビメタ・ラップ・吹奏楽・EDM・トランス・レゲエ・ボサノバ……などなど。つまり、聴く音楽のジャンルが枝分かれをするにつれて、クラシックに集中していた音楽人口が分散したのではないか、と考える。楽器演奏者にとっては、例えばトランペットやトロンボーンなら、クラシックよりもビックバンドの方がより目立てる。クラリネットなら、吹奏楽の方がたくさん担当曲を貰える。

加えて、「クラシックは高額」であること。もちろん、管楽器・弦楽器の価格はピンキリではある。ただ、技量が増すにつれて、安価な楽器ではプレイヤーの実力に楽器がついていけず、キャパオーバーになることがある。それに高価な楽器ほど良い楽器である傾向が極めて強い。良い楽器を使った方が、成長しやすくなったり、そもそも弾きやすい(吹きやすい)ことがある。良い演奏にはそこそこのお金がかかる。初期投資に多額の日本円が溶けてしまう。それにクラシックや吹奏楽は、収容人数の多い大きなホールを貸し切ったり、大型楽器を運搬するために輸送手段を確保するのにこれまたお金がかかる。

このようにしてクラシック人口が現象しているのだと僕は見当をつけている。

しかし、最大の原因は、「若者の忍耐力・集中力が低下した」あるいは「若者がせっかちになったこと」だと思う。

昔、携帯電話がなかった頃は、誰かとどこかに出かけるため待ち合わせをする上で、連絡手段がなかった。だから、早く着いたり相手方が遅刻している時、現代のように手っ取り早く「今どこ?」とLINEしたりすることができない。相手が遅刻していたとしても「辛抱強く待つ」しかなかった。
それに、今でこそ銀行ATMが街中に山ほどあり、キャッシュカードさえ持っていれば素早く現金を預金したり引き出したり振り込むことができたが、ATMのない時代は全部窓口処理だった。当然、人がかなり混み合うし、手作業なので時間がかかる。父は「昔は銀行に行くために仕事を抜け出すことができた」と言っている。それだけ待たされて時間がかかるからだ。人々は「待つ」しかなかった。
同様の変遷は、身の回りで多く見られるだろう。わざわざ時間や手間をかけなくてはいけなかった作業は、IT化・電子化の影響で極めて時間短縮され利便性が向上した。「待つ」ことであったり、「辛抱強さ」や「忍耐力」を養う機会が、現代の若者は著しく減少している。

「クラシック音楽」をみてみよう。ベートーヴェンの交響曲は全楽章聴くと、30分から1時間超かかる。マーラーならもっとかかるし、ワーグナーのオペラだったら4時間なんてザラ。「ニーベルングの指環」なんて4日かかる(もちろん指環を取り上げるのは極端ではある)。

「クラシック音楽」とは対照に、「J-POP」や「洋楽」の多くは、3分から5分程度。気軽に聴くことができる。クラシック好きな僕はロマン派交響曲だとかオペラや協奏曲だったりが好きだが、やはり長い作品を聴こうとする時は、クラシックを聴かない若者よりは慣れているにしても、ほんの少し""気構える""感覚がある。「よし、この作品通して聴くぞ」みたいな。一方で、ほとんどの洋楽や邦楽を聴く時は気楽に手軽にサクッと聴ける。

若者のクラシック離れは、多くの要因があるだろうが、若者の「待つ力」「我慢する力」「辛抱強さ」「忍耐力」が欠けてきた、という側面もあるのかもしれない。

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