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【 Tinymemory 10 】

夕暮れ時に
君と歩いたポプラ並木は
今もやわらかな光を受けているだろうか
並木の横の川は
今も変わらず
静かなせせらぎを奏でているだろうか

葉の揺れ
水面のわずかな色彩の変化に
君の瞳が輝き 君の瞳が翳る
君との想い出は
いつもセピア色でよみがえる

あれから何年経っただろう
君が僕の腕の中で息を引き取ってから
時間が止まってしまった
それでも季節は緩やかに過ぎていく
僕は今でもこうして生き続け
若き頃の優しい時間に包まれている
いや 僕の人生は
今も君とともにある

君が遺したゆり椅子と
愛する子の写真と聖書は
どこに引越しても
夕日に染まる部屋の一角に置いてるよ
君が愛し 君に安らぎを与えた聖域

君の愛する子の誕生日には
僕は四苦八苦しながら
ホットケーキを焼き
クリームとフルーツで飾り
5本の蝋燭を立て
「いつくしみ深き」のオルゴールをかける
君の愛する子は いくつになっただろうね
何の情報も得られないまま
君がそうしていたように
僕も秋のあの日に祝っている

あいつは今でも時々
ハーレーに乗ってやってくる
あいつとはだいぶ家が遠くなったけどね
たまに来てくれるんだ
そして 君がいた頃と同じように
君の好きな夕焼けの写真を置いていく
あいつは相変わらずブルマンが好きで
ゴクリと飲み干し
ハーレーで旅した所や
出逢った人たちのことを
ベラベラしゃべってゲラゲラ笑っている
そして ポツリと言うんだ...

ー 何か出来ることはないか ー

僕は無言でビールを飲み
あいつはタバコを僕に差し出し
白い煙が空間を静かに漂う
それだけで
僕とあいつは通じ合うんだ
昔から...

今度の休み 久しぶりに
あのポプラ並木に行ってみよう
転勤で引越してから行く機会がなかったんだ

天に帰った君と
ゆっくりゆっくり歩こう
君は葉のゆれ 水面のわずかな色彩の変化に
その瞳を輝かせ
その瞳を翳らせるだろう
愛する大切な一人娘の写真を胸に
ゆっくりゆっくり 影のように
そっと歩くだろう

この数年
想い出だけでも生きて来れたんだ
君が失くしたわが子を思って
生き続けたように
そしてこれからも...

君と僕の物語は
永遠にセピア色の優しい光に包まれて
続いていくのだから




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