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・森岡 修一(2018)『ヴィゴツキーの文化・歴史的理論とロシアの補充教育』人間生活文化研究 Int J Hum Cult Stud. No. 28 

 ロシアにおける継続的な教育改革の変遷を追いながら、スクボルツォフ教授(ウリヤノフスク国立教育大学)と森岡氏の質疑応答をまとめ、現行の教育体制での教育格差の課題や、補充教育の必要性と根拠について論述されている。

 日本でも保育所保育指針等の改定があったが、そこで重要とされる「アクティブラーニング「」や「子どもの自主性」を強く推奨しており、補充教育のみでなく教育改革を推し進める姿勢にも日本との格差を感じた。

・宮坂 明(2020)『歌唱表現へと繋ぐ音楽鑑賞の在り方
―幼稚園における実践を通して―』中村学園大学・中村学園大学短期大学部 研究紀要 第52号 

 幼稚園教育要領の【表現】の中で、音楽鑑賞が幼児の音楽表現の意欲や質の向上に影響を与えるかについて、5回開催した学生による幼稚園での催し物の音楽を鑑賞する体験から考察している。音楽鑑賞が表現活動に好影響を与える半面で、気持ちの持続について問題点と提起している。

 音楽活動を行うことが【表現】において有意義なものであることは分かっていたが、あまり子どもと結びつけにくい「音楽鑑賞」が、その後の音楽的表現の意欲を高め、質についても影響を与えるという考察は面白い。

・中川 昌幸(2018)『幼児期における運動遊びの重要性とその指導法に関する一考察』平安女学院大学短期大学部保育科 保育研究 第48号

 近年の体力低下の問題を取り上げ、幼児期における「自発的」な運動遊びへの取り組みから「生きる力としての体力」を身に着ける重要性を考察している。また、運動指導者(主に保育士、幼稚園教諭)に求められるのは正確な指導、強制的な提示による「コントローラー」としての役割ではなく、子どもが自発的に遊びたいと思えるように支援する「ファシリテーター」としての役割であることについて説いている。

 子どもの「体格」は30年前と比べ大きくなっているのに、「運動能力」は低下している。運動能力はある程度の割合で体格も関係性があるとすれば、運動能力の低下は体力測定の数値以上に低下していると考えられる。体力を広義に捉え、育む為には受動的に運動を提示されるよりも、主体的に遊びを選ぶことで大きな効果を得ることも参考になった。また、保育士は「ファシリテーター」であるべきという結論も、十分な考察の結果でありとても興味深かった。

・高井 和夫『子どものこころと体の調整力を育む「質の高い運動遊び」に関する研究動向』文教大学教育学部

 幼児期における「遊び」と「学び」の接続を滑らかに行い「質の高い運動遊び」を提供することが子どもの心身の「調整力」を育むとし、それを促す「Guided play」の役割について、先行研究の分析を含めて論じている。幼児期に「生きる力」である身体運動の様々な種目を行うことでの精神的作用や、その後の意欲や注意力、自主性など多くの観点について先行論文を元に考察をしている。保育者が幼少接続までに育みたい「10の姿」を見通した、連続的かつ接続的な運動遊びの課題設定や興味関心を引く足場となり、かつこ子どもがこ主体となって遊ぶ中で他と協力して困難や課題に立ち向かう重要性を説いている。

 様々な研究で幼児期における「身体の調整能力」の育みは、精神面での調整力、注意力や自己有能感、自己肯定感などにつながるとされているが、ここでは先行論文のメタ分析も含めより詳しく解説がなされていた。「遊び」だけでは学びの機会が少なくなる可能性があり、「指導」だけでは子どもの体制は育まれず、時として注意力をさいでしまうなどのリスクをはらんでいる。その「遊び」と「学び」の間である「Guided play」によって、両者の関係性は滑らかに接続されていくとあり、発達や成長を見据えた上での複数の遊びの提供や、子どもの主体性に伴う関わり方についてもとても興味深かった。

・ 山下 晋 他3名の連名『意欲的に体を動かして遊ぶ子どもの育成を目指して-園内研修と家庭との連携を意識した運動遊びの実践を通して-』 卒業論文?

 ある園の3~5歳児に対して1年間の体育指導および体育館での運動遊びの機会を設け、家庭と保育園そして講師が連携して指導をできるようにした。運動遊びの機会を設けることによって園児の意欲につながり、保護者に援助指導を行うことで、園で行っている運動遊びへの理解を促すと共に、家庭でも運動遊びに取り組めるよう指導をしている。体育館という生活空間からかけ離れた場所ではあったものの、運動の連続性等にもしっかりと焦点を当てう、子どもが自主的に参加したくなる雰囲気づくりをしたことで、運動遊びに積極的になり、運動機能も向上した様に見られた。

 学生の卒業論文だと思われるが着眼点がよく、しっかりと運動の連続性も考慮し、運動遊びの年間計画を立てることができている。反省にあったように体育館という普段と異なる空間というのも意欲向上の一つの要因の様に思えたので、保育園の中でも行えるプログラムになればよりよい検証ができたと思う。保護者への運動遊びの説明は実際にニーズがありそうなので、家庭での運動経験を増やす為にも保護者へのアプローチは評価できると思う。

・若松 美恵子(1999)『保育園の0歳児クラスに見られる身体表現とその変化』白梅学園短期大学紀要 第35号

 0歳児クラス10名を対象に普段の保育生活を撮影し、細かく身体表現にちうて分類し考察をしている。6月から3月までの間に9回実施され、個々の成長の様子や身体的表現の変化、誰とのコミュニケーションとしてその行為がなわれたかなどについて深く研究している。分離不安から保育者への信頼感を育む過程、保育者の動きの模倣から他児への模倣やコミュニケーションを図る過程なども追跡調査の中で連続性が見て取れた。

 0歳児クラスに焦点を当て、身体表現のもつ意味を深く考察することで、言語でのコミュニケーションがまだ取れない園児の、動きの意図や何に興味を持ち、誰との関りを求めているのか、個人差もありながらも連続性の中で知ることができた。

・倉盛 美穂子 岩 城 達也 (記載なし)『保育園乳児クラスにおける保育士の寝かしつけ方略について』 Japanese association of educational psychology 23号

 0歳児と1歳児後半の保育士の寝かしつけについて、保育園生活の中で午睡時をモニタリングし、その方法や身体距離などについて考察をしている。0歳児では子どもの呼吸数や心拍数などによって、身体を叩く回数の増減が見られ、1歳児ではそうした変化は見られなかった。睡眠が養育者や子どもに影響を及ぼす因子であることに着目した数少ない論文。

 養育者や子どもへの影響を鑑みて睡眠の方策について研究をしたことは、大変興味深いが、実際の状況を分析しただけに留まり、科学的な知見などが見られなかったことは残念に思う。

・麻生 典子 岩立 志津夫『母親の抑うつと育児ストレスが乳児へのタッチに及ぼす影響:子どもの遊び,泣き,授乳,寝かしつけ場面に注目して』日本女子大学 人間社会研究科紀要 第 21 号

 母子間の重要なスキンシップであるタッチ動作を細かく分類し、更に母親を育児ストレスや抑うつ傾向などの因子によって4群に振り分けその関連性を研究した。母親が抑うつ傾向にあると、特定行動(授乳、寝かしつけ)においてポジティブタッチが減少することや、母親の思考による育児ストレス群では寝かしつけでの抱きかかえに減少傾向が見られた。子どもに起因するストレス群では音がネガティブタッチの増加が見られるなど、タッチ動作の細分化によって見えてきたことがあった。今回の研究では発達に問題を抱えた子どもは対象になっていない為、健常児と障害を持つ子どもとの間でも各影響に差が出るものと推察されている。

 触る、なでる、抱っこをする、キスをする、さするなどのポジティブタッチと激しく揺らす、つつく、くすぐるなどのネガティブタッチという、これまで統一して考えられていたタッチ動作を分類したことで新しい見方が出てきている。先行研究でも言われてきた、母親の育児ストレスやうつ傾向などによるタッチの減少についてもほぼ同様に差異が見られたが、加えて特定行動時のポジティブタッチとネガティブタッチの変動も考察されており、とても興味深かった。


保育に関する記事を発表することで、悩める保育士の一人でも多くの心に寄り添いたいと思っています。 僕の読者が将来的に関わることになる多くの子ども達、また保護者の幸せに繋がることを願っています。 それには、記事を執筆する活動を継続していく必要があります。応援よろしくお願いいたします。