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言葉尻

先日、すごく好きな人がいてどうしても深い関係になりたいという話を書いた時、『彼女をものにしたかった』と書いた。しかし、女性を『ものにする』というのは少し乱暴な言い方に見えるのではないかと思って随分と迷った。

『ものにする』というのは、『自分のものにする、手に入れる』『意中の相手を口説いて手に入れる』という意味だ。日本語の用法として間違っているわけではない。だが、『手に入れる』という解説文ですら少し物騒な印象を受ける言葉でもある。出来ることなら言い換えたかった。『付き合いたい』『結婚したい』いや、そんな肩書きが欲しいわけじゃない。『深い関係になりたい』いや、それだとただヤリたいだけみたいになる。『懇ろになりたい』分かりづらい。『仲良くなりたい』そんな甘っちょろいことじゃあない。散々代案を検討したが、結局『ものにする』以上にしっくり来る言葉はなく、最初の案のまま『ものにする』が採用されることとなった。

乱暴な言い方に見えるかもしれない……僕は一体誰に配慮をしていたのだろうか。今回のケースだけじゃなく、細かい言い方や言葉尻に迷って、時には変えたり削ったりすることもある。誰かを傷付けるかもしれない、誰かを傷付けるような言い回しを選ぶ人間だと思われたくない、余計なニュアンスが付与されるのは本意ではない……。配慮の対象も理由もひとつではない。普通に推敲の範疇なこともあるし、行き過ぎた配慮であることもある。今回の『ものにしたい』はどっちだったのだろう。はっきりとした答えはない。

お話が進んで、僕は女性側にも「私はあなたのものになるわ」と言わせた。「あいつをものにしてやるぜ」という男性はまあいるかもしれないが、「あなたのものになるわ」という女性はあまりいない。同じ言い回しを2度、相手側にも使わせることによって、いっそ違和感を際立たせてやろう、この物語はあくまでファンタジーなのだということを見せてやろうという小賢しい意図があったのかもしれない。そこまで深く考えて書いたわけでもないが。

時代や時流に合わせていろいろと配慮しながら書くというのも表現者の在り方なのだろう。もはや「3年目の浮気ぐらい大目に見ろよ」なんて歌詞が許される時代ではないことは理解はしているが、それでもむむむと思うところはある。この文章に僕は『言葉尻』というタイトルを付けた。タイトルを付けて書き始める前にふと、『尻』だなんて卑猥な文字が入っているけど大丈夫だろうかと一瞬配慮した。これは行き過ぎた余計な配慮だと思うが、果たして数年後もそう言って笑い話に出来るだろうか。その保証はない。

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