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【究極思考00022&00023】

【究極思考00022】

 (これは、「ART=・」の作品解説以外は、自分の妄想=虚構である。)

 愛野アリカのもとに美術館の個展案内が届いた。「Ryuji Ozawa,Almost Nothing展ver1.0」と印刷されている。場所は初めて存在を知った、埼玉県草加市の草加市現代美術館。どういう経緯で聞いたこともない美術家の個展を聞いたこともない現代美術館で開催するのか何も情報は今はない。
「まあ、行ってみないと何も分からない、か」そう思うしかない。
 数日後、愛野アリカはその美術館の個展に出向くこととした。彼の職業は一応は現代美術の批評家であるが、まだまだ駆け出しで、美術誌などに不定期に個展のレヴューを掲載する程度の知名度でしかない。「哀しきかな日本現代美術」という著作を少しずつ書き進めて準備はしているが、完成にはまだまだ程遠いのが現状だ。その著作は、明治時代にARTを導入する際に海外の新しいアートと日本のアートと位置付ければ良かったものを、洋画・日本画・公募団体組織とねじれた捏造を施したが故に現在に至るまで日本の現代アート界がねじれて不毛化してしまった現状を問う批評的展開を立論する予定だが、資料を収集し確認するだけで手間取りなかなか執筆にまで至れないのだった。しかも、今後はNFTアートが現状にどのような影響を与えるか計り知れず、正直に言えば予測もできないのだけれど、。
 そんな気乗りのしない状態だったから、少しの気分転換も兼ねて出かけてみようという気にはなった愛野アリカだった。東武伊勢崎線の草加駅東口に出て、丸井とヨーカ堂に挟まれた大通りを東に進む。宿場通りという細い道路を北に向かって歩いて行くと、大きな川に出合い、その大きな川の少し先にそこそこ大きな白く清潔な印象を与える四角い建物がある。それが目標の草加市現代美術館だ。最近の建物らしく瀟洒な印象だ。エントランスホールらしきあたりに大きく「Ryuji Ozawa,Almost Nothing展ver1.0」と印字された看板が幾つか設置されている。常設展として「草画展」と印字されたサインも見えた。そのサインの脇に記された解説によれば、大正時代から昭和初期にかけて、草加市内の有志の画家数人による草をモチーフとした油彩画や水彩画の様式を指すらしい。但し一時的な活動だったらしく、当時の有志の遺産が美術館に寄贈されることにより常設化されたとのこと。
 愛野アリカは興味深くチケット売り場に行き、入場券を購入し簡易チラシと入場券を渡され、エントランスに向かう。午前中も早めに来館したせいか人出はもっぱら少ない。有名な巨匠でもない限り現代美術館の来場風景はどこもこんなものだ。数人でも客がいるらしいだけましだろうと愛野アリカは独り言をつぶやきつつ、エントランスホールの白く大きな扉を開ける。
 そこは広大な純白の空間だった。照明も明る過ぎず暗くなり過ぎない程良い加減だ。白さが明るく際立つ。その広い白い空間の壁に均等の間隔で同サイズの額縁が延々と展示されているらしいのが見える。

【究極思考00023】

 (これは、「ART=・」の作品解説以外は、自分の妄想=虚構である。)

 最初の空間で作品に近寄ってみると、50㎝くらいの正方形の細いフレームに白い作品が収められている。縦に3段、そして横に15列くらいが均等に展示されている。ホワイトキューブの空間3面を利用して、かなりの作品が展示されている。どの作品も中心に黒い小さな点がひとつ描かれているだけだ。「ART=・」ultimate~とサインが小さく記されているだけだ。ホワイトキューブの空間の中央には、白い台座が16台、均等に配置されている。側面には何も描かれても彫刻らしきものが施されてもいないが、すべての台座の上面の中心にやはり黒い小さな点がひとつ描かれているだけだ。こちらは「ART=・」installation00001とだけプレートに記載されている。
 これは、まさに、支持体の中心に黒く小さな点がひとつ描かれただけの作品なのか。「Ryuji Ozawa,Almost Nothing展ver1.0」という展覧会名の通り、ほとんど何もない、というわけか。
 何もない、いや、ほとんど何もない。それを現代アートだと言うのか。愛野アリカは、とりあえず最初の展示室を隈なく見てから、隣室に移った。こちらもさっきとほぼ同じように、50㎝くらいの正方形の細いフレームに白い作品が収められている。縦に3段、そして横に15列くらいが均等に展示されている。ホワイトキューブの空間3面を利用して、かなりの作品が展示されている。どの作品も黒い小さな点がひとつ描かれているだけだが、先程とは異なり、点の位置が左上から右へ少しずつ位置が変わっている。「ART=・」structure~とサインが小さく記されているだけだ。中央に先程と同様に白い台座が16台、均等に配置されている。側面には何も描かれても彫刻らしきものが施されてもいないが、すべての台座の上面の左上から右に向けてすべての黒い小さな点が位置を変えてひとつ描かれているだけだ。こちらは「ART=・」installation00002とだけプレートに記載されている。
 次のスペースはエスカレーターで2階に登った先にあるホワイトキューブだ。しかし、展示方式は先程の2室とほぼ同様の展示だ。作品もほぼ同じだけれど、すべての黒い小さな点の位置が脈絡もなくさまざまな位置に描かれているのが大きな違いだ。「ART=・」random~とサインが小さく記されている。中央の台座群も同様ですべての台座の上面に黒い小さな点の位置が脈絡もなくさまざまな位置に描かれている。こちらは「ART=・」installation00003とだけプレートに記載されている。
 これは、何か、一考に値する作品群かもしれない。まさにマレーヴィチが絶対主義と呼んだ黒い四角形作品に通ずる究極の現代アートかもしれない。そんな感触が愛野アリカには何とはなしに感じられたのだ。しかし、この実物を見て感じる感想を、webや美術誌の誌面の小さな画像で、どうすれば伝えられるのかまったく自信がなかった。それが自分の今後の課題か、展覧会の出口に向かいながら、愛野アリカはひとり呟くしかできなかった。

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