スクリーンショット_2019-11-03_14

3分でわかる宇宙離婚

画像2

成田離婚ならぬISS離婚?

新婚旅行は、今後待ち受ける様々な困難を共に乗り越えるため、夫婦間の信頼関係を高める最適なイベントです。
しかし、旅行中に相手の思わぬ一面や悪い部分を目にしてしまい、後にスピード離婚という、いわゆる成田離婚というワードが90年代に流行(?)しました。

現在は民間旅行会社のパッケージとして宇宙旅行が販売されている時代です。宇宙旅行が普及すれば、新婚旅行でISSへ!なんて夫婦も現れるでしょう。
しかし、宇宙旅行中に発生したトラブルを乗り越えられずに離婚に至ってしまう場合、どのような手続となるのでしょうか?
様々なケースが考えられますが、今回は問題を単純化するため、以下のケースを考えてみます。

日本国籍(日本在住)のAB夫婦はISSへ新婚旅行へ行きました。
しかし、微小重力なだけに浮かれてしまったBは、ISS滞在中にロシア国籍(ロシア在住)の宇宙旅行者Cと日本のモジュール内で不倫をしてしまいました。
BとCは不倫を認めており、AはBと離婚して慰謝料を求めたい。Cには慰謝料を求めたい。

スクリーンショット 2019-11-03 14.51.49

どこの国でどんな手続を行うか?

話合い→家庭裁判所→地方裁判所
まず、離婚に関する基本知識を整理します。
不倫をした配偶者に離婚を求める場合、離婚自体のほかに請求できるものは4つあります。

①慰謝料
②財産分与
③養育費(ただし、権利者は子)
④年金分割

これらについて話合い(協議離婚)で解決しない場合、まずは家庭裁判所で「調停」を行い、それでも解決しない場合は「裁判」を行うことになります。

なお、日本の場合、裁判で強制的に離婚できる理由は決まっています(離婚事由)。今回のケースは、①の不貞行為を理由とするものです。

①不貞行為(不倫)
②悪意の遺棄(生活費を払わない、理由のない別居など)
③生死が3年以上不明
④強度の精神病にかかり回復の見込みがない
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(暴力など)

どこの国の裁判所を利用するか?
ところで、裁判所はどこでも良いというわけではなく、管轄が決まっています。宇宙空間には未だ裁判所はないので、話合いによって解決できなければ、地球上のどこかの裁判所で調停や裁判を行うことになります。

離婚調停の場合、「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」か、当事者の合意で定める家庭裁判所に申し立てるのが原則となり、離婚訴訟は「夫または妻の住所地を管轄する家庭裁判所」が管轄となります。

今回のケースであれば、配偶者Bは日本に住んでいるので国際裁判管轄は問題とならず、配偶者Bの住所地を管轄する日本の家庭裁判所が管轄となります。

不倫相手に対する請求
他方、不倫相手に対しては離婚を求めるわけではなく、あくまで慰謝料を求めています。この場合、調停を行うプロセスは必要はありません。
しかし、Cはロシアに住んでいることから、日本の裁判所で手続ができるのか、ロシアの裁判所まで行かなければならないのかという問題が発生します(国際裁判管轄)。

これについては、慰謝料請求については「相手方の住所地」、「不法行為地(不倫がなされた場所)」、「自分の住所地」のいずれかを管轄する裁判所が管轄裁判所になります。

今回のケースであれば、Cはロシアに住んでいるものの、いずれにしてもAの住所地を管轄する日本の地方裁判所に訴えることができると考えられます。

どこの国の法律が適用されるか?

国外で不倫した場合はどうなるか?
日本の裁判所を利用できるからといって、必ずしも日本の法律が適用されるわけではありません。国外での不倫について、日本の法律を適用するか、海外の法律を適用するか(準拠法)の問題があります。

この点、「法の適用に関する通則法」によれば、離婚については、夫婦の一方が日本に住んでいる日本人であるのであれば、日本法が適用されるとされています。

他方、不貞行為の慰謝料請求は「不法行為」を根拠とする請求になりますが、法の適用に関する通則法は、不法行為に基づく損害賠償請求について、「加害行為の結果が発生した地」の法律が適用されると規定しています。

そうすると、離婚(対配偶者B)については日本法が適用されることになりそうです。
しかし、不倫がなされた場所、すなわち「加害行為の結果が発生した地」は宇宙空間です。
慰謝料(対不倫相手C)についてはどこの法律が適用されるのでしょうか?

ISSの場合は?
ISSはモジュールごとに管轄している国が違います。
ISS協力協定(Inter Govermental Agreement:IGA)では、参加国は、宇宙物体登録条約によって「登録した物(モジュールなど)」と、ISS上の「自国籍の人」に対して管轄権、管理権を持つとされています。

つまり、日本はきぼう、こうのとり、日本人の宇宙飛行士や旅行者について管理権を持つことになります。

そうすると、日本のモジュール内での不倫については日本の、他国モジュール内の不倫については他国の法律が適用されることになります。

今回の不倫は日本の管理権が及ぶ日本のモジュール内でなされたものですから、Cに対する慰謝料請求についても日本法が適用されることになると考えられます。

まとめ

以上をまとめると以下のようになります。

対配偶者B
裁判所の管轄:Bの住所地を管轄する家庭裁判所
適用される法律:日本法

対不倫相手C
裁判所の管轄:Aの住所地を管轄する地方裁判所
適用される法律:日本法

ただし、個別事情によってはこれがそのまま当てはまるとは限りません。
また、仮に判決が出たとして、その内容を実現するための強制執行には困難が伴うでしょう。そもそも、海外への裁判書類の送達も一苦労でしょう。

ルールは社会の動きに合わせて常に変化します。
新婚宇宙旅行パッケージが販売されている頃には、宇宙に関するルールが変わっているかもしれませんし、新しくルールが作られているかもしれません。
もし、宇宙滞在中に離婚問題に直面した場合には、宇宙離婚専門の弁護士に相談することをお勧めします。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?