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「青空に雨」第4話

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第4話「小川渚沙おがわなぎさ

 わたしは最近気になっている事がある。高校に入ってからの友達である愛ちゃんが、時々星田勇気ほしだゆうきと二人でコソコソ話しているのを見かける事だ。

 星田勇気ーーユウは同じ中学出身で、中二の時に同じクラスになった。たまたま席が隣になった事が一度だけあって、そこから何となくちょっかいをかけている。
 ちょっかいを出されているわけではなくて、出している。わたしが! ユウに!!

 ユウは自分から誰かに絡んでいくタイプではないけど、話しかけやすいから休み時間は大抵誰かの会話に巻き込まれている。とはいえ多分友達なんて数えるくらいしかいない。A組の尾上陽太と錦織大和。そしてわたし。

 ユウはわたしを友達とも思ってないかもしれないけど、たぶん中高通してユウと一番会話している女子はわたし。そして「ユウ」なんて気軽に呼ぶ事ができる女子もわたしだけ。

 ユウは自分からはほとんど何も話してくれないけど、こちらから質問すればだいたい教えてくれる。誕生日は5月30日。血液型はAB型で4月の計測結果では身長176センチ。家族構成はご両親と大学生のお姉さんとユウの4人。猫が好きで部活は帰宅部。こんなことを知っている女子もわたしだけ。

「あー、また!」

 ボリュームは抑えたつもりだけど、イライラした心の声が、ついそのまま音になってしまう。今もまた窓際の自席に座るユウに、前の席を後ろ向きに座った愛ちゃんが何か小声で話しかけている。悔しいけど愛ちゃんは本当に可愛い。そんな愛ちゃんがなぜユウとコソコソ話などしているのか。

 ユウなんかと。あの、いつもボーッとしててこちらから話しかけなければ基本誰とも話をしないで、地味でクソ真面目なユウなんかと!
 ……ユウの事だから自分から話しかけるわけないし、そうなると愛ちゃんが何かしらの目的でユウに近づいているとしか思えない。ユウもユウで声が小さいから、全くもって何を話しているのか聞こえてこない! 私の席は廊下側なんだからね! もっと聞こえるように話しなさいよ! 逆にこっちから割り込んでやろうかなぁっ!

「もーっ、気になるったらありゃしない!」
「うわっ小川! 何? ぷりぷりして」

 あまりにイライラする自分に腹を立てて、気分転換に教室を出たところで思わず大声を出してしまったら、廊下を通りかかった錦織大和と鉢合わせてしまった。ちょうどいい、ユウの数少ない友達である錦織に文句を言おう。

「ちょっと、錦織あれ見てよ!」
「あー……また……」

 窓際で話し込むユウと愛ちゃんを指して見せると、錦織は四捨五入して190センチはあるんじゃないかと思うほどの長身をがくんと縮こませた。どうしたバスケ部員。

「何であんたがうなだれてんの? イライラしてるのはこっちだっていうのに!」
「え、イライラ? ……あぁ、ユウ? まったく、ユウのくせにモテるとか意味不明……」
「なにそれ? モテる? まさか愛ちゃんが?」
「……? それは違うってよ。俺たちもユウに問いただした事があるんだけど、長谷川さんはユウに、ただ相談事を持ちかけてるだけみたいなんだよ。
「相談事? 何の」
「それが『守秘義務』って言って教えてくれなくてさ」
「うーん……ユウらしいって言えばユウらしい返し」
「だろ? でも反応からして恋バナじゃないかって陽太と推測して。考察結果としては、好きな人へ直接恋愛相談なんかしないだろうという事で、長谷川さんはシロ」
「そんなことが既にあったのか……って、ユウがモテるって何? 気になるんだけど」
「いや、ただの個人的な考察だから気にすんな。とはいえ、ただの相談事だとわかっていても、見かけるとテンション下がるよな」
「なに、錦織も愛ちゃん派なの?」
「……わかる?」
「わかりやすい」
「そういう小川はどうせユウ派なんだろ?」
「は!? 何それ、あんた何言ってんの?」
「いや、ハハハ、俺からしたらわかりやすいけど。でもさ……」
「あームカつく! ちょうど良く遭遇した錦織に文句言ってスッキリしようと思ったのに逆に意味不明なこと言われるし! 最っ悪」

 最悪と言い終わったタイミングでチャイムが鳴った。何このタイミング。コントみたいで更に劣悪。

「チャイムじゃん。もう俺行くわ」

 錦織はそう言うと、廊下の人波をでかい身体でスイスイ通り抜けA組の教室に入って行った。

《そういう小川は、どうせユウ派なんだろ?》

 錦織の声がどこか遠くからずっと聞こえていて、3時間目の授業が全く頭に入ってこない。わたしはどこか上の空のまま、カリカリと手が動くまま教科書の隅へ落書きをする。何か落ち着かないし、モヤモヤする。

 わたしが思うに、一年生の中で愛ちゃんは一番可愛い。見た目ももちろんだけど、あれだけ男子からの人気が高いのに、いつも自然体で女子の友達が多いのも納得。わたしも微かに憧れている。愛ちゃんみたいになれたら、きっとからかうだけじゃなくて、普通にユウもと話せるのかも知れないけど。
 ユウ?
 なんで今ユウの事なんて考えた??? ナシナシ。今のナシ!

「渚沙ちゃん、何かあった? 授業中ずっとぼんやりしてたよね」

 昼休みに悩みの種でもある愛ちゃんに指摘されてしまった。え? 見てたの?
 そう、結局わたしは4時間目もモヤモヤし続けて、昼休みの今でさえ絶賛モヤモヤ中。

「うーん……いや、なんでもなーい」

 ユウと何話してるの?
 ……なんて聞けない。

「それより次、単語テストの日だよね。わたし全然やってないから、お弁当食べた後、単語覚えるの付き合ってよー」

 あぁ、こんな無難なことしか言えない。

「オッケー、いいよ! じゃぁお弁当早く食べちゃおう?」

 愛ちゃんは相変わらず、とびきり可愛い笑顔でわたしを見た。

第4話「小川渚沙」2327文字/完

第5話「錦織大和」へ続く(現在執筆中)

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