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夢日記第3話/縁

前回書いた夢の話の続きに母が出てくる。
みなさんは親孝行出来ているだろうか?
私は出来ていると胸を張っては言えない。
月に数回安否確認を兼ねた他愛のない世間話を電話でするくらいだ。
大切なものは失ってから気付くとよく言うが、私を含め大半の人は失うまで分からないのだろう。

夢日記第3話/縁

前回の出来事から数年ほど経ったある日。
珍しく母から電話がかかってきた。
面白い人と知り合ったから1度紹介したいと。
営業職の私にとって人脈は宝。
多少の面倒は感じながらも、私は母がセッティングしてくれた日に先方の会社に向かった。

教えてもらった会社は当時勤めていた会社の営業所から車で30分程度の場所。
大通りに繋がる丁字路の角にその会社はあった。
母から聞いてはいたが外構やリフォームを行う会社だ。
2階建てのプレハブの前に駐車場が3台分、思ったよりは小さかった。
1階の引き戸を開けると事務員さんがこちらを向く。
「お世話になります。広田と申しますけれど、柳井社長はいらっしゃいますでしょうか?」
私が名前を告げると事務員さんが笑顔で応対してくれる。
「あ、聞いてます。社長は2階にいますので、外の階段から2階に行ってください」
事務員さんに会釈しながら戸を閉め、右に回って階段を上った。
2階に上がると普通のドアがある。
ドアをノックすると中から「ほ~い、どうぞ~」と低い声が聞こえる。
「失礼します」
私はゆっくりとドアを開けた。
中のつくりは普通の応接室のような感じで、向かい合ったソファにガラス天板のテーブルが置いてある。
奥に扉付きのパーテンションがあるのでそこが社長室だろうか。
ソファに座った男性が立ち上がり笑顔で招き入れてくれた。

立ち上がった男性は176センチの私より少し低い。
しかし体つきは比較にならないほどガッチリしていて日に焼けている。
髪型は長髪を無造作に後ろで束ねていた。
年齢は私より少し上くらいだろうか、落ち着いた雰囲気で笑顔が優しい。
「広田です。はじめまして」
名刺を渡そうとすると男性は慌てて奥の社長室へ入り名刺入れを持って出てきた。
「柳井です、よろしく」
音程は低いが聞き取りやすい声で挨拶をされた。
事務員さんがコーヒーを持ってきてくれて他愛のない会話が進む。
この場所は事務所だけで、工事車両や重機などは別の場所にあるという。
現場の作業員もそちらがメインなので、ここにいるのは社長と事務員さんだけ。
社員は30名ほどいるとの事なので、この事務所以上に規模は大きかった。
年齢は私の5つ上で、柳井社長自身が立ち上げた会社だ。
母と知り合ったきっかけを聞くと知人からの紹介という事だった。
雨漏りする部屋の屋根を貼り替えてくれたらしい。
この話を聞いたときに「雨漏りするのよね」と母と会話した事を思い出した。
母の悩みを他人事のように流していた自分が情けない。
柳井社長はコーヒーを飲み干すと悪戯っ子のような目つきで私に聞いた。
「俺の事知ってる?」
私の頭の中は「?」である。
先ほどドアを開けて「はじめまして」と挨拶をしたばかりだ。
「いえ、すみません。どこかでお会いしたでしょうか?」
そう言うと柳井社長は笑いながら答えた。
「ごめん、ごめん。分かんないよな」
柳井社長は飲み干したカップを揺らしながら「いや、オカルト話って事で聞いてよ」と前置きして話し出した。

私と母と柳井社長は前世で知り合いだったらしい。
時代は江戸時代末期だと思うと言っていた。
当時の関係は「私=母の弟」「母=私の姉」「柳井社長=姉(母)と同い年の友人」。
柳井社長は姉(母)に恋心を持っていたという。
恋心を持った相手の弟を可愛がるのは道理であり、私ともよく一緒に遊んだらしい。
しかし友人関係が壊れるのを恐れて、結局打ち明けることが出来なかった。
その後悔を死ぬまで持っていて、次生まれ変わることがあり再び会うことが出来れば絶対に打ち明けようと決めていたそうだ。
この江戸時代の記憶が朧げに出てきたのは夢ではなく事故の後遺症だという。
事故といっても大袈裟な事故ではなく、小学生時代に区画整理中の更地から自転車で1メートルほど落下して頭を打ったらしい。
意識を失って病院で目が覚めると、今までの自分の記憶に江戸時代の記憶が書き加えられた感覚だったという。
姉(母)と柳井社長はそれぞれ別の人生を歩んだが友人関係は最後まで続いた。
手先が器用だったため姉(母)の家の修理をした事があり、現世でもそういった仕事をしていれば出会えると信じて今の会社を立ち上げたという激レアさんである。
実際、その努力は報われ姉(母)に会う事が出来た。
姉(母)に会った瞬間に分かったそうだが現実は厳しく年齢差が壁となる。
そして姉(母)とはそういった縁が無いのだと悟ったそうだ。
世間話で母に「弟さんはいますか?」と聞き、不思議に思われたため冗談半分でこの話をしたらしい。
ちなみに母は末っ子で兄と2人の姉の4人兄弟だ。
息子がいると聞き、もしかして当時の弟かもしれないと私に会いたかった理由を教えてくれた。
柳井社長に「虫捕りと釣り、大好きでしょ?」と言われ私も納得してしまった。
この話の流れで私も夢の話をした。
すると柳井社長は「それ17世紀くらいのヨーロッパ、たぶんスペインだと思う」と言う。
江戸時代の前の記憶も僅かにあるらしく色々と調べたらしい。
ただ江戸時代の記憶ほどは出てこないため、これ以上は分からないとの事だった。

まあオカルトで片付ければそれで終わりだが、柳井社長の話が間違っていなければ私の見た夢は前前世の記憶だ。
そして「縁」というものは形を変えながら、強い影響力を持って後世に引き継がれている。
今でも柳井社長には良くしてもらっている。
まるで義理の弟のような扱いで。

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