【ハワイの神さまと精霊の国 その⑧】

この精霊の国が元に戻るまでには時間が掛かるというコナ。

それでも自分たちの力がその手助けをしたのだと思うと

とても愛しくてずっと祈りを続けて行きたい氣持ちに

太郎と貴子は浸っていました。



いつのまにかコナは二人のそばに立ち

その大きな手で二人をそっと抱きしめました。

『太郎、そして貴子。

本当にありがとう。

二人の力のおかげで精霊の国は元通りになっていくだだろう。』

コナは優しい眼差しで二人を見つめ

目尻のしわを思い切り寄せながら

ニッコリと笑いかけました。



「私たちこそ助けて頂いて本当にありがとうございました。

それにしても間一髪で間に合って本当に良かったです」

貴子はホッとした顔をコナに向けて微笑みました。

そして胸の中に抱いていた精霊の赤ちゃんを手のひらの上に乗せました。

「この子も・・・・よく頑張ってくれました。

守れて良かった・・・・」



コナは荒れ果てた丘の足下の土を手ですくい

くんっと匂いをかぎました。


『うむ。命の匂いがする。

さすがだな。そなたたち二人の祈りが

もう大地をよみがえらせようとしている。



実はそなたたち二人が精霊の国に入っているとき

私は公園の隣にある”オーラの洞窟”におったのじゃよ。

あそこには世界中から観光客が来る。

その洞窟で楽しい時間を過ごす人間を見るのが

私の楽しみのひとつなんじゃ。

もちろん、そなたたちのことも氣にかけていたので

私の使いであるヤギたちに

この精霊の国を見守ってもらっていた。

ペレの怒りで精霊の国のキラウエア火山が噴火したと

ヤギたちからの連絡があって

すぐにこちらへ向かったのだよ。

間に合ったのにはそういういきさつがあったんじゃ』

そういうとコナは

太郎と貴子がこの国に入った場所に目を向けました。



メェーーーー。

「あ!ヤギがいる!」

『あれは私の使いのヤギだ。』

するとヤギはこちらへ走ってやってきました。

『コナさまー!

もうーーー!

こんなにドキドキする怖いことは

二度としないでくださいよね!』

ヤギはコナに向かってツンと鼻を背けて

前足で地面を蹴り、ちょっと怒っている仕草をしました。

『悪かったのう。だがお前たちのおかげで

二人は無事だったのだから

もう許してくれ』

『僕、本当に怖くて怖くて

前足がもつれて何度も転んじゃいましたよ!』

コナとヤギのやり取りを見て

二人は微笑みました。



「あ!そうだ。コナさま、お伺いしたいことがあります」

なんだ?というようにコナは二人を見つめました。

「どうして僕たちが精霊の国に招待されたんでしょう。

人間をこの地へ立ち入らせたら本当はイケナイのでしょう?」

コナは太郎を見てこう言いました。

『そなたたちはこの精霊の国に入ったとき

どう見えたかな?

きっと人間界とは違って美しく見えたであろう?

だが・・・本当はもっと美しい国だったのじゃよ・・・・。』



『この空も、この海も、この大地も

本当はもっともっと光輝き美しいものだった。

だがこの数十年で精霊の国の美しさは半減してしまった。

そこには人間と神たちとの間にあった信頼関係が崩れてしまったことも原因のひとつじゃ。』

コナは悲しみを湛えた目をこの世界に向けています。

『人間の暮らしが豊かになると

神の存在という目には視えない、あやふやなものは

疎んじられてしまうことも多くなった。

聖地として大切にされていた場所も

どんどん開発という名の下に壊されてしまった。

神の世界も人間の世界も変化は必ず訪れる。

それは止めようがない宇宙の法則じゃ。

だが欲に目がくらんだ人間というものは

自分たちが一番正しくて、自分たちのことだけしか考えなくなってしまう。

神や精霊などというものよりも

利益を追求することが正しいのだと。

そのバランスが崩れたとき

神の国も精霊の国もどんどん消えて行ったのじゃ。

昔はもっとたくさんの精霊の国があったのだよ。

女神ペレが必死にこの国を守ろうとした意味をわかってくれたかな?』



太郎と貴子はこのハワイが人間のせいで

傷ついてしまっていることに衝撃を受け

胸を痛めました。

そして女神ペレのいる山を見上げると

もうそこにペレの姿はありませんでした。

恐ろしい女神さまだと思っていたけれど

そうじゃない。

本当にこの国を、自然を、ハワイを守りたかっただけ。

その深い愛に氣付いたとき

絶対に自分勝手に自然を傷つけることはしないと

堅く心に誓いました。

「そうだったんですね。本当にごめんなさい。

私たち、何も知らずに・・・・」

『太郎、貴子。そなたたちがハワイへ来ることは

魂の使命だったのじゃ。

どうしてここを選んだのかもう思い出したであろう?

太郎、どうして自分が木と会話出来るのか

ここへ来るまではその意味がわからなかっただろうが

すべてはここに繋がっていたのじゃ。』



宇宙の流れを止めることは決して出来ない。

破壊と再生はいつの時代にも必ず繰り返されてくるもの。



「いまこのタイミングで僕たちがハワイを訪れて

この精霊の国の破壊と再生の場にいること。

そして自分たちの力の覚醒が起きること。

すべて繋がっていたんですね」

『その通りだ』


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