「パラノイアだけが生き残る」(アンドリュー・S・グローブ」

本の要旨

テーマと概要

この本は、インテルの元CEOのアンドリュー・S・グローブが経営者としての戦略の転換の経験を記した書籍です。インテルは当初、コンピュータのメモリーで急激な拡大を遂げました。しかしながら、潤沢な資金と技術力を持ち合わせた日本企業の高品質で低価格なメモリーがシェアを拡大してインテルは転換を迫られました。

企業に戦略の転換を迫るような大きな変化をグローブは「10x」と表現しています。この「10x」は、なんらかの出来事を皮切りに急に生じるものではなく、徐々に生じていくものであるといいます。

戦略の転換の方法

ではこの「10x」にいかに気がついて、いかに対応していくか。グローブはこのプロセスを、「カオスに支配させる」ことと、「カオスに手綱をとらせる」ことの相互作用であると説明しています。

どういうことか。
マイケル・ポーターの5フォースで述べられているような市場の変化が生じると、経営者や上級管理職ではなく、中間管理職や一般職といった市場との接点が多い人々がちょっとした変化に初めに気がつきます。グローブは、これを「雪は外側から溶けていく」と表現しています。

このような変化に気づいた従業員は、変化を上位の管理職に報告したり、従来とは異なる業務上の行動を行なったりするようになります。いわば、前者的な経営戦略がボトムアップ的に揺れ始めている状態です。グローブは、あえてこの状況を受け入れて、むしろ盛んにディスカッションを促すことが大切であると述べています。この状態のことを「カオスに支配させる」と表現しているのです。

ただ、「カオスに支配」させたままではいけません。カオスに支配させて、様々な危機的な要因を洗い出した後、経営者は戦略目標を構築して、それを実行していかなければならないのです。この動きが、「カオスに手綱をとらせる」とグローブが表現するプロセスで、経営者からのトップダウンの形で行われる動きなのです。

戦略転換における経営者の立ち振る舞い

グローブは、戦略転換において大切なことは転換後のビジョンを明確にすることと、そのビジョンを強く表明することであると述べています。

グローブは、「死の谷をうまく越えるためには、まず、谷の向こう側に無事に辿り着いた時、どんな企業でありたいかをイメージすることが必要だ。」と記し、ビジョンの明確化の重要性を強調しています。

グローブは書籍中では、ビジョンという言葉を「会社の本質と、その柱となる事業を見極める」と表現しています。

また、ビジョンについては一つに集中することが必要であると、「一つの戦略目標にすべてをかけ、そこに焦点を絞り込んで行動すべきである」、「何を追求するかだけでなく、何を追及しないかを明確にすることが重要だ」と言った言葉で繰り返し述べています。

続くビジョンの表明については、リーダーは繰り返しビジョンを部下に明確な言葉で語ることが重要とグローブは言います。何度も対話を繰り返し、質問にも答えることで次第にビジョンが会社全体に浸透していくのです。「強力な磁石のように、自分の決断や意思、ビジョンについて距離を超えて伝える術を見出さなければならない」という言葉で大企業の経営者の役割を解いています。

考えたこと

この本の中で非常に強く関心を持って読んだ章は、最後の章「キャリア転換点」です。

この本はインテルの戦略転換の様子を経営者グローブの視点から述べたものですが、最後の章は「個人のキャリアもビジネス」として、戦略転換の考え方は一個人にもつながるものであるとして示唆を与えられました。

大学生は、キャリアの転換点でありまさに「戦略の転換」を迎えています。カオスに支配させるとは、様々な経験をすることと置き換えることができるでしょう。そのような経験をする中で自分の感情にどんな変化が起こるかを観察してみる。

そのような感情の変化を観察する中で、「これをやりとげる」という意思を持つこと。これが、カオスの手綱を撮ることに相当していると置き換えられると私は考えます。

私は、大学に入ってちょっとはよくなったものの、なにか新しいことを始めたり、新しい人と話したりする際にはじめから結論を決めてしまう傾向がありました。カオスに支配させることができていなかったのです。まずはやる、それから感情の動きを見つめればいいじゃないか。

まだ大学生で失うものは何もないのだから、とにかくなんでもやってみる精神で今日から生きていきます。

グローブの言葉を引用して閉めさせていただきます。
「人は誰でも、従業員であろうと、個人事業主であろうと、個人でビジネスを営んでいるようなものだと考えてきた。」
「キャリアの谷を超えていくのに役立つものは二つある。明確さと信念である。」
「過去は二度と戻ってこない。新たな世界に馴染むことに、そこでうまくやっていくために、必要なスキルを学ぶことに、あたらしい世界を自分の環境にすることに、全てのエネルギーを一滴残らず注ぎ込むのだ。」

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