息子へ #手書きnoteを書こう
息子へ
あなたが生まれた日のことは、今でもはっきりと覚えています。
予定日は8月21日。「初めてのお産は予定日よりも遅くなる」って聞いていたから、おかあさんはまだまだだと呑気に構えていたのでした。
直前に行った妊婦検診でも、先生には『まだですねー』と言われて安心していたのです。
毎年8月15、16、17日は三日間続く地元の大きな夏祭りで、農兵節のパレードやらシャギリの山車、源頼朝の旗揚げ行列に流鏑馬と、三日間それぞれにいろんなイベントがあって、何万人もの人出があります。特に、夜の花火は壮観です。
あれはお祭りの初日の8月15日、実家から遊びがてら様子を見に来てくれていたおばあちゃんを、花火を見ながらおとうさんと二人で送って行った帰り道。
『ここから花火が良く見えるよ』と言うおとうさんと寄り道して、しばらく花火を眺めていたのでした。
家に帰って寝ていたら、突然変な感じがしてトイレに行くと、下着がピンク色になっていて。
おかあさんは初めてのことだったけれど本で読んで知っていたから、「これがおしるしなのか!」と嬉しくて、思わずおとうさんを呼んで見せたっけ。
それからすぐに陣痛が来て、おとうさんは時間を計り、病院に電話して、着替えたり荷物を支度したりと、急に忙しくなりました。
陣痛が10分間隔になるのを待って、病院に行きました。夜中の2時でした。
病院に着くと、先にいろんな処置をしてから陣痛室に入ります。
おかあさんは痛む腰をおとうさんにさすってもらいながら、ウンウン唸っていました。時々寝落ちしては手が止まってしまうおとうさんを怒っていたっけ。夜中に起こされたんだもの、眠いのは当然よね。あの時は怒ってごめんね、おとうさん。
途中で何回も看護師さんが様子を見に来るけど、そのたびに『まだ子宮口が開いてません。陣痛が弱いです』って言われて、まだこれ以上痛くなるのかと、おかあさんは泣きそうになっちゃった。
そのまま朝になり、おとうさんは一旦実家のおばあちゃんを迎えに行き、おばあちゃんと交代して家に眠りに帰ったのよ。
子宮口が開かないまま、陣痛微弱のまま夕方になり、おとうさんも戻って来て、おばあちゃんと二人で腰をさすってくれてました。
看護師さんが見に来て、『まだ陣痛は弱いけど、このままだとちょっと危ないので、もうお産しちゃいましょう』と言って分娩室に移動したの。
『おとうさんもおばあちゃんもどうぞ入っていいですよ』って、その時には来ていたもう一人のおばあちゃんまで、三人とも分娩室に入れてもらって、おかあさんがあなたを産むところを見ていたんですよ。
おかあさんは本当は、こっちのおばあちゃんが入るのは嫌だったんだけどね。
それからおかあさんは頑張って頑張って頑張って。
『ほら、赤ちゃんの頭が見えてきましたよ!おとうさん、見ますか?』って看護師さんに言われて、おとうさんはあなたが出て来るところを見ていたの。そして、あなたの頭を包んでいた膜を、破ったんですって。
そして最後の一踏ん張りで、あなたは産まれました。夜の9時過ぎ。
20時間もかかりました。
でも。泣き声がすぐには聞こえなくて。どうしたのかなとおかあさんはもちろん、みんなも心配になりました。
そうしたら、看護師さんが『羊水をたくさん飲んじゃっていたから、胃洗浄をします』と言いました。
あのまま陣痛が強くなるのを待っていたら、やっぱり危なかったみたい。
胃洗浄をしてもらって、そのままあなたは保育器に入りました。
それでも何とか無事に生まれてきてくれてありがとう。
おかあさんは本当に嬉しかった。
幸い保育器に入っていたは一晩だけで、おっぱいも良く飲んで、あなたはすくすくと大きくなりました。
少し大きくなってから、あなたは発達障害であることがわかりました。脳の機能に一部障害があるのです。
人とのコミュニケーションが取りづらい、空気が読めない。
病院では「生きにくい」と言われました。
おとうさんとおかあさんにとっては、なかなかに大変なことでした。当時は発達障害について一般にはほとんど知られていなくて、幼稚園や学校の先生ですら知らない、わからない。
おかあさんは仕方なく、本屋さんに行っていろんな本を買って勉強しました。
わからないなりに、こういうときはこうしよう、こうなったらこうすればいいんだ、この方法はどうかなと試行錯誤で毎日を過ごしていました。
あなたの障害がわかったとき、病院の先生に、
『おかあさん、あなたも苦労したね。大変だったでしょう。でもあなたがやってきたことは、間違いじゃないよ。経験からわかることは大きいね』
と言ってもらえて、救われた思いがしたものです。
学校の先生も時々病院に一緒に行ってくれて、学校での対応の仕方を学んでくれました。
病院の先生、学校の先生方には、大変お世話になりました。
前に聞いたことがあります。
《育てるのが大変な子どもは、それができる家の子供に生まれる。そういう親の元に神様が授けてくださる》
と。
あなたがうちの子どもで、私の子どもで本当に良かった。あなたがいたから、私はいろんなことを学ぶことができたんです。
あなたは優しくて素晴らしい息子です。これは自信を持って言えます。
あなたももう25歳になりました。あとはいいお嫁さんが見つかるといいのだけど…
おとうさんとおかあさんは、あなたより先に逝きます。そうじゃなければどんなにいいか。だけど、どうしたって先に逝っちゃうんです。
あなたを置いて先に逝く時、あなたのことを託せる人が、あなたと一緒に人生を歩んでくれる人が側にいて欲しい。
できれば孫にも会いたい。
この歳になると、そんな欲も出てきてしまいます。
まあ、こればっかりは気長に待つことにしますね。
これから先、あなたにはいろんなことがあるでしょう。
楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、辛いこと。
どうか、それを乗りこえて、幸せな家庭を築いてくれることを願っています。
私の子どもに生まれてくれてありがとう。
おかあさんより
◇◇◇
だいすーけさんの 第2回「#手書きnoteを書こう」 に参加させていただきました。ありがとうございました。
今回は、今まで息子には話したことのない、産まれた時の様子から、今の私の気持ちまでを、息子への手紙という形にしてみました。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
2020.1.14 りょう
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