3分でわかる長征
長征ロケットは、中国の人工衛星打上げロケットです。
アメリカやソ連と同様、もともと軍事技術として発展してきた中国の打上げ技術は商業打上げにも活用されるようになり、現在は中国航天科技集団有限公司(China Aerospace Science and Technology Corporation:CASC)の傘下で国有企業の中国長城工業集団有限公司(China Great Wall Industry Corporation:CGWIC)がその役割(管理)を担っています。
その中国長城工業集団有限公司が打ち上げているロケットが長征シリーズです。
中国スタートアップの躍進
近時、中国の宇宙開発は目を見張る勢いで進んでおり、数多くの宇宙スタートアップが台頭しています。
例えば、上記の記事によれば、衛星軌道投入用ロケットを開発するLand Spaceをはじめ、Link Spaceはサブオービタル飛行に成功し、iSpace(日本のispaceとは別会社)は中国初の民間商業打ち上げに成功しています。
また、超小型衛星打上げロケットを開発するZhuhai Orbita Aerospace Science & Technology、Galaxy Spaceなど、ロケットベンチャーが数多く台頭しています。
さらに今年の1月3日には、「長征3号B」によって打ち上げられた月面探査機「嫦娥4号」が史上初の月面裏側への着陸に成功したという知らせが業界を賑わせました。
長征シリーズ開発の歴史
このように、飛躍を続ける中国の宇宙開発を支えているのが長征シリーズです。
2018年時点で中国が実施した打上げミッション全39回(2017年比で2倍)のうち、37回は長征ロケットが使用されています。
遡ること1970年2月、人工衛星「東方紅1号」を搭載した長征1号が打ち上げられてから、中国は長征シリーズの開発を進めてきました。
2003年10月には有人宇宙船「神舟5号」を搭載した長征2号Fが打ち上げられ、ソ連、アメリカに続く世界3番目の有人宇宙飛行に成功しています。
〜長征開発年表〜
1982年 長征2号C 運用開始
1985年 中国長城集団有限公司が商業打上げサービスを開始
1986年 長征3号B 開発開始
1992年 長征2号D 運用開始
1994年 長征3号A 運用開始
1996年 長征3号B 運用開始
1999年 長征2号F 運用開始
長征4号B 運用開始
2003年 神舟5号による有人打上げに成功(使用機:長征2号F)
2006年 長征4号C 運用開始
2008年 長征3号C運用開始
2015年 長征6号テスト飛行
長征11号テスト飛行
2016年 長征4号テスト飛行
長征7号テスト飛行
出展:「中国の宇宙開発 中国は米国やロシアにどの程度近づいたか」 林幸秀 p42
長征3号Bのスペック
四川省にある西昌衛星発射センターから打ち上げられる長征3号Bと強化機の長征3号B/Eは、高さ約54m(3B/Eは約56m)、直径3.35m、重量約425トン(3号B/Eは約458トン)の3段ロケットです。
LEOへは12000kg、GEOへは2000kgのペイロードを輸送可能で、ハイスペックな最重ロケットとして、通信衛星の打ち上げなどに利用されています。
現在運用されている長征シリーズは、テスト飛行も含めると2〜7号、11号です。
長征開発の光と闇
華々しい活躍を見せている長征ですが、その開発の過程で大規模な事故に見舞われています。
特に、1996年の長征3号B初飛行では、打上げ直後に落下・爆発する事故が発生しています。
これについては、これまで内陸部にあった射場から、東シナ海に面した中国文昌航天発射場での運用が2016年から開始されました。東側が海となるため、これまでと比べ、ロケットの落下リスクを軽減できるようになっています(通常、ロケットは東側に打ち上げます)。
こうした苦難を乗り越えつつ、現在、長征3号シリーズの打上げ回数は合計100回、長征シリーズとしては合計300回に達しています。
新型長征ロケットへ
現在、中国では新型長征ロケットが開発中です。
特に長征9号は、将来の有人月面探査、深宇宙探査等のミッションに備え開発されている大型ロケットで、高さ約100m、直径9.5m、サイドブースターの直径だけでも5mに及びます。
中国の宇宙開発をめぐっては多くの課題もあります。
宇宙科学活動をいかに発展させるか、いかにオリジナリティを出すか、商業宇宙活動のための法整備等、数々の課題と直面しつつも、中国の宇宙開発はより先の次元へ進んでいくのでしょう。
マンガ「宇宙強国」
冒頭のマンガを作成いただいたのは、昭和が生んだ天才美少女漫画家あんじゅ先生が運営するオンラインサロン「あんマンサロン」に所属するぽっくすさんです。
いつもありがとうございます!
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長征には多くのモデルがあり、それぞれ個性的なので悩ましいところですが、「嫦娥4号」の打上げに貢献した3号Bをモデルに作成いただきました。「元気なツインテール八重歯っ娘」は、数多くの宇宙スタートアップの出現に現れているような中国の勢いを表しています。
中国の宇宙開発の課題の一つとして、「ソ連やアメリカがやってきたことと同じようなもの」と言われることがあるようですが、いずれにしても、(日本から確認できるニュースや論文などによれば)宇宙強国をスローガンに進められてきた中国の宇宙開発が目覚ましい飛躍を見せていることは間違いありません。
トップダウンでプロジェクトが進められる国柄もあるとはいえ、地球の宇宙開発をより良く進めていくため、各国がそれぞれのリソースを活かして何ができるのか、アルテミス計画が始動しつつある今、私たち国民個人としても考えていきたいものです。
参考:
・中国長城工業集団有限公司ウェブサイト
http://www.cgwic.com/LaunchServices/LaunchVehicle/LM3B.html
・中国の科学技術の現状と動向2019 国立研究開発法人科学技術振興機構 中国総合研究・さくらサイエンスセンター
・「中国の宇宙開発 中国は米国やロシアにどの程度近づいたか」 林幸秀
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