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悲しみを紛らわす

とても悲しいことがあった。悲しみを紛らわせるため、僕は恋人に電話をして話を聞いてもらった。明日も朝が早いというのに恋人は夜遅くまで付き合ってくれた。本当にありがたいことだ。

とても悲しいことがあった。悲しみを紛らわせるため、僕は映画を観に行った。映画に没頭している間は悲しみを忘れられる。たとえそれがとても悲しい映画だったとしても。主人公の悲恋に寄り添って僕は泣いた。

とても悲しいことがあった。悲しみを紛らわせるため、僕は旅に出た。知らない街を歩いて、知らない景色を見て、その土地の美味しいものを食べ、ゆっくり温泉に浸かった。毒が抜けるように悲しみも消えた。

とても悲しいことがあった。悲しみを紛らわせるため、僕は何でもない女を抱いた。アプリで知り合った本名も知らない女だった。酒を飲んでホテルに行って、やることだけやって金を渡して帰った。

僕があの人を殺したのは、悲しみを紛らわせるためだった。とても悲しいことがあったからだ。それなのにどうして僕は悲しいのだろう。悲しみを紛らわせるため、僕はアプリで会った本名も知らない女に電話をした。

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