見出し画像

【 tinymemory 5 】

あいつがハーレーに乗ってやって来た

夕暮れ時のセピアの空間が
嵐に襲われてしまった
あいつは豪快にドアを開け
居間のソファーにドカッと座る
窓辺のゆり椅子の彼女が
おびえたように そして守るように
うさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた

あいつはタバコをくゆらせながら
革ジャンのポケットから
おもむろに写真を取り出し
バサッとテーブルに置いた

ハマに行ってきたんだ

僕が入れたブルマンをごくりと飲み干し
ふぅとため息をつき
笑いやがる

僕は写真を手に取った
夕暮れの街並み
夕暮れの海
そして彼女の好きな夕暮れのポプラ並木

彼女の体調が数日思わしくなく
外に出られないことを
いったいどうやって知ったんだろう?
おびえていた彼女が
写真に目を留め
ふとその瞳を輝かせた

おい ギターまだあるのか?

ああ あるよ

僕はすっかり忘れられたギターを
押入れから取り出しあいつに渡した

そういえば...
学生のころ 僕たちはバンドを組んで
時々ライブハウスでやってたな
あいつはドラムで 僕はギター
タバコをくゆらせ
汗飛ばして
僕はあいつのドラムの音が好きだった
いつだったか聞いたことがある
なんでドラムなんだって
あいつはテーブルをポンポン叩きながら
や~ なんか こう叩いてるのが好きなんだと笑った

僕たちは
ずいぶん遠くまで来てしまったな...

あいつがギターを受け取り
懐かしむように弦をなでた
そして
かつてのあいつからは想像できない
静かな音色を奏で始めた

禁じられた遊び


ゆり椅子でぬいぐるみを抱きしめていた彼女が
その瞳にぬくもりをたたえ 涙をためて
微笑みながら目を閉じた



#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #詩物語

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切: