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役場と住民の”ただのあそび場”をめぐる演劇

 まちづくりは町民と役場が演劇をすることかもしれない。まちづくりで語られる箱物は、演劇を作る舞台装置になれるかが大事な気がする。

 町に暮らして心に残った出来事TOP3(2019年度版)にあるのが、「ただのあそび場」と空き地をめぐる”演劇”だ。

 私が暮らす五城目町へ視察にくる人が見たいものの1つに、放課後こどもたちが自由に遊べる空き家”ただのあそび場”がある。朝市通りの入り口にある元寿司屋の建物で、地域のお姉さんがはじめたカフェ"いちカフェ"と隣接しており、学校がある日の放課後と朝市plusがある午前中に開いている。

 視察に来る人たちの質問は「なぜやっているのか?」「どうやってマネタイズしているのか?」「運営方法はどうしているのか?」と投げかける。たまに「地域とどう連携しているのか?」と聞いてくれる人がいる。私はその質問が大好きだ。建物の役割は、地域社会で新たなつながり(連携)を作ることだと思っている。

 ものがたりのはじまりは匿名電話

 私がその質問を受けたときに、嬉々として語るある物語をお伝えしたい。ものがたりは、役場への匿名電話から始まる。

「私有地の空き地でこどもが遊んでいる。危険だから辞めさせるべき。」

 あそび場に来たこどもたちは、朝市通りにある空き地でサッカーや野球をしていた。すると、それを見た人から役場に連絡が行った。匿名のため相手の顔が見えずやりとりができない。役場はまずあそび場に連絡をとった。町民から問い合わせがあったことに対応しない訳にはいかない。かつ匿名でだれからの連絡かわからないと、やりとりできず困ってしまったことも伝えた。このままでは、空き地にロープを貼って立ち入り禁止の看板を設置せざるをえない。

 でも、役場もあそび場も気持ちは一緒。「こどもたちが楽しい放課後を過ごせるようにしたい。」この事案をあそび場に関わる人たちや、朝市の町内会や商店街の人たちが聞いたとき、彼らも気持ちは同じだった。

 あそび場が素晴らしいのは、ここに関わる人たちみんなが「この町のこどもたちにのびのび育ってほしい」と、建物の役割やあり方を通して伝わっていたこと。朝市という町のメインストリートに、こどもたちが集まり賑わいと笑顔を取り戻し、こどもも大人ものびのび過ごしたい気持ちが1つになっていた。

それぞれが役割に気づき演じはじめる

 この後、役場は空き地にロープではなく、「空き地注意」の立て看板を立てたようだ。その後、近くに暮らす町民や商店街の人たちがそれとなく看板を撤去した。こどもたちはこの事案を聞いて「安全に遊ぶ方法」についてルールを自主的に設けた。地域住民も「こどもたちが遊んでいることを互いに伝えつつ、彼らの安全を守ろう」と話が通っている。

 私はこの出来事が大好きだ。役場とあそび場と地域住民が互いの思いを共有しつつ、看板を「建前」で設置する役場と撤去する町民の「本音」を、それぞれが共に暮らすことの物語を”演じている”。最高じゃないか!

 劇団”あそび場”の次なる物語が私は楽しみで仕方がない。

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