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ありがとうネックウォーマー

なくしたと思っていたネックウォーマーが、しばらく使ってなかった仕事用のリュックの中から出てきた。

そうか、お前そこにいたのか。そんなところでずっと俺を待っていてくれたんだな。ありがとう。ごめんね、寂しかったろう?寒い中出かけるたび、自転車に乗るたび、お前のいない首もとが寒くて寂しかったよ。あぁお前さえいてくれれば良かったのにって何度思ったことか。てっきりお前はどこかの稽古場に忘れてしまったんだと思っていたよ。今頃忘れ物ボックスみたいなところに入れられて、暗い中ひとりで寂しく過ごしているんだと思っていたよ。まだ冬は続く。お前がいないなら新しいものを買わなくちゃ、でもお前はアウトドア用品のお店で買ったちょっといいやつだったし、デザインも気に入っていたし、お前がいいな、でもどうしようかなと思って悩んでいたところだ。早合点して新しいものを買わなくて良かったよ。久しぶりにお前と一緒に出かける朝だね。とても暖かいよ。首もとが暖かいってだけでこんなにも幸せな気持ちになれるものなんだな。お前がいるだけで何だか心までポカポカ暖かい気持ちになれるようだよ。お前はいつでも俺のことを暖めてくれる準備をしていてくれたろうに、ずっと待っていてくれたろうに、あんなリュックの脇の小さなスペースに閉じ込めたままにしていてごめんよ。でも今日からまた一緒だ。寒い日は身体も心も縮こまるもんだ。心が縮こまるってことは世界が縮こまって見えるってことでもある。お前がいれば世界は輝いて見えるんだ。今日はいい天気だからってお前を置いて行く日もあるかもしれない。いつかまた春が来たら俺はお前を必要としなくなるかもしれない。それでも、冬を共にするだけの関係でも、俺と一緒にいてくれよ。頼むぜ、相棒!

なくしたと思っていたネックウォーマーが、しばらく使ってなかった仕事用のリュックの中から出てきた。久しぶりの早起きは久しぶりのネックウォーマーと一緒に過ごす時間になった。首がとても暖かい。今日はきっといい日になる。ありがとうネックウォーマー。

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