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LTV/CACについて疾く書き連ねる

Housmartの鈴木です。

SaaSのユニットエコノミクスの健全性を図る指標として、「LTV/CAC > 3x」が有名だと思います。

私はかなり疑り深い性質なので、この指標を無批判に受け入れて、「3x、ヨシ!」とすることに非常に抵抗があります。

「LTV/CAC > 3x」の公式自体については、色々と調べていく中で、Wantedly(現キャディ)の吉田さんが非常に丁寧に紐解いてくださっている記事を見つけて、この内容にとても腹落ちしました。

吉田さんとは面識はないのですが、実際の数字でシミュレーションをしながら、ここまで思考を整理されている姿勢は本当に尊敬いたします。

以上。

とはなりません。管理会計オタクである私には、どうしても気になることがあります。

LTVを「ARPA×平均継続期間」としておいた場合に「LTV/CAC > 3x」は、健全な成長を表すという意味では、どのような条件下でも当てはまりそうです。どのような条件下でも当てはまるということは、これは普遍的であり、他社と比較をすることもできるという点で、とても重要な指標であることについて全くもって異論はありません。みんながこの指標を見るべきです。

しかし、ユニットエコノミクスという点、そして市場規模の点で考えたときに、「LTV/CAC > 3x」を満たしてれば、本当にヨシ!なのかについては、少々疑問があります。

ユニットエコノミクスの観点

「LTV/CAC>3x」有用な指標である点については、上記でも書いてきましたが、経済性を厳密に図るという点においては、LTVに純粋に「ARPA×平均継続期間」から算出される売上総額だけでなく、顧客一社当たりにかかる生涯コストもきちんと反映させたくなってきます。なぜなら私は管理会計オタクなので。

もし、LTVに生涯コストも反映させるとすると、LTVの定義は「(ARPA - 1店舗あたり月次コスト)x平均継続期間」となります。

当然、コスト構造は各社ごとに大きく異なることに加え、コストに何を含めるかの考え方も大きく異なります。

そのため、LTVにコストの概念を加えた時点で、「LTV/CAC > 3x」であれば健全であるという公式は、絶対的に当てはまるものではなくなります。

例えば、CACに含まれないコストを、間接費まで含めて全て1店舗あたり月次コストの算出に反映させた場合には、LTV/CAC > 3xを満たさなくても十分健全な気がします。

全てのコストがLTVもしくはCACに反映されているのであれば、「LTV/CAC > 1x」であれば、利益が出ることになりますよね。これが2であれば、結構な利益になる気がします。(時間軸は無視します)

確かめてみましょう。

前提:
ARPA 5万円
月間1店舗あたりコスト 3万円※
平均継続月数 24ヶ月
1店舗あたり獲得コスト 24万円

※(費用総額 - 獲得コスト) / 総利用店舗数

LTV/CAC:
(5万円*24ヶ月 - 3万円*24ヶ月)/ 24万円
48万円 / 24万円 = 2
LTV/CAC =2

年間の損益:
1年目
5万円*12ヶ月 - 3万円 * 12ヶ月 - 24万円 = 0円
利益率 = 0円 / 60万円 = 0%
2年目
5万円*12ヶ月 - 3万円*12ヶ月 = 24万円
利益率 = 24万円 / 60万円 = 40%

間接費まで含む全てのコストをLTV/CACに反映させた場合、1年目の利益こそ出ないものの、2年目の利益率は40%。ですので平均すると年間20%の利益率となります。

超優良の水準とまではいかないものの、まずまずの利益率ではないでしょうか。

上記のように、LTV及びCACに全ての費用を反映すれば、かなり厳密にユニットエコノミクスが算出されることになります(少々手間ですが)。

一方で、LTVを「ARPA*平均継続期間」とおいた場合、事業の経済性は、費用総額に占めるCACの割合によって大きく変わってくることになってしまうかと思います。

市場規模の観点

LTVを「ARPA×平均継続期間」とおいた場合、「LTV/CAC > 3x」は解約率約2.8%と読み替えることができます。

Horizontal SaaSのように市場規模が非常に大きいサービスであれば、全く問題ないチャーンレートだと思うのですが、Vertical SaaSである我々のPropoCloudで解約率が2.8%となってしまうと、見込み顧客の母集団が限られている以上、将来の成長がかなり限定されてしまいそうです。

(補足すると我々が主軸を置いている不動産仲介業界は決して小さな業界ではなく、あくまで全業界が対象になるHorizontal SaaSと比べると、ですのでご留意くださいませ。)

一時的に「LTV/CAC > 3x」を達成したとしても、事業が3年、5年、10年と続いていくと、限られた市場での新規獲得は徐々に先細り、方程式は崩壊してしまうでしょう。

これは勿論、解約率が1%であったとしても、同じ事業を続けている限りは、いつかは起こりうる事象ではあるのですが、3xを割り込むスピードはとても早くなってしまうものと思います。

最後に

勿論、通常の会社であれば、チャーンレートや、市場の開拓率、事業計画等を組み合わせて把握をしており、「LTV/CAC」の指標だけを追って3xを満たしてれば全てヨシ!としている会社はないと思います。

特に会社全体の利益に責任を負っている経営チームであれば、そのように考えている人は、おそらく皆無でしょう。

逆に言えば、会社全体のコストや全体の市場規模感などにアクセスし難い(会社によると思いますが)、事業側のメンバーだと、普段からこのあたりをなかなか意識することは難しいと思います。

そのような状況下で、「LTV/CAC > 3x」が一人歩きして、これさえ満たしていれば、全てヨシ!とならないように、この数字の考え方が伝わるといいなと思いました。

私は、このPropoCloudがSaaS事業の経験としては初めてで、常に試行錯誤中であるため、今回の記事に書いたようなことについても、あくまで今現在の私の思うところを書き連ねただけであり、俺のLTV/CAC論が正しいと主張するようなものではありません。正直、自分の意見すら疑っています。

また、事業について一番大事なものは、指標を出すことではなく、その指標を利用して事業をコントロールしていくことだと思っています。

上記の観点からすると、仮にLTV/CACに全ての費用を反映させてしまうと、改善のための施策がぼやけてしまうと思います。また一方で、カスタマーサクセスの比重が重い会社が、LTVにはカスタマーサクセスの費用を反映させなければ、ユニットエコノミクスの観点から正しい意思決定ができなくなってしまう恐れもあるでしょう。

会社にとって必要な情報を指標を反映させた上で、月次(最低でも四半期)で指標の変化を追いながら、中長期的に上げるには、あるいは下げるために何をしていくかというところが、重要だと考えます。

Housmartとしても、有益なアクションに繋がるように最適な指標を検討していきたいと思います。

また、今回の記事について、吉田さんほどきちんとシミュレーションをしたわけでもなく、頭の中で考えたことをざざっと書き連ねてしまったので、大きな論点の見落としがあったらすいません。

そのようなものを発見したら、鈴木は馬鹿なやつだなぁと思いながら、こっそり教えてもらえると嬉しいです。

たくさん保険をかけさせてもらいましたが、この記事でお伝えしたいことは以上です。

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