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なきとよむエゾシカの地に赤気あり

宇宙人として、地球人として、壮大な宝探しをしているような時間でした。やはり学んだことや収穫がいくつもありました。少しだけ文章で書いておきます。

事のはじまりは11/28 2000 UTのM9.8フレアに伴うhalo CME。活動領域は南半球よりの正面。約64時間後(12/01 1200 UT、日本時間の夜9時)には北海道の広域で、肉眼で見られるほどの赤いオーロラを発生させました。

まず確かに驚きなのは、北海道のこれほど多くの地点から赤いオーロラが撮影されただけでなく、肉眼でも見られたということでしょう。名寄や陸別から撮影できたという例なら、ときどきありましたが、北海道のこれほど多地点から肉眼でオーロラを見たというレポートなんて聞いたことがありません。

個人的に一番の収穫は、そうして赤いオーロラを肉眼で見られた方々の、写真と言葉がセットになったポストを多く見られたことでした。いま日本の古典籍の「赤気」の記述を大量に見ながら研究しているのですが、古典籍に出てくる「赤気」を見た昔の人々の話と驚くほど共通点があるのです。ああ、この表現は、映像で見れば、なるほどこういうことだったのかという発見がありました。より具体的には、ここでは秘密にしておいて、そのうち論文などで発表しますが。

いつも奇跡の現場にいるのがKAGAYAさん。KAGAYAさん…書きたいこと山積みですが、これは皆さんのほうが、KAGAYAさんがなぜ奇跡を掴むひとなのかご存じのことかと思うので省略。それにしてもさすが、レイ構造がはっきりとわかる写真を残して頂き、今回のはSARアークではないことを確信できました。

次はSARアークの例を北海道で見られますように。

地球に到来したのは、階段のようにきれいにスピードが上がる二段階衝撃波と、その後ろには本体の磁気雲でした。この二つ目の衝撃波の下流の30 nTの南向き磁場が、磁気嵐を60分以内で急激に発達させました。磁気嵐の規模は100 nT程度で、よくある規模なのですが、発達は異様に速かった。GMCもなし。特に高密度でもない。強いサブストームが起こったわけでもない。エネルギーは異様に効率よくリングカレントにドサッと行きました。

しかし一体なぜ?急激にリングカレントばかりが発達したことと今回の「赤気」は関連させて考察されることで、今後の研究によってメカニズムがはっきりしてくると思います。磁気嵐は決して強くなかったのになぜ赤気が?という話です。

ちなみにアメリカの予報では未だに(なんと1938年から!)Kp指数を使ったりしていて、今回はKpが7となれば予報成功としていました。Kp指数は確かに7に達したので、予報の成績としてはめでたし。アメリカの方々が偉いのは予報官が磁気流体シミュレーションの努力を重ねて、この予報を修正しながら成功に結びつけたこと。ばっちり磁気嵐の開始時間も当てていました。

Kpの問題は、物理が定まらないこと。

さて、最後には磁気フラックスロープの磁場が北向き回転して行ったことによって、赤気祭りの終わりもはっきりと定まりました。

こうして自分でアタマから終わりまでを予報して発言してみるのがいいのは、ダマシがきかないこと。あとから、こうなると思っていました、というのはリスクもないし簡単なことで、プロのやることとしては物足りない。今起こっているデータをよくよく見てその場で判断し仮説をもつこと。そんな感じのことを昔々に師匠に繰り返し(飲み屋で)教えてもらいまして、いいアドバイスもらったと思っています。

いまは太陽活動の極大期。こんな感じの赤気チャンスは、これから何度もあるでしょう。いざ面白い宇宙天気イベントがはじまると、やはりポストする量がとんでもないことになります。今回少し不安になったのは、Xはお金払っていないとポスト数に制限があるのではなかったか、ということ。引っ掛からなくてよかった。


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