「クジラ」よりも「スイミー」?飲食業経営の根幹となる"お金"の考え方
株式会社イデアルを経営しています、和田 亮(わだ りょう)です。
前回はなかなかボリュームのある記事になってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。
これまで自己紹介、料理、人材教育と書いてきました。今回のテーマは「お金」。経営にまつわるお金のことについて、私なりの考えをまとめてみようと思います。
利益とは『結果』であり、事業継続のための『条件』である
企業にとっての利益追求、お金を稼ぐことは≪目的≫か?≪手段≫か?という話がよくありますが、私はどちらでもないと考えています。
生きていくため、生活するためにはもちろんお金が必要。つまりお金を稼ぐこと=目的とも考えられます。しかし、お金を稼ぐことは目的達成のための「手段」ともなりえるでしょう。
私の考える会社経営において「お金」(利益)とは、事業の目的や手段ではなく『結果』であり、事業継続の基本的な『条件』です。
例えば、人間が生きていくためには『水』と『空気』が必要です。その水と空気があるから我々は健康に生活ができる。もちろん水と空気がなければすぐに死んでしまいます。
この水と空気を経済で言う『お金』に置き換えてみます。企業にも当然、水と空気(お金)が必要で、これが無くなると企業は存続できません。だからといって、水と空気(お金)を得るために人は生きているのかというと、それは違うような気がします。
そもそも私自身、お金目的で働いているわけではありません。好きなことをして生きていく、そのための必要条件としてお金があったのだと思います。
そんな事を考えているときに出会った1冊の本。ピーター・ドラッカーの著書『現代の経営』にはこう書かれていました。
また彼は「企業や事業の真の目的は社会貢献である」とも述べています。その真の目的を成すための「条件」として利益が必要だと。
会社の利益の為に働いているのか?それとも自分のために働いているのか?
実際にほとんどの社員は自分のために働いていると思います。会社はその働く個人を幸せにすることで、社会貢献に繋がるというのが私の考えです。
「大切なのはお金じゃない」とか「お金を稼ぐのは社会奉仕のため」だという考え方の人もいます。
一見、私の考え方とも同じように感じられるかもしれませんが、違うと感じています。
まずは自分のため、そして家族のため。それが実っているからこそ社会奉仕ができるはずです。自分や家族が食べるものに困っている状況で、社会奉仕のためにお金を使う人はきっと居ないですよね。
誰かを幸せにするためには、まずは自分が幸せでなければいけない。その考え方が根本にあります。
飲食業を、もっと人が働きたくなる業種にしたい
私が事業を行っている飲食業界の労働環境を変えることも一つの社会貢献だと考えています。働くスタッフの生活を良くしたり、飲食関係にとどまらない学びの機会を用意してあげることが、社会を良くすることに繋がるという想いがあります。
働く人の健康を考えることは、SDGsのひとつでもあります。飲食の仕事をしながら、心と体が健康的に働ける環境や仕組みを作る。そして飲食業をもっと高い位置に、人が働きたくなる業種にすること。それが私の夢の一つです。
また、私が自己の向上を求めて入会した青年会議所で覚えた言葉があります。私が人生の目標にしている、大切な言葉です。
好きな箇所を抜粋すると
私はこの言葉を受けて、「働く社員の個性を活かして社会に貢献できる会社を作り、私自身がその社員に尽くすことを自分の生業にしたい」と心から思いました。
人の活動において大事なことは何か。それは「健康な身体を使ってその人が何を成し遂げたか」です。
要は水と空気は生きていくのに基本的な『条件』ではあるけど、目的や手段ではありません。無ければ生きていけませんが、そのために働くのではない。
もっと社会的意義や自分の個性を活かして人(世の中)に貢献できる人財として育って欲しい。そして社会生活の中で、それぞれのビジョンを成し遂げてもらいたいのです。
もちろん、お金を稼ぐことを目的にしている人(会社)や手段だという人(会社)が悪いとは思いません。儲けることによって(手段)、社会に変革や進化をもたらすこともあるでしょう。
このように、お金(利益)を追求すること、それを主たる動機(目的)にする企業もあれば、主たる動機は別にあり、手段としてのお金を儲ける企業もあると思います。
それを決めるのは経営者の意志であり、私にとってはあくまでも『結果』です。そして、企業が生きていくための基本的な『条件』なのです。
『信用』という言葉の二つの意味で味わったお金の失敗談
社会勉強のために20代で株を始めたこともあり、独立した当時にはある程度の資金がありました。それに加え銀行から借金をしたこともなかったので、自信満々に銀行へ開業の事業計画を持っていきました。
しかし、門前払いとはこの事。事業計画など見られもせずに「あなたはまだうちから借金などした事がないから、『信用』がない。なのでお金は貸せない。」と言われてしまったのです。
え!?ってそのときはとても驚きました。借金をしてないから『信用』があるはずと思ってたのに、全く逆だったのです。
確かにお金は証券会社にありました。しかし、その銀行でコツコツと定期貯金や貯蓄をしてこなかったのが裏目に出たのです。
借金がない・返した実績がないから信用がないって考えがあるとは、当時想像もしていませんでした。(その後『国民生活金融公庫』に相談して何とか借りることが出来ました)
事業を始めてからは、安易に人を『信用』し過ぎて少しばかり困ったことも。始めたばかりの頃はどんどん人に投資したものの、投資した技術で独立されたり、修行に行ったまま戻らなかったり...
そもそも契約書なども作っておらず、その人たちに対しての信用だけでやっていたので仕方ないのですが...。もちろん全員がそうだったわけではありません。ですが、みんなで稼いだお金を投資したわけですから、これは失敗したなと思いました。
失敗はしましたが、事業において一番しっかりと投資をするのは、今でも『人』です。
『人』に私の料理の考え方や仕事の大切なことをしっかりと伝えて育てる。そこに私は投資をします。
ただし、過去の教訓を経て必ず契約書は作ります。何のために修行に行ってもらうのかもしっかりと伝えています。
経営の戦略設計に役立った「MQ会計」の考え方
お金については、若い頃から自分で積極的に学んできました。MG研修のインストラクター資格や、未来会計の修了課程も取得。
なぜお金のことを勉強しようと思ったのか。
税理士と話していてどうもお金についての価値観が合わず、これなら自分で学んでしまったほうが良いなと思ったからです。
いざ勉強を始めてみると、『税理士』が税務署に申告する為に必要な数字とお金の考え方、『経営者』が経営に必要な数字とお金の考え方は全く違うことが分かりました。それを面白く感じた私は「お金」の勉強にのめり込みました。
税理士の方からはよく「利益を上げるために売り上げを上げてください」と言われていたのです。
でも、売上を上げる方法は一つではありません。例えば、数量を変えずに単価をあげれば売り上げは上がる。単価を変えずに数量を増やしても売り上げは上がる。
しかし、飲食店で単価を下げて数量を増やすと、売り上げは上がるけど原価が悪くなって利益を圧迫して赤字になってしまうこともあります。
「売り上げを上げよう」というときに、戦略として何を実施するべきか。これをMQ会計を使って考えることで、作戦が明確になるのです。
MQ会計とは、会社の利益を要素ごとに分解し、科学的・戦略的に見ていく会計の仕組みのこと。
P(プライス―価格)、V(バリアブル・コスト―原価)、Q(クォンティティー―数量)、F(フィックスド・コスト―期間費用・会社経営費)の4つの要素によってG(ゲイン―利益)が決まるという考え方です。
このMQ会計を学んだおかげで、お金(利益)に囚われて仕事をするのではなく、やりたいことを計画的に実行すれば利益が見えてくるようになりました。
またその分、社員に利益が還元できたり料理や設備に安心して回せる様にもなったのです。
コロナ禍で感じた組織の弱点。そして“運営特化”の経営方針へ
コロナ禍では様々な苦労があったものの、これからの経営に繋がる多くの気付きもありました。
その一つが固定費について。
イデアルは店舗数も社員数も多いため、固定費が月に数千万円かかります。これはコロナ禍の経営においてはかなり大きな出費でした。
このときに感じたのは「固定費が大きい組織は何かあった時に弱い」ということでした。
ホテルオークラと星野リゾートを例にします。不動産から全て購入してホテルを作ってきた大倉商事は、結果的にバブル崩壊と共に衰退して倒産。
一方で星野リゾートは、ほとんど不動産を持たない経営でした。潰れそうなホテルを立て直すため、その会社自体に投資をして星野リゾートは運営コンサルタントとして入りました。
投資回収の必要もなく展開が早いため、結果的に少ないリスクでホテルを再建することができました。
土地や建物を所有せず、運営に集中する。これからは星野リゾートのような「運営特化」の経営方針が、飲食店の資金繰りに合っているのではと考えるようになりました。
会社が個人の独立を支援!「独立採算制店舗」の実現に向けて
前回の記事でも少し書きましたが、コロナ前から実施していたイデアルの「独立採算制店舗」構想。イデアルとして店舗を経営するのではなく、各店舗が独立した一つの会社として経営権を持つという方法です。
この経営方針はコロナ禍で大きな結果を出しました。朝令暮改で指示を出さなければいけないコロナの状況下では、これまでのように経営層と現場の仕事を分けて考える経営は上手くいかなかったのです。
一方で、独立採算制店舗の場合は失敗も成功も全て自己責任。店舗の利益がオーナーの収入に直結します。
そのため、お店のことを"自分事"として捉えて行動した独立店舗は、そうでない店舗に比べて売上減少を抑えることができたのです。
先ほども例に挙げた星野リゾートの成長スピードが速いのも、この「自分ゴト」の経営方針が影響していると思います。
リゾート開発にはとてもお金がかかります。そこで元からあるホテル側の従業員の多能工化を進める。社長は社長として必死に仕事をするので、どこの星野リゾートも高い意識を保てているのです。
これに倣い、イデアルも店舗を所有するのを辞めて運営に特化しようという考えに至りました。所有と運営を分けることの最大のメリットは、不動産を所有しないため債務が膨らまないこと。
この考えは独立採算制を考え始めた10年ほど前からありますが、コロナ禍で確信に変わりました。
そこで今後は、会社が出資して独立したい人をどんどん支援していこうと思っています。
今までのイデアルは、会社が主体となって動く【クジラ型】でした。
組織としてのまとまりはある一方で、そこから独立しても何もできない人が多かったのです。
そこで、これから目指したいのは【ベイト・ボール型】です。個人個人が束となって一つのものに向かうことで、個々の能力を上げながら会社としての方向性も定まる。かの有名な「スイミー」みたいなイメージです。
また、もし何かあったときにもリカバリーが効きやすいのもメリットの一つです。
個人での独立を考えたとき、小規模店舗経営を希望する人は多いと思います。利益はダイレクトに返ってきますし、個性を活かしたオンリーワンなお店づくりもできる。
しかし、業者との交渉や総務経理業務・デザインなど、一人でこなさなければいけない業務も多いのが実情です。個人でやるには知識に偏りも生じてしまうのが実情です。
大規模な会社(今までのイデアル)では、社会的信用もあるため業者との交渉はスムーズ。一方で、会社の利益優先でルールも多く、個人のしたいことがあまりできません。
そこで両方のメリットを活かすために考えたのが、「独立支援制度」というものです。いわば大規模な会社と小規模店舗のハイブリット型。
イデアルがフォーマットになって業者との交渉や総務経理を負担する。そして各店舗は独立した会社としてお店を経営。これにより小規模店舗のメリットを得られるほか、手間のかかる業務に時間を取られずに済みます。
例えば、経営コンサルタントと契約したとしても、全てが上手くいく保証はどこにもありません。しかし、イデアルと契約することで少なくともインフラが安く整うほか、経理総務の負担が無いという明確なメリットがあります。
これからの飲食業は、一人で勝つことがなかなか難しい時代だと考えています。
インフラを大きな会社に任せた上で、対お客さんへのセールスは自分でやる。これが、これからの時代に合った会社と店舗の双方にメリットのある最適な戦い方ではないでしょうか。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回も長くなってしまいましたが、私が今考えている会社の「お金」についてまとめてみました。
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