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宗会報告「常没流転」/西光義秀議員

西光義秀議員(奈良教区)の宗会報告書を許可をいただき全文掲載します。


はじめに

 本年二月十九日の奈良教区選挙会において、宗会議員に選出されました宇陀北組萬行寺住職の西光義秀です。昨年末に突然ご逝去された玉井利尚宗会議員の後任として、多くの皆さまに推され、まったく予期しない出来事に戸惑うなかで宗会に出させていただくことになりました。
 その後、第三百二十三回定期宗会が二月二十八日より三月八日までの十日間にわたり開催されました。まったく勝手のわからぬまま宗会に臨むこととなりましたが、多くの先輩議員や職員の皆さまのご指導を仰ぎながら、最初の宗会を務めさせていただきました。ここにその宗会の報告をさせていただきます。

 今定期宗会には、議決議案の二〇二四(令和六)年度の宗務の基本方針案、そして同年度の宗派一般会計歳計予算案をはじめ、各種特別会計歳計予算案など二十件の財務議決議案が上程されました。通告質問には二十三人の議員が登壇しました。
 議決議案と財務議決議案は三月五日の本会議に上程され、総局の提案理由説明、それに続く質疑の後、財務議決議案は第一および第二予算審査会に付託されました。そして最終日の三月八日の本会議で採決が行われ、全議案が可決、承認されました。
 これを受け、池田行信総長が突然辞任しました。その後、総長選挙が行われ、新たに荻野昭裕総務が新たに選出されました。

二〇二四(令和六)年度 宗務の基本方針

 総長によって、宗務の基本方針が次のように示されました。全体を通した主題は【宗祖があきらかにされたみ教えと願いを体し、持続可能な宗務組織を構築する~宗門の基本理念に基づく同朋教団の新たな歩みに向けて~】というもので、三つの大きな行動指針が以下のように示されています。

⑴ み教えを拠りどころに生きる者となり、阿弥陀如来の智慧と慈悲の心が広く、また次の世代に伝わるよう、「伝わる伝道」を実践し、行動する。
⑵ お念仏を相続し、「世のなか安穏なれ、仏法ひろまれ」と願われた宗祖親鸞聖人のお心にかなうよう、喜びも悲しみも分かち合い、自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現に努める。
⑶ 宗門内外の課題に対応し、伝道活動を支える持続可能な組織化を推し進める。

さらに、その中で特に注力するものとしては、

① 「伝わる伝道」の研究と実践
② 平和への取り組み
③ 宗門におけるジェンダー平等への推進
④ 持続可能な宗務組織の構築
⑤ 宗門総合振興計画の点検

以上の五つの点が示されました。
 二〇二三年度の宗務の基本方針に掲げられていた「新しい領解文」の学びと実践は削除されました。

二〇二四年度宗派一般会計歳費予算

 二〇二四年度宗派一般会計歳計予算は、四十三億四千三百万円(前年度比約8.9%減)です。
 令和二年度から令和五年度まで行われていた新型コロナ対策「寺院教化助成費」(各寺院に第一種・第二種賦課金告知額の一定の割合を交付する制度)は二〇二四年度予算では取りやめとなります。
 また、二〇二四年度より実施を予定していた、賦課基準の見直し(新しい賦課金制度の導入)については、本年四月からの施行はスケジュール的に困難であり、延期されることが明らかになりました。その理由として次のは次の三点が挙げられました。

① 賦課金制度に関する専門部会から第三次答申が出されているが、その内容理解が未だ十分に得られていない。
② 賦課基準の見直しを行うに至った経緯や趣旨、検討の経過等についてさらなるていねいな説明が必要である。
③ 収支計算書または決算書を管理している寺院が六割にも満たないこと。

 賦課基準の見直しについては、これまでも『宗報』等にも概要が記されてきましたが、その詳細は不明で、来年度からの実施は困難だという見方もありました。
 「第三次答申が出されているが、その内容理解が未だ十分に得られていない」というのが総局見解ですが、総局からの明確な内容はいまだ示されてはいません。また、収支計算書等を作成・管理していない寺院が六割にも満たないという現状は、第十回の宗勢基本調査(二〇一六年実施)においても明らかになっていたことですが、その具体的な対策・対応も行われてきませんでした。新たな基準で賦課金制度が実施された場合、奈良教区の多くの寺院が抱いている不公平感が払拭できるのかということは注目点です。
 なお、来年度(二〇二四年度)は、今後の賦課基準の見直しのための書類となる収支計算書や決算書についての作成等の研修会が、教区を通して行われるようです。

二〇二四年度特別会計 宗門総合振興計画推進費歳計予算

 宗門は、二〇一五年より十年間の計画で、宗門総合振興計画を推進してきました。その懇志総額は、二月二十七日までで、約百九十一億三千八百万円(計画額二百億円)です。
 二〇二四年度の推進費歳計予算は五十七億五千五百万円(前年度比八億五千二百万円減)。そのうち、約四十一億八千五百万円が予備費として計上されています。それはこの宗門総合振興計画が最終年度となるための措置です。

通告質問

 通告質問は二十三人の議員がおこないました。「新しい領解文」を巡ってさまざまな方向から多様な質問が出ました。その他にも、教区・組画の再編、新しい賦課制度の対応について、あそか花屋町クリニックの運営責任、本願寺北境内地の活用について、能登半島地震災害について、ビハーラの人材育成、宗門におけるジェンダー平等、まことの保育について、等々多岐にわたりました。
 私も次の二点について質問をしました。一つは過疎地に立地する寺院の状況が厳しくなるなか、寺院の統廃合の手続きが必
要となる過疎地の寺院住職、門徒総代らに「宗教法人法」の周知徹底をはかり、認識を深めてもらう研修等が必要であることの必要性を述べ、その対応について問いました。
 二つめには、これまで浄土真宗は日本的家族制度に依存して相続されてきたが、ここにきて親と子や孫世代が別に住み、墓じまいや仏壇じまいが広がり、真宗の法義相続が非常に難しくなっている。それは都市部についても起こっている。ご縁のない人たちに関心をもっていただくこと(新たな門信徒の獲得)も大切ではあるが、これまで宗門を支えてこられた門徒の子弟、あるいは幼少期に仏壇に手を合わせ、日曜学校に通った経験はあるけれど、いまはご縁が薄くなってしまっている人たちへアプローチを深めることが必要ではないか、と問いました。
 いずれにおいても、それらの対策、施策が具体的に考えられているようにはありませんでした。
 前宗会議員玉井利尚さんが過疎の問題を取り上げると、「また過疎の問題か・・・」という声があったようです。それでも粘り強く過疎問題を取り上げ続けられたことで、宗政のなかにも取り入れられるようになり、多くの議員が関心を持つようになられたと聞きました。人口減少や少子化の影響は、過疎問題だけに止まらず、都市部においても法義相続に関わる問題として顕在化しています。奈良教区だけの問題としてではなく、宗門の根幹を揺るがす問題であることを、これからも飽くことなく訴え続けてゆきたいと思っています。
 なお、二〇二四年度より過疎対応支援員は、教区寺院振興対策委員会にその業務を移管する計画であることも明らかになりました。詳細については明らかにはなっていませんが、各教区の過疎対応支援員ととも連絡を取りながら、過疎地支援の後退となることのないよう対応したいと考えています。

今宗会でおもに問題となったこと

 宗会においては、総局より「宗務の基本方針」や「次年度予算」等が提案され審議されます。そのなかで、宗会議員は、現在、宗門内で特に問題とすべきものを、宗会の本会議だけではなく、第一審査会(一般予算の審査会)や第二審査会(特別予算の審査会)などを通して取り上げ議論をします。
 今宗会においては、それらの審議、質疑の場において、特に次の三点がおもな問題となりました。

① 新しい「領解文」について
② あそか花屋町クリニックの閉院について
③ 本願寺北境内地の活用について

① 新しい「領解文」について

 昨年の御正忌報恩講ご満座において、ご門主より出された「新しい領解文」(浄土真宗のみ教え)は、この一年、宗派内だけの問題に終わらず、一般新聞にも取り上げられ、広く世間の注目を浴びることになりました。その周知・普及をはかるという目的で教区学習会が開催されてきましたが、多くの教区で異論がでるとともに、唱和の推進についても懸念することが多く出たことを総局も認めることとになりました。
 この「新しい領解文」が出され、その普及を強引に進めたことにより、僧侶、門信徒は翻弄され、わが宗門は疲弊したように感じています。それだけに、今宗会は、この「新しい領解文」問題解決に向かい、ひとつの区切りをつけることができるのかということが、大きな課題であったように思います。
 まず、総長宗務方針演説では、総局からは、昨年度の宗務の
基本方針のなかに掲げられていた「新しい領解文」の学びと実践という項目が削除されたこと、また次回の宗勢基本調査において「寺院行事での唱和百%をめざし、さらなる周知に努める」ということを見直し、今後は、総局、本願寺内局、宗務の現場である教区・沖縄特区、組、直轄寺院、直属寺院及び一般寺院等における拝読・唱和等については、各機関および寺院が判断しておこなうという見解を示しました。
 ここでの問題点を二つ挙げておきます。ひとつは、これまで拝読・唱和を推進してきたことへの振り返りがないままに、新たな見解が示された理由が明確ではないという点です。問題があれば、そのどこに問題があり、なぜその解決策を講じたのかという説明がなければなりません。二つめは、各機関や寺院が判断するというのは、これまで明らかにされてきた「新しい領解文」の責任の所在を各機関や寺院に投げ出したということではないでしょうか。
 しかし、審議するなかで、得度習礼での唱和は継続。各種印刷物への掲載も継続、さらに中央仏教学院での「新しい領解文」の講義も止めることはないことを明らかにしています。その一方で、勧学・司教有志の会などが強く要望している、「新しい領解文」の取り下げについては、一切言及することはありませんでした。

② あそか花屋町クリニック閉院について

 二〇二一年六月、本願寺北境内地内にあったあそか診療所が、京都教務所の東側に、新たにあそか花屋町クリニックとして開院しました。ところがそれが突如、本年三月末にて閉院することになったというのです。クリニック新築に要した建築費及び開院後三年間の運営助成のためのに、合計一億六千七百万円を費やしています。
 この件については検証が行われていますが、令和五年十一月二十日付で「ビハーラトータルプランの検証する専門部会」から中間報告が出されています。そのなかの【その計画内容の妥当性】のところで、次のように記されています。
 「まず現状のクリニックの立地条件としては、駅前や往来の多い表通りに位置していない。無床型のクリニックの患者は近隣の方が徒歩で通院されることが大半である。しかしクリニックを中心とした一キロメートル半径には三分の一以上の敷地を寺院や寺院関連施設、ホテル等で占めており、住宅地の割合が少ない。そのうえに、マンションも少なく人口が集中する建築物もさほど多くない。また夜間診療・土日の診療を行う医療機関もあり、診療所の数は決して少なくない地域である。通常、このような立地条件において、クリニックを新設することは稀である」と。
 全国の寺院、ご門徒からの浄財を使い開院されたクリニックですが、計画時点において、すでに多くの問題を抱えていたことがわかります。その責任の所在について多くの議員が問いただしましたが、明確にはなっていません。「建物については現存しており、宗派財産としての一つとなるが、閉院にいたったことについては、宗派としての損失となる」が総局の回答でした。今後の検証委員会の最終報告書を待つしかありません。

③ 本願寺北境内地の活用について

 宗派は京都市内に十八件の建物を所有しています。そのなかには、本願寺旧門徒会館、国際センター、学林寮などの建物は法定耐用年数の五十年を超えているものもあります。しかしそれらの物件には減価償却費や建物積立金を計上してきませんでした。つまり修理や除却や建て替えをするにもその資金が事前に準備されていないということです。
 これから先も伝道教化のための施設は必要であるし、現在稼働している伝道本部や研修施設等の諸施設を維持するためにも、その資金の確保を考えなければならないというのです。そのため、本願寺北境内地において、資金確保のために収益性を重視する事業を進めようと計画されています。そのような方向性が示されるなか、二〇二四年一月に出された「北境内地事業方針等策定委員会答申」では定期借地権を設定して計画提案者に事業を行わせる案が出てきています。今後、総局がその答申をもとに、宗会に事業方針を示し、宗会が意見具申を行い、良とされれば整備事業の提案募集を行う予定となっています。
 ただ、北境内地の有効活用については、収益事業を行うことをも含め、今後も宗会だけではなく、宗門内でも議論が起こることが予想されます。
 なお、この北境内地は一九四九年に旧門徒会館あたりの土地を取得し、それ以降も部分的に取得を進め、一九九〇年に北境内地の八割にあたる土地を、そして最終的には二〇〇六年に至るまでその拡充をはかり、現在に至っています。

総長選挙

 池田行信総長は、三月八日の本会議で全議案可決、承認を受け辞任されました。その理由は「予算、宗務の基本方針が可決、承認されてその職責を果たした」と、宗務に一段落がついたということでしょうか。そこには、昨年五月に総長就任以来、「新しい領解文」をめぐって開催してきた教区学習会での問題点や混乱の責任にはまったく触れられることはありませんでした。
 その後、ご門主は総長候補者に、池田行信氏と荻野昭裕氏を指名され、全宗会議員の投票による総長選挙が実施されました。
池田氏は総長を自ら辞されたばかりであり、荻野氏は池田総局の筆頭総務でしたので、ご門主の意思はあきらかに池田総局の継続ということでしょう。それ以外の選択肢を示されませんでした。
 投票の結果は、

白票   34票(45%)
荻野昭裕 27票(36%)
池田行信 13票(17%)
無効   1票(1%)

 有効投票数(白票、無効票を除いた票)のうち、最高得票者が総長となりますので、萩野昭裕氏が新しい総長に就任されました。
 荻野新総長は就任にあたり議場での挨拶で「議決された宗務の基本方針と予算を粛々と執行していく。ただ白票の意味は十分に承知しており、たくさんの意見を聞きながら宗務を執行していきたい」と述べられました。ただ、新しい「領解文」を取り下げることはないとの意向も示されています。
 後日、荻野総長は次の総務・副総務を選出し、荻野総局が始動しました。

総長 荻野昭裕(68)和歌山教区浄國寺(和歌山県海南市)
総務 日谷照應(74)石川教区徳照寺(石川県七尾市)
総務 三好慶祐(56)福岡教区眞浄寺(福岡県小郡市)
総務 弘中貴之(53)山口教区乗円寺(山口県防府市)
副総務 加藤尚史(59)熊本教区法雲寺(熊本県玉名市)
副総務 大河内隆之(76)宮崎教区願心寺(宮崎県都城市)

おわりに

 私が宗会議員になって十日もたたないうちに宗会が始まりました。当初二日間の予定であった通告質問が、「新しい領解文」問題で紛糾し、三日間となったこともあり、厳しい日程となりました。また、最後に総長選挙もあり、最終日も終了が夕方になってしまいました。それでも、どの場面においても張り詰めた雰囲気の中、宗門のゆくえを定めてゆく宗会の役割の重要性を強く感じました。
 そのなかで、宗会議員としての役割を果たす上で、努めてゆかなければならないことを感じましたので、以下三点挙げ、今後の課題としたいと思います。
 まずは教区内の多くの声を聞き、知ることです。教区代表ですから、教区の実態を知らずして宗会に出るということなどあり得ません。そのことからも、教区の特徴や問題点、さらには各組、各寺院の諸情報を把握することに努めたいと思っています。できる限り教区内各地に足を運びたいと思っております。また、もしお気づきの点があれば、遠慮なくご意見等をお聞かせくださいますようお願いいたします。それに加えて、他教区の実態、さらには宗門全体の実態を広く知る必要性も感じています。
 二つめには、宗務の実情についても正しく把握するということです。私はまだ議員になって時間がありませんのでその役割を与えられてはいませんが、議員はそれぞれに各種委員会に出席し、協議、議論を重ねておられます。その方々からも情報をいただきます。それだけではなく、しばしば宗務所にも足を運び、職員の皆さんから現状を聞かせていただく必要性も感じています。そのことを通して、宗門の情報公開が十分になされていないことも明らかにしたいと思っています。閉じられた宗門では、正しく判断するための情報が得られません。組織の民主的運営の基本は、「情報公開」であり、「説明責任」を果たすことなのですから。そのための方途も探っていかなければならないことも、今後の大きな課題です。
 三つめは、宗門法規の問題点を指摘し、それを変更することです。これはまさに宗会でしかできないことです。それは、石上総局以降、「新しい領解文」問題に限らず、あちこちで噴出してきたことでもあります。宗門内の民主的運営というにとどまらず、ご法義第一であるべき宗門運営のためにも必要なことです。宗門は宗門法規に従って運営されていますが、それによってご法義が曲げられたり、一部の人たちの暴走になってしまっている・・・という見方がされるようでは、その宗門法規そのものに問題があるということです。そのための学びや努力も続けてゆかなければならないことを感じています。
 以上、今回の宗会報告とさせていただきます。

西光義秀(さいこうぎしゅう)



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