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酵素とは何か? ~その5~

 前回の記事では加水分解酵素と脱離酵素についてまとめてきました。今回の記事ではEC番号の大分類に基づいて、異性化酵素、合成酵素、輸送酵素について見ていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

異性化酵素 (Isomerase)

 異性化反応を触媒する酵素です。異性化反応の種類が副分類に反映されており、ラセマーゼ・エピメラーゼ、cis-transイソメラーゼなどに細分化されます。系統名は以下のようになります。

系統名: 基質 + 反応 + -ase

 ここではAlanine racemase (EC 5.1.1.1) を見ていきます。この酵素はアラニンのラセミ化を触媒します。
 一般的なアミノ酸はL体が利用されますが、この酵素はL-アラニンをD-アラニンを相互に変換する酵素です (Fig. 1a)。
 Fig 1bが結核菌 (Mycobacterium tuberculosis) 由来のAlanine racemaseの構造です。灰色の球で描写されているのは補酵素のPyridoxal 5'-phosphate (PLP) を示します。PLPがL-アラニンのα炭素からプロトンを引き抜くことでシッフ塩基が形成し、引き抜いた面とは逆向きにプロトンを付加することでD-アラニンの形成が進行します。
 D-アラニンの生合成は細菌の細胞壁のペプチドグリカン層形成に必要なため、細菌に重要な役割を果たすことが知られています。

Fig. 1 (a) Alanine racemaseの反応スキーム
(b) M. tuberculosis由来のAlanine racemaseの立体構造 (PDB ID: 1XFC)

合成酵素 (Ligase)

 アデノシン三リン酸 (ATP) のような高エネルギー化合物の加水分解と共役して、二つの分子 (XとY) を結合させる反応を触媒する酵素です。生じる結合はC-C, C-O, C-N等があります。系統名は以下の通りです。

系統名: X + Y + リガーゼ

 ここではDNA ligase (EC 6.5.1.1) について見ていきます。この酵素はATPの加水分解と共役してDNAの3'-ヒドロキシル末端と5'-リン酸末端を結合させて、ホスホジエステル結合を形成する反応を触媒します (Fig. 2)。

Fig. 2 DNA ligaseの反応スキーム [1]

  Bacteriophage T4由来DNA ligaseの構造を見てみると、3つのドメインから構成されていることが分かります(Fig. 3) [2]。シアンとマゼンタの2つがDNAと結合するドメイン、黄色が反応を触媒するドメインがあり、これらの作用によって反応が効率よく進行しています。この酵素は遺伝子工学的な実験で欠かせないもので、私自身も学生時代にお世話になりました。

Fig. 3 T4 DNA ligaseの構造 (PDB ID: 6DT1)
シアン:  an α-helical N-terminal DNA-binding domain,
黄色: nucleotidyl-transferase domain
マゼンタ: Oligonucleotide-binding domain
オレンジ: AMP, 灰色: DNA

輸送酵素 (Translocase) 

 この酵素は細胞膜の間をイオンや分子を移動させる反応を触媒する酵素であり、2018年に新しいクラスに分類された酵素群になります。副分類では移動させる分子やイオンの種類、副副分類ではその反応の駆動力によって細分化されています。

 ここではATP synthase(7.1.2.2)を見ていきます。大腸菌(Escherichia coli)由来のATP syhntaseの構造をFig. 4に示します。見てもらうとわかるように、この酵素は膜に埋まっているF0と膜から飛び出しているF1ドメインから構成されています (サブユニットで分解するともっとあります)。
 ATP synthaseがATPを合成するメカニズムを簡単に示すと、以下のようになります。
① プロトンがF0を通過することで膜に埋まってる部分が回転する。
② F1ドメインの構造変化が惹起される。
③ ADPとPiの結合が起こりATPが合成される。
 Sobtiらの論文にATP synthaseがどのように動いているのか、動画があるので、よろしければ見てみてください [3]

Fig. 4 E. coli 由来ATP synthaseの構造 (PDB ID: 5T4O)

まとめ

 今回はEC番号の大分類5, 6, 7 の異性化酵素、合成酵素、輸送酵素について紹介してきました。次回からは別のトピック(未定)に移っていきたいと思うので、よろしくお願いします。

参考文献

[1] Shuman, S. DNA Ligases: Progress and Prospects. J. Biol. Chem. 2009, 284 (26), 17365-17369.
https://doi.org/10.1074/jbc.R900017200

[2] Shi, K.; Bohl, T. E.; Park, J.; Zasada, A.; Malik, S.; Banerjee, S.; Tran, V.; Li, N.; Yin, Z.; Kurniawan, F.; Orellana, K.; Aihara, H. T4 DNA Ligase Structure Reveals a Prototypical ATP-Dependent Ligase with a Unique Mode of Sliding Clamp Interaction. Nucleic Acids Res. 2018, 46 (19), 10474–10488. https://doi.org/10.1093/nar/gky776.

[3] Sobti, M.; Smits, C.; Wong, A. S. W.; Ishmukhametov, R.; Stock, D.; Sandin, S.; Stewart, A. G. Cryo-EM Structures of the Autoinhibited E. coli ATP Synthase in Three Rotational States. eLife 2016, 5, e21598. https://doi.org/10.7554/eLife.21598.

*タンパク質の立体構造はCueMolを利用して作成しました (http://www.cuemol.org/ja/index.php?FrontPage)。

あとがき
 酵素のお話をするということで、どうしても構造や図は入れたいなと思っていました。Pymolをよく使うのですが、ライセンス的なところが怖かったので、CueMolを使ってみることにしました。少しずつ遊んで覚えていきたいと思っています!

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