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2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』あらすじ&感想(第9回「信長の失敗」)

■あらすじ

輿(こし)入れしたものの祝言をすっぽかされた帰蝶(川口春奈)は、ようやく翌朝帰ってきた信長(染谷将太)と顔を合わせる。奇妙な出で立ちだが、領民のことを思いやる姿、そして素直に前日の不在をわびる信長に興味をもつ。婚儀に上機嫌な信秀(高橋克典)と土田御前(檀れい)だが、信長が持参した祝いの品を見て、激しく叱責する。父にも母にも愛されない孤独な信長の姿を見た帰蝶は、鉄砲の手ほどきを受けながら自分も父がときどき大嫌いになる以外は好きだと言い、信長に寄り添う。一方、美濃の光秀(長谷川博己)はのちの正妻となる熙子(木村文乃)と懐かしい再会を果たしていた。

■トリセツ

竹千代の人質としての価値は?
三河の最有力大名であった竹千代の祖父・松平清康が急死したため、子の広忠が跡を継いで岡崎城主となりました。 広忠の嫡男である「竹千代」=「三河」を意味し、竹千代を人質として手に入れることは、戦わずして三河を手に入れることを意味します。

今川義元は、なぜ強大な勢力を誇ったのか?

今川家は下剋上の世の中をのし上がってきた織田家や斎藤家とは違い、駿河・遠江の守護に代々任命されていた名門の家柄。さらには、卓越した経済力があり、朝廷にも大金を献金することで大きな権力をもつようになりました。
収入源で一番大きかったのは金山(きんざん)収入。加えて、領国(駿河・遠江=現在の静岡県)は太平洋に面していたので織田家と同じように商品流通経済に目を向け、江尻(清水)や沼津など多くの港をおさえ、海上運送による大量物流を掌握。また陸路では東海道を行き交う商人たちから徴収した関税なども収入源になっていました。
ちなみに、「楽市楽座」という名称を使ったのは信長が最初だといわれていますが、今川家はすでにこの自由市場のシステムを取り入れていました。

大金持ちの証し “赤い金魚”
織田家で人質として暮らす竹千代は、自身のとらわれの境遇と重ね、赤い金魚をのぞいていました。
金魚は、室町時代の中期〜末期に中国から観賞魚として伝来、当時は赤色の金魚しかいませんでした。
渡来物で大変に高価であったためその姿を楽しむことができたのは、大名や商人の中でも莫大な財力を誇る一部の人たちだけでした。

■大河紀行 岐阜県土岐市

岐阜県土岐市。光秀の妻となる熙子(ひろこ)は、この地にあった妻木郷(つまぎごう)の豪族、妻木氏の娘といわれています。

城山山頂に築かれた山城、妻木城。土岐一族の流れをくむ妻木氏が城主となり、この地を治めていました。当時、築城されたといわれるこの城は、時代とともに堅牢な城に整備されていったといいます。

山に囲まれたこの地域は、良質な土が取れたことから、古くから焼き物の産地として知られてきました。妻木氏は領内での陶器の生産を奨励。現在の美濃焼の基礎をつくりました。

光秀は、焼き物の里で生まれた熙子とともに、波乱万丈の人生を歩むこととなるのです。


 三河国は、西の尾張国(織田氏)と東の遠江・駿河国(今川氏)に挟まれていました。当時、安祥松平広忠は岡崎城(愛知県岡崎城)を居城としていましたが、岡崎城は、西の安祥城に織田信広(織田信長の兄)、南の和田城に三木松平忠倫(織田方)、東の岡城に三木松平信孝(織田方)と、織田方に取り囲まれていました。安祥松平広忠は、降参して織田方となり、人質として、嫡男・竹千代を差し出しました。(新説。旧説では、安祥松平広忠が今川義元に加勢を申し込むと、人質を要求されたので、嫡男・竹千代を駿府に送ったが、その途中、織田氏に寝返った戸田氏に奪われ、竹千代は熱田に送られて織田氏の人質になったとする。)
 その後、安祥松平広忠は、(一説に斎藤利政の働きで)今川方に戻りました。駿府今川館(静岡県静岡市)に呼ばれた安祥松平広忠は、今川義元に「織田と戦じゃ~!」と言われ、早速、戦の準備をしようと岡崎へ戻る途中の峠で、織田信長に討たれました。
 東海道(主要道路)に安祥松平広忠一行しかいないってことはありえません。この嘘を正当化するために、脚本家はさらに嘘を嘘で固めました。
従者「殿、程無く陽が落ちまする。やはり麓に戻って朝を待ちましょう」
安祥松平広忠「ならぬ。明日の日暮れまでに国境を越えるのじゃ」
従者「この峠には鬼が出ると」
なるほど。他の旅人は「山中で夜を迎えるのは危険。さらに鬼が出る」として、峠越えをやめる時刻なので、いないのですね。(「鬼」といえば、虎皮のパンツがトレードマークですね。そして、織田信長のトレードマークは、(このドラマの織田信長は浦島太郎ですが)虎皮の袴です。)
さて、「明日の日暮れまでに国境を越える」をどう解釈したら良いか・・・。東海道の峠は次の3つです。
・駿府今川館の西の安倍川を越えた「宇津ノ谷峠」(『伊勢物語』)
・駿遠国境の大井川を越えた「日坂峠」(「小夜の中山」)
・三遠国境の「本坂峠」(浜名湖の北)
国境は駿遠国境、三遠国境の2つですから、組み合わせは、
①「宇津ノ谷峠」にいて、明日の夕暮れまでに駿遠国境(大井川)を越す。
②「宇津ノ谷峠」にいて、明日の夕暮れまでに三遠国境(本坂峠)を越す。
③「日坂峠」にいて、明日の夕暮れまでに三遠国境(本坂峠)を越す。
の3つしかありません。今は夕暮れ、そして、国境を越えるのは明日の夕暮れ。24時間で移動できるとすると、③ですね。しかし、①~③のどのケースでも、翌日の朝、織田信長が那古野城へ戻るのは無理です。(波の音と共に登場したので、陸路ではなく、海路を使ったのでしょうけど。)
 疑問に思うのは、松平広忠が馬に乗っていないことです。普通は主従共に馬に乗っているはずです。馬に乗っていれば、襲撃されても逃げられたのではないでしょうか?
「菊丸は見ているだけ。なぜ助けなかったのか?」
菊丸の使命は「竹千代を救うこと」であり、「松平広忠を助けること」ではありません。(忍者は自分に与えられた使命を果たすのみです。)松平広忠を助ければ、松平広忠は岡崎に戻って出陣の準備をし、それを聞いた織田信秀は人質の竹千代を殺すでしょう。菊丸は、それを防ぐために、松平広忠を殺すためにあの場にいたのかもしれません。その証拠に、松平広忠の遺体を見て、「広忠様・・・」と言っただけでした。普通でしたら、「広忠様、さぞかしご無念でありましょう」と言って手を合わせます。手を合わせないということは、殺す気だったということでしょう。「広忠様、今川義元にそそのかされて織田と戦おうとしたのでこうなったのですよ」と言いたかったのでしょう。菊丸の雇い主・於大の方も、元夫が死んだというのに、泣き崩れることはなく、「引き続き竹千代をよろしく」と使命の更新をしました。

さて、遅れてきた花婿の登場です。いきなり詫びるかと思いきや、
「マムシの娘だから、蛇女だと思った」
っておい、おい。
 そして遅れた理由を「松平広忠を殺してきたから」とは言えず、マムシだけに、ベビ繋がりで、以前の大蛇騒動を思い出し、その時の話をし、「領主は領民ファーストで、婚礼よりも大事じゃ」と言ってのけました。挙動不審になることなく、堂々と嘘をつける織田信長が怖いです。
帰蝶も織田信長に敗けず劣らず豪快な人物で、恨み辛みを一言も言わず、
「お腹がすきました」
と。そして、「これで凌げ」と干し蛸登場! 「美濃は干し柿、尾張は干し蛸」──この対比が良い。織田信長は、「毒はないぞ」と言わんばかりに、まず、自分が豪快に食べてみせる。真似をする帰蝶。
帰蝶「固うて、塩辛い物にございますね」
織田信長「それが海の味じゃ。尾張の海の味じゃ」
なんか、いい夫婦になりそうな予感がします。

シーン代わって、末森城。
斎藤利政から見事な松の盆栽が届けられました。(斎藤利政の盆栽趣味は聞いたことがありません。庭に桜をたくさん植えたことは有名ですけどね。)織田信秀は大喜びでした。
 久しぶりに父・織田信秀に会う織田信長もマツ繋がりで、松平広忠の首を、白木の首桶ではなく、漆塗りの「ほかい」(「行器」「外居」。儀礼の際、食べ物を運ぶ為に使われた容器)に入れて参上したのですが・・・怒られました。
 織田信秀の敵は、①北の斎藤氏、②東の今川氏、③国内の織田一族であり、織田信長は、「北の斎藤氏と同盟を組んだので、(斎藤氏と共に)今川氏と戦う準備が整った」と判断し、「先手必勝で、松平広忠を暗殺した」のですが、織田信秀の判断は、「時機尚早。まずは尾張統一。それで美濃統一の斎藤氏と同レベル。今、今川氏と戦ったら、斎藤氏は同盟を切って、今川氏と組んで、尾張国を攻めてくる」だったようです。「父上に喜んでもらいたい」一心なのですが、裏目に出ました。これが「信長の失敗」です。

 ──開けては成らぬ箱があるんです。(by 土田御前)

 直接的には「行器を開けて松平広忠の首を見てはいけない」(織田信長の狂気が分かったら今すぐ離婚したくなる。それに反して、織田信勝は可愛い)でしょうけど、現代人が聞けば「パンドラの箱」(パンドラは、全ての悪と災いを封入した箱を好奇心から開けた。好奇心は死を招く)を思い浮かべることでしょう。織田信長の姿を見ると、帰蝶が思い浮かべたのは浦島太郎の「玉手箱」でしょうか。キョトンとしていましたね。(浦島伝説は各地にあります。尾張国にもあります。)ちなみに、パンドラの箱に唯一残ったのは「希望」でした。制作統括・落合将によると、「麒麟」とは、特定の人物ではなく、「希望」なのだそうです。

そして、竹千代登場! めちゃ可愛い・・・癒やされる。
熱田に監禁されているのに、時々、末森城に呼ばれては織田信勝に朝倉将棋(将棋には古い順に大将棋、中将棋、小将棋(現在の将棋)があり、中将棋と小将棋の中間が朝倉将棋で、小将棋よりも駒が1つ多い)の相手をさせられているという。そして、わざと負けているという。自分を金魚にたとえる竹千代──後の徳川家康は苦労人である。(金魚(観賞魚)をガラス製の金魚鉢に入れて鑑賞していない理由は不明。唐の金魚を手に入れられるのだから、ガラス製品も手に入れられるはず。)

場面変わって那古野城。ストレス解消に鉄砲を撃つ織田信長。
帰蝶「今日、お父上と何か、悪しきことでも?」
織田信長「毎度のことじゃ。気にする程のことではない」
帰蝶「信長様は、お父上がお嫌いですか?」
織田信長「いや。帰蝶は親父殿が好きか?」
帰蝶「はい。時々、大嫌いに成る時以外は」
織田信長「ほっ。儂も同じじゃ」
帰蝶「同じ?」
織田信長「時々、大嫌いに成る」
帰蝶「同じでございますね」
似た者同士は、いい夫婦になれる。それにつけても、いい嫁だなぁ。夫の異変を察知し、すぐにフォローする。帰蝶は、織田信長の才能を開花させる気がします。それが、開けてはならぬ箱だと気づかずに。
 帰蝶はパンドラのように好奇心旺盛。射撃に挑戦します。明智光秀は、斎藤利政の後ろ(銃身と的の両方が見える位置)から見て、「もう少し右」と細かく指示し、水瓶に当てさせ、成功体験を味合わせるという教師でしたが、織田信長は、「射撃姿勢が肝心」と(鉄砲自体が重いし、反動で肩を脱臼されても困るので)帰蝶の体を固定し、的にかすると、「筋がいいな」と褒めて伸ばす教師でした。
 ここで気になったのが、「帰蝶への祝いの品は何であったか?」ということです。一般的には、豪華な着物でしょうけど・・・帰蝶が欲しいのは馬だと思います。(鉄砲ということはないでしょう。)ちなみに、斎藤利政は短刀(関の孫六)を贈り、
「織田信長がうつけであったら、これで刺せ」
と言うと、帰蝶は、
「この短刀は、父を刺す短刀になるかもしれません」
と答えたそうです。アッパレです。

 さて、季節は春から夏へ。ミンミンゼミがうるさい。(画面に映ったのはアブラゼミですが。)妻木氏居館に着くと、なぜかセミの声はピタリと止み、小鳥のさえずりが・・・そして、涼しい風と共にハナミズキの花びらが・・・煕子登場です! この女性も、帰蝶同様、明智光秀との幼い頃の思い出をしっかりと覚えていました。

──大きくなったら重兵衛のお嫁におなりって。子供の頃の話でございます。

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