代わりになんてなれないよ#10


ソウマくんと連絡がつかなくなった。
なんで、どうして、そればかりが頭を駆ける。
サヨナラも言わずに。
いやきっとそれを言われても私の心は許容しない。
私は学生なんてしていない。
だからってメディアが騒ぐニートって部類でもない。
誰が言われて信じるか。という職業だ。
さすがのソウマくんでもここにはたどり着かないだろう。
でも私が普通の学校など通わない代わりに手にしたこのチカラ。
個人的なことに、こと私情に、使うことはどうなのか。
でも私も人間だ。仕事のためだけに生きているわけじゃない。


いつか、助けてもらったお礼がしたかった。
当時の私からするとそれは濁流と呼ぶに相応しかった。
それに抗う体力も尽き果てたころ、
おそらくあれは黒のラブラドール。私のもとへきて
私を保護してくれた。

そこから二日ほど記憶がない。
目を覚ましても動けなかった。
もともと身体が弱かった。運動とかもあまりしてはいけないと
聞かされていた。
そこで母が教えてくれた。助けてくれたあの子たちは
ラブくんとソウマくんだと。


ラブくんが亡くなったことを知ったとき

悔しかった。
許せなかった。
憎かった。

あの日、私がそこにいなければ。あんなアクシデントさえなければ。


死にたい。
死にたい。
病院で何度、口にしただろう。

心が弱ってたせいか、身体の回復も時間を要した。

学校へ通いだす頃、そこに居場所はなかった。


父はすぐに私の心情を察してくれて、道を提示してくれた。

「こんなと言ったら語弊があるが、
小さな島国のルールに無理に従わなくてもいい。合わせなくてもいい。
瑠衣、お前が贔屓目にみても賢いことくらい、わかる。
海外の大学に行ってみるのはどうだ?」

「私まだ小学生だよ?そんなことできるの?」

「要件はいくつかあるが、さした問題じゃない。
一番は瑠衣が行きたいかどうかだ。やりたいこと、できることの
道は広がる。だけどやる気がないなら無駄な時間を過ごすことにも
なる。ゆっくりでいいから、考えてみてもいいと思う。」

すぐに海外の大学のレベルに合わせた勉強を始めた。
1日22時間は勉強に使っていたかもしれない。

無理してるんじゃないかと両親によく尋ねられたが、

無理なんてしてない。好きなことをしてるだけだよ、

と答えた。

私には全身はうまく動かせなくても
五体満足だ。
目がある、手がある、脳がある。
あの日のラブくんの命があっていまがある。

代わりなんてなれない、私が犬だとしても。

程なくして、大学へ進んだ。

それなりに名前が世界で通る大学。

私は幼くしてインターネットに興味をもっていたので
他も学びつつそれにも徹した。
音楽も好きで何かに集中したいときはヘッドフォンが
それを手伝ってくれた。

15歳、大学年3年目頃、だったと思う。
3ピースのバンドが日本の音楽シーンを
普通じゃないやりかたで進んで行ってると耳にした。
名前は売れているのに公式な音源は未発表。
この三人にはなにかあると思った。
まるで私のような。

その頃すでに決まっていた内定先のひとつにインターポールの
サイバー課があった。
教授があれやこれやと掛けるものだから選択肢はかなり
広がってしまっていた。

今でこそ、ここで結び付いたが、ソウマくんの考え、
未来に対しての想いは誰よりも深いのかも知れない。
ここまで来てみろよ。なんて声は聞こえてこない。
「来てくれると助かるな。」って言うかな。


もう独りで限界のくせに。

私の諦めの悪さ、性格の悪さ、
目にして嫌われてもいい。


ただ、あなただけには死んでほしくないんです。

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