Talking with Experts 黙々100年塾 蔓草庵 主宰 島袋正敏氏
琉球薬草探究会では、薬草を日々の暮らしの中でより身近に感じてもらうため、各分野の専門家の方々に植物に関するエピソードをお聞きしていきます。
第2回目は、名護博物館 初代館長の 島袋正敏さんです
正敏さんは、生まれ育った名護東海岸・天仁屋で、ものづくりや、食文化、農、自然、歴史などの学びの場「黙々100年塾 蔓草庵」を主宰されています。ものづくりを通して、自分が子供の頃から経験していた事を追体験できる場づくりをされています。
泡盛仙人であり、沖縄在来の黒毛の豚「アグー」の復活など、多岐にわたる活動をされている正敏さん。当日は、幼少期の思い出を中心に沢山の植物のお話しをしてくださいました。
「修学旅行の前夜、屋外のフール(トイレ)にいくときにカンカンの切り口で足を切ってしまい、その後高熱が出た。ミーハジチャー(カタバミ)の全草を突いた汁の飲むと、翌朝には熱が下がって、無事に修学旅行に参加できたことから、カタバミは思い出深い大切な薬草」
「母はカタチブルヤン(偏頭痛)の症状が出た際に、クービ(ツルグミ)の葉を煎じて飲んでいた。葉っぱの裏が白いシルクービ(リュウキュウツルグミ)は効能が高いが、生えている場所が限られている」
「シーミーやアブシバレーの時に魔除けや虫払いとして使用するススキは、迷信かもしれないが、信じることで安心感を持っていた。
弟が熱を出した時に隣町の医者に診せるために夜道を歩く際にも、ゲーンを持って歩いた。魔除けとしてはゲーン、食べ物に使用するときはサンと呼ぶ。また、正月には農具をゲーンで叩いて、1年の感謝を込め、先1年のウガンをした。」
「学校では稲、チャ、パイン、キク、ブタ、ヤギは学校の運営費にするため飼育栽培していた。児童生徒が世話をし、それを販売していた。
昔は朝、10時茶、昼食、3時茶、17時、夕食と一日何回も熱いお茶を飲んでいた。
アナマタグサリ(水虫)には炒った葉を口に入れて噛み、患部に塗布。
唾液とお茶の葉が相まって効いてたように思う。」
「止血には刻んだタバコを傷口につける。葉タバコの刻み作業は子供の仕事だった。ハゼノキでかぶれた時にはタバコの煙をかけ、包丁の刃で撫でながら唱えた。
専売化以前1950年頃までは自家用でも各家庭畑を持っていた。
小学校3年生ごろから、キセルから紙タバコへの変遷時で、学校から帰ったら紙タバコを10本巻くのが仕事だった。」
「チンカン(キンカン)は、近世琉球に中国・福州から入った。「球陽」にも記録が残る。天仁屋の平良姓という人が随行の際に持ち帰って、天仁屋の川の上流ウッカーに植えられたのが最初と言われている。
首里王府への献上品で、明治の頃から地域の青年達が管理をしていたマルシチ、シジバタキが、今では管理する人が途絶えそうになったところ、正敏さんの弟さんが接木をして増やす活動をされ、現代に継がれている。
風邪予防として、丸ごと泡盛につけてたキンカン酒、黒糖につけた茶請け菓子を飲食していた」
正瓶さんは、子供の頃から身の回りの植物に親しみ、自然界にあるもの全てで身体を治癒することが身近で当たり前の暮らしをされています。
自然界にあるものはすべて口に入れて、これはクスリ、あれはドク、というように把握し、免疫をつけながら「養生」と共にある日常は、現代においては、贅沢な日々であるとも思います。
飽食の時代、医療も進み、苦労せずに食べ物も薬も手に入れられる現代人には備わっていない感覚を取り戻してほしいと活動を続ける正敏さん。
「薬草に限らず、玩具なども身近な植物で作っていた。現場、現物を見せることが大事。小さなことから暮らしの中にどう取り入れていくかが重要。小さいことをやり続けるしかないと思っている。」と穏やかな表情でお話をしてくださいました。
一緒に暮らすお孫さんは小学生の頃からカゴ作り、豚の解体なども見せ、高校生になってからは、沖縄の伝統的な古酒作りの手法「仕次ぎ」も継承されています。
「文化は幾百年の時間を経て伝えらていくもの。一世代で完結するものではなく、何世代もつないでいくことで、より本物で確かなものが残されいく」とお伝えされる正瓶さんの活動は動画としても記録されています。ぜひご覧ください。
島で生きるチカラ調査隊
インタビューの後は、お庭の植物のご説明もいただきました。
ここではご紹介できないくらいに植物のお話をたっぷりとお聞かせいただきました。
若い世代の方々が、沖縄の昔の暮らしに興味を持ってくれていることに感謝しますとのお言葉までいただき感無量です。
精力的な活動を続けておられる正瓶さんからパワーを沢山のいただきました。貴重なお話をありがとうございました。
※昔ながらの植物使用法は、当時の生活環境や体質を前提としているため、現代の環境や食生活、健康状態には合わない場合があります。使用にあたっては、自分の体質や健康状態に合った方法を検討してください。
【インタビュー実施日】2024年9月20日
【インタビュアー】須田ひとみ 藤野菜々恵
【場所】名護市 黙々100年塾 蔓草庵
【写真協力】池村隆一郎
支援 沖縄県、公益財団法人 沖縄県文化振興会 令和6年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業 「琉球の薬草を楽しむ暮らし」推進事業