失うまで気付けなかったこと#26

守りたいものが出来れば出来る程に。
僕等は強くもなれるし、弱くもなる。
僕にとっての未来への約束。それはこのメンバーで奏でる瞬間、
作詞作曲の時間、レコーディングの時間、メンバーは
言わずもがな、そして何よりルイの存在。

シンラの笑顔にどれだけ救われていたんだろう。
世界で一番自分が不幸だと思い込んでいた。
きっとどこかいつもそんな顔して街を歩いていた。
でもいつかのシンラが言ってたように僕等は恵まれすぎている。
好きなことをして稼いだお金でワインを何本空けたのだろう。
何も無い世界のどこかに水を緑を学校を。
僕でもなにかできたはずだ。それなのに僕は。
突然、辞表をだしてアメリカに飛んだこんな人間を
みんな待ってくれていた。だけど、その代償は大きかった。
‘‘何かを得るためには、何かを失わなくてはならない‘‘
僕が好きな漫画でよく出てくる言い回しだ。
僕は僕たちはシンラという羅針盤を失って何を得られたと
いうのだろう。
なぜトキオはあんな冷静に病室で珈琲が飲める?
どうしてルイはこの状況で未来に走ろうと思える?
正直、僕は立って歩くのも限界だ。これは自分が起こした
心友の命を奪ったにも等しいことで。
だけど、それだけ泣いても何かしなくては何も変わらない。
解っている。分かっているけど、涙は止まらない。
バイタルを報せてくれる機械がまだシンラが生きようと
していることを教えてくれている。

ここだ、このリズムだ、携帯のレコーディングアプリを
即座に開き、ビートをシンラのバイタルにBPMを合わせる。
鼻歌にまた歌詞を宛てていく。
エレキギターとキーボードを繋いで生音を入れていく。

``想うよ 想うよ 果てない雨が降り注いでも
指きり 交わした 旅の途中 僕等 笑ってたね
教えて 教えて 灰色に染まった心の薬
唯一 たったひとり 僕が愛した君へ‘‘

「それ新曲ですか?」

顔を綻ばせてルイが僕に問う。

僕は答えた。

「ちがうよ。心の叫びだよ。」と

シンラ聴こえてるかな?僕ずっと待ってるから
5年でも10年でも100年でも、もし再会が来世になったとしても
またきっと出逢うんだ。

いつもみたいにまた言ってくれよ。
あの僕しか知らない笑顔で「ソウマ、おせーぞ!」って。

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