みえないチカラ#27

「ソウマ、話がある。」

あの日のように
レコーディングを一通り終えたところで
携帯が鳴った。

「俺たちの家の代々の先祖、そして俺もソウマも
同じような状況で苦しんできた。
調べに調べ尽くした。
それには見たことも聞いたこともない
病名がつきそうだ。」

「病気?これは病気だったの?一体どんな?」

「他者記憶介入病だ。名づけるならそんなところだ。」

「サイコメトリーみたいな感じ?」

「まあそれでもいいかもな。他者に触れたり、話を聞いたり、
そういった、なんらかの条件を満たすと
その人の記憶や情報がインプットされてしまう。
おそらくこれは、望む、望まないに関わらず。
俺の場合は話を聞く、カルテに書き出していく、そういった作業のなかで
苦しみや痛み、その真実に寄り添えるようにとこの力は活きているとも言える。時として余りにも多すぎる中から選ぶから一つとは確実に断定できなくさせる弱みともとれる。ただ真実がいつもひとつとは限らない。
深淵を覗く時、また覗かれているなんて言うだろう。だが、
その深淵を覗きこんでいるのも果たして二つの眼だけかどうかも疑問だ。
今、考え得る限りこの仮説が正しいかどうかの実証を立てる為のクランケは
俺とお前しかいない。あと二つ、三つ、と隠された真実に辿り着けるのは
ソウマ、お前しかいない。俺はそう思っている。俺は医者だ。故に病気といったが、さっきおまえが言ったようにサイコメトリーなんてそういう非科学的な力と形容してもいいのかもしれない。俺の父は樹医だった。祖父は姓名判断を生業としていたらしい。おそらくそれぞれこの力に悩まされどこかで活路を見出したのだろう。もう今、彼らに話を聞くことは残念ながらできない。
光と闇は何にでも付随してくる。突き詰めるとそれはもう相互作用していて
片方の存在だけでは語れない。この力を正とするか負と呼ぶかは
俺たち次第だ。」

「なるほどね。それだけ語ってくれて月並みな言葉しか返せないけど、
父さんありがとう。」

「それとシンラのこと、どうか、どうか、お願いします。」

「医者として、いち人間として、全力を尽くす。だが、しかし
無責任なことは言えない。
医者は神でもなければ、宗教でもない。他の医者もあたってみるのも
吉かもしれない。セカンドオピニオンってやつだな。」

「いや僕は父さんにシンラのことをお願いしたい。」

「みんなでどうするかもよく話したほうがいいぞ。人生には
二度とできないミスがある。ソウマの一存で決めかねる件でもある。」

「みんな同じことを言うよ。僕だってみんなだって生半可な気持ちで
ここまでやってきてない。言葉でしか具体性を持たない、結束や信頼。
見えないモノを売りにしてる僕たちが一番よくわかる。」

「語るべき時が来たら、その身体の事も話すんだぞ。俺があんまり
言えた口じゃないが。」

「じきに話すよ。僕自身もまだ追いつけてないから、整理がうまくついたらには勿論なってしまうと思うけど。」

「負けるな。歩みを止めるなよ。」

「お互いにね。じゃあまた。」

さあ、どうしたものか。どう捉えるか。
なぜ、僕にこんなものをみせてくる?
世界の始まりや終わりが突如として映画のように流れてきた日。
その人間やなにかの記憶は実在した?僕はここまでそれは僕には関係のないものと切り捨ててきた。それは簡単なことで。
でも考えていなかったわけじゃない。
なにかの意味、理由、原因、価値、これはある程度、人は捜し求める。
僕も例外ではなく。
孤独になるために漠然と独りを選んだわけじゃない。
価値観の相違?どこか馬鹿にしてた?それもあったかも知れない。
だけど
確かに別ち難く結ばれなくてはならない
なにか、どこか、だれかをより見つけ易くするために。
何より自由が欲しくて。従って孤独は付きまとってきた。
それに伴い入ってくる知らない世界の情報の過多。
見えない祈りや想いや願いやそういうものが僕にSOSを出してる?

ソウマくん、入ってもいいですか?の声と共に聴こえるノックの音。

父の医院のすぐそばに僕らの為のマンションを用意してもらっていた。
シンラになにかあったらすぐに駆けつけられるようにと。
父の配慮でもあった。

出口のない螺旋階段を駆け上がる僕の手を引いたのはルイの声だった。

脳はとっさにこの胸の高鳴りの理由を
探していた。

間違いない答えはすぐ近くまで来ていた。

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